現代勇者

空っ風

第1話 プロローグ: 目覚めの朝

朝の光がカーテンの隙間から差し込み、目を覚ました佐藤勇(さとう いさむ)は、頭を抱えながらベッドから起き上がった。毎朝繰り返されるこの光景は、彼にとっては心地良いものでもあれば、どこか物足りなさを感じさせる瞬間でもあった。




「勇、早く起きないと遅刻するわよ!」


リビングから聞こえてくる母親の声に、勇は大きく伸びをしてベッドから立ち上がった。今日は特に大事なテストがある日だ。それに、幼馴染の綾瀬魔央(あやせ まお)も、彼と一緒に学校に行くのを待っているだろう。


急いで制服に着替えた勇がリビングに向かうと、そこにはいつもの光景が広がっていた。母親が朝食の準備をしており、父親は新聞を広げている。その光景の隅で、幼馴染であり、魔央が、すでに座って待っていた。


「おはよう、魔央。今日も早いな」


「おはよう、勇。毎回私を待たせるのはやめてくれる?」


彼女の声には冷たさが感じられるが、その奥に隠された心配りを勇は知っている。現代では彼女は天才プログラマーとしてその名を馳せているが、勇が少しばかり鈍感なのをいいことに、ツンとした態度をとる魔央だが、その行動はどこか不器用な優しさで溢れていた。


朝食を済ませ、家を出ると、二人は並んで学校へ向かった。通学路には、すでにいくつかの学生が集まり、友達と談笑している姿が見える。勇と魔央は、昔からずっと一緒にいた幼馴染の間柄だ。幼馴染としての関係が今でも続いていることに、勇は不思議な安心感を覚える。


「勇、最近何か変な夢とか見てない?」


魔央が不意に尋ねてきた。その質問に勇は一瞬立ち止まった。勇は顔を曇らせながら首を横に振った。


「いや、特に何も。ただ、なんとなく……あの頃のことを思い出すことはあるけど」


魔央は彼の横顔を見つめたが、それ以上は何も言わなかった。


そんな時、背後から陽気な声が聞こえてきた。


「よお、勇!また魔央ちゃんを待たせたのか?」


その声の主は、武田修斗(たけだ しゅうと)だった。彼は、現代ではスポーツ万能の大学生として活躍している。勇より一つ年上の修斗は、いつも元気で、まるで兄貴のように勇に接してくる。


「いや、そういうわけじゃ……ただちょっと寝坊しただけで」


勇が苦笑いを浮かべると、修斗は大きな笑い声を上げた。


「相変わらずだな。でもまあ、寝坊くらいは許してやるよ。俺たちはずっと仲間だからな!」


その言葉に、勇は心の中で何か温かいものを感じた。昔からの仲間たちが、こうして今も彼のそばにいてくれること。それが勇にとって、唯一の支えとなっていた。


学校に着くと、それぞれのクラスへと向かう二人。勇は教室のドアを開けると、既に席についているもう一人の幼馴染、斉藤涼(さいとう りょう)と目が合った。彼は今ではビジネスの世界でその才覚を発揮している。彼は軽く手を振り、にやりと笑ってみせた。


「おいおい、また寝坊か?寝坊癖は直らないんだな」


「うるさいな、りょう……俺はただの高校生だよ」


そんな軽口を叩き合いながら、勇の日常が始まる。しかし、その背後には、日常に対する漠然とした不安が薄らと影を落としていた。

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現代勇者 空っ風 @kirosu

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