第2章 ドクロ蜘蛛の傷痕
第1話 パンドラの文箱
「弓丸、いるんでしょー?」
「ねぇ、
返事はない。おとといとはうってかわって、さっぱりと晴れた空、
ヤドリ
「弓丸ってば。今日も
相変わらず返事はない。というか、気配も感じない。
そして弓丸。本当は短刀の中に入ってもらうつもりだったのだが、とある事情でそれが難しくなってしまった。あの洞穴からは、私の家より鎮場神社の方が近い。そういうわけで、寝こけてしまった弓丸をおんぶに
「返事しないなら勝手に開けるよー……?」
——弓丸を除く
彼は、あの洞穴に入ることに強い拒否反応を示していた。それはそうだろう。あの〈己を
でも。
その記憶を「忘れていた」というのは、一体どういうことなのだろうか。普通、そんな出来事があれば、忘れたくても忘れられないはずだ。
やはり彼には謎が多い。一つ何かが分かっても、また分からないことが増えてしまう。
「弓丸さーん……?」
ゴトゴト、と戸を細く開けて首を
「……困ったなぁ」
あの、例のガラガラ鳴らす
「お
このお
「……ん?」
棚の二段目。文箱のフタが
「なんだろ、これ……」
たくさんの白い
「や、勝手に
手を
そう考えて棚に背を向けたとき、ギュッと胸が
「い……っ!?」
否応なくその場に倒れ込み、うめきながら横を見た。散らばったいくつもの封筒と、ひっくり返った文箱。
ギリギリと心臓を
「はぁ、はぁっ……もど、さなきゃ……」
その手が、止まる。
「え……」
封筒の表には、
「
さすがに中身を確かめるほどの勇気はない。ゆうに三十通は
なんとか封筒を拾い終え、残っていたもう一枚の紙切れへと手を伸ばす。
「こ、れも……何……?」
和紙のようにざらざらとしていて、厚みのある、画用紙を破り取ったような
いわく、「此者已屠芳帖、而以呑喰岐依邪神也」と。
読めない。読めないのに分かる。これは、見てはいけないものだった。
他の紙束も
うん。
とりあえず、当面は見なかった
だってだって、どう切り出せばいいというのか。ただでさえ何を考えてるのかよく分からない相手なのに、こんな明らかに深刻そうなこと聞けるわけがない。もし、もしも、
おとといの、日向さんの件を思い出す。あの時、弓丸は確かに命を
という感情は、少なくとも高校生の私にとって、完全にコントロールできるものではない。弓丸が何もかも話してくれるオープンな性格なら、もう少し気楽に接することができるかもしれないけれど。あの秘密主義とそっけない性格が、どうにも色々と困る。そこが
「——弓丸にもらった血が、原因なのかな」
腹に手を当てれば、当たり前のように伝わってくる肉体の
穴が空いた腹部を修復させるためにもらった血の量は、足の怪我を治したときよりもずっと多い。何らかの副作用……あるいは
甘く見ていた。普通に考えて、何も
「もう少し……
こんなことを伝えたら、きっと弓丸は自分を責めてしまう。あの
「それにしても、私……なんで、あんなこと思いついたんだろう。別に、瀬名みたいに頭がいいわけでもないのに。自分を、まるで
あの時、私は迷うことなく自らの体を差し出した。自分の身を簡単に傷つけた。目的を達成するための
弓丸がやっていたことと同じだ。
私の怪我を治したとき、〈
そんな弓丸の姿を見るたび、やめてほしいって、簡単に傷つけないでほしいって、あんなに思っていたはずなのに。どうしてだろう、私も同じことをしている。自らの身をかえりみない
「もしかして、私と弓丸は、何か
考え込んでいると、開けていた戸の
「あれ、
「えっと、うん。お邪魔してまーす……」
お社に入ってきた弓丸は、水干を身につけていなかった。
弓丸は、私があの文箱の中身を見てしまったことには気づいていないようだった。何となく気まずくて、そっと目を逸らす。
「すまない、裏の
「何の用って……そうだなぁ」
マガツヒメ、と日向さんが言った
きっと全部は聞けない。けれど、知りたいことがたくさんある。
「おいしいお茶屋さんがあるんだけど。
そして、現在進行しているらしい〈旧五年一組メンバー
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