第11話 「早我見」と【宿世渡】①
ベッドから降りて、ダンボール箱の下から現れた謎の空間をのぞき込む。その中に照明はない。稀瑠は、延長コードを何本も編み合わせて作られた即席のロープを引っ張り出し、その端を数ヶ所にくくりつけて穴の中へと垂らした。深さは二メートルくらいのようだ。
「これで降りられるぜ。っあぁ、このロープならちゃんとポコ彦でテスト済みだ。切れないから安心しろよ」
「ポコ彦って……
「よく覚えてんじゃん。タヌキ腹ポコ彦……あいつ、身長も伸びてたけど腹はもっと成長してたぜ」
正しくは
「高梨さん、その下品な言いようをどうにかしてくださる? 不快だわ」
「僕が生まれた時代じゃ体格のいい人間は立派な戦力だ。そう馬鹿にするもんじゃないぞ」
「それがなぁ、いまは
「れ、稀瑠、それはちょっと」
「
弓丸が指折り歳を数え出したが、何の歳を数えているのだろうか。存在の年齢としては八百、体の年齢が七つだったかと思うが、残るは……精神年齢くらいしか思いつかない。
「ところでさぁ。さっきのサガミンのあれ、どういうわけ?」
リュックに懐中電灯や医療品を
「サガミンはさ、別に
「それは……えっと」
正直、私にもはっきりしたことは分からない。あの刀を手にして、弓丸から血をもらって、化生に深く関わっていくうちに、じわじわと何か得体の知れないものが私の中に目覚めていった。気づいた頃には、自分の中にもう一人の誰かがいるような感覚すらあって。
「なぁ、君の……」
そこに、弓丸が割り込んできた。いつになく真剣な顔で、考え込むような仕草で。
「〈サガミ〉って
「
「……そうか。他に、何か変わったことは」
「えっ、と」
変わったこと。あまりにもたくさんあって、何から話せばいいか迷ってしまう。
「なんて言えばいいか分からないんだけど……前の私じゃない、みたいな時が、最近よくあるの」
「……じゃあ、ここ数日、心臓が痛くなったりしたことは?」
「えーっと……今日の朝、鎮場神社の中で急に心臓が
「そうか……」
弓丸が、頭を抱えてその場に座り込んだ。そのまま顔を上げることもせず、しーんと黙りこくっている。当然、そんなただごとでない様子に、私含め三人とも彼の方へと目を向ける。
「あの、弓丸……? 説明してほしいなー、なんて……」
そう話しかけると、弓丸はふらふらと顔を上げて私の元に歩み寄り、そしてまた、床の上に座り込んでうなだれた。何を落ち込んでいるのかは分からないが、そんな態度を取られるとこっちまで不安になってくる。弓丸は下を向いたまま、悪い点数のテスト結果を報告する時のように話し始める。
「すまない、藍果……君にだけは、あの刀を渡しちゃいけなかった。血を混ぜたことも、化生や禍者と接触させてしまったことも、あの洞穴に入れてしまったことも……全部、間違いだった」
「ゆ、弓丸……?」
その小さな肩に手を伸ばせば、彼はがばりと私を見上げた。眉尻を下げて、今にも泣き出しそうな顔で。
「『早我見』とその刀について、君に説明しなきゃいけないことがある。他の二人も聞いてくれるか」
***
「僕は
「うん」
「聞いた聞いた。
「
「オメーは一言多いんだよ」
「いま私をオメーと呼んだんですの?」
秘密の通路にダイブどころではなくなってしまったので、私たちは今、四人並んで保健室のソファに座っている。一応全員座れる分だけのスペースはあるのだが、
「……できるだけ手短に話すから聞いてくれ。いいか、まず
「なんかそれ、あんまよくねーんじゃねぇか? どういうメリットがあんだよ」
「メリットは色々ある。相手の家の子が自分の家の孫になったりするわけだから、殺し合いや裏切りがそうそう起きなくなるだろう?
「で、起きたんですの? 殺し合い」
次に軽口をたたいてきたのは
「話を聞いてなかったのか? 僕の父上だって早我見の当主と
「へぇ……なかなか強固な絆がおありでしたのね」
「馬鹿にしてるのか? まぁいい、これで家の話は一旦終わりだ。それでその、刀のことなんだが」
弓丸が私の持っている短刀を指差す。今は
「あの
「おんぶに抱っこで」
而葉さんがまた茶々を入れる。而葉さんは弓丸に対して丁寧な態度を取る方だと思っていたけれど、実は
「……運んでもらってしまったというわけだけど。思えば、あの時にはすでに変化が始まっていた、ということなんだろう」
弓丸が私の手から短刀を取り、「まばたきしてみて」と言う。言われた通りにして目を開くと、短刀は私の手元へと戻っていた。
「えっ……えっ!? 今こっそり置いた?」
「いいや」
「うぉぉすげぇ! サガミン、別にこいつは何もしてなかったぜ。実はマジシャンなのかも」
こいつ、という言葉に弓丸はチラッと稀瑠を見たが、特に触れることなく話を続ける。
「……もう、その刀は君に
「同じように、ということは……何か代償がありそうですわね」
「……も、もしかして、このままだと
ヤドリ
「このまま憑かれた状態を放置すれば、やがて身を滅ぼすという点は同じだ。ただ、細かいところは違う。そもそもこの刀が君に”
弓丸が、短刀にそっと手を重ね、金色の
「この刀は、〈
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