08.悪役白豚王子の極悪暗黒微笑

(まずはそうだな、イメージ改善にコミュニケーションを図ろう。笑顔で対話するのが基本だよね!)


 そう思い立ち、僕は側にいる従者達へ話しかけようとするのだが、――


「……あ、の……」


 ――いざ、話しかけようとすると言葉が何も出てこない。


 何か話しかけねばと思い焦るのに、従者達と何を話していいのか、何を話すべきなのか、よく分からなくなってしまって、途端に僕はもじもじとしてしまう。


「……その…………えっと……」

「「「?」」」


 突然、もじもじとし始めた僕に従者達は怪訝けげんな表情を浮かべている。

 普段しないことをするというのはとても緊張するもので、僕は一呼吸置いて気持ちを落ち着かせて、思い切って従者達に話しかける。


「……ふぅ……ふぅ…………て、て、手間を掛けさせてしまった、ね……」

「「「?」」」


 普段とは違う僕の態度に驚いて、従者達は警戒しているようにも見える。

 僕はどもりながらも精一杯話しかけ、衣装を汚して手間を掛けさせてしまったことをびて、世話してくれることへの礼を言う。


「……き、君達には、感謝しているんだよ…………い、いつも、ありがとう……」


 ちょっとどもりすぎて気持ち悪い感じになっちゃったけど、僕は言い切れた達成感で嬉しくなって、従者達にニッコリと満面の笑みを向け――


「「「ひっ!?」」」


 ――ると、何故か従者達は小さな悲鳴を上げて、怯えた表情を浮かべ、僕から後退ってしまった。


(……えぇ? ……何でぇ???)


 従者達の謎な反応に僕が首を傾げると、鏡に映った自分の表情が視界に入る。

 僕がニッコリと爽やかに笑ったつもりであった表情は、“ニチャァ”と効果音が出そうな不気味な表情だったのだ。


(うわぁー! こぉっわっ!! こ、こ、これは顔面凶器!!?)


 それはもう、凶悪極悪人が何か悪事を企んでいるだった。

 その不気味さに、ゾワゾワゾワゾワと我ながら鳥肌が立ってしまったほどだ。


(……なんか、ごめん。……ほんと、すまんかった。……)


 悪感情を持っている相手から唐突に態度を変えられ、意味深なことを言われて、こんな凶悪極悪人顔で暗黒微笑されたら――そりゃあ、戦々恐々になるなと、我ながら納得してしまった。


(そういえば、ゲームの白豚王子が爽やかに笑っているのなんて見たことないし、想像もつかないな……)


 ゲームで見たのは、悪事を企むニヤリと嗤う含み顔か、人の苦悩を見てニタニタと嘲り笑う歪んだ顔だけだった。

 今世の記憶を思い返してみても、12年間生きていて『嬉しい』とか『楽しい』といった明るい感情で笑った記憶が無い。

 それでは笑うのが下手でも仕方ないかと、気を取り直して僕は鏡に映る自分の顔をじっと見つめた。


 笑わずに凝り固まってしまっている表情筋を、むにむにとマッサージしてみる。


(あ、もちもち肌ちょっと気持ちいいな。マシュマロ肌だ。……顔は凶悪極悪人だけどね、ふふ。……ニチャァアー……)


 視界の端で、従者達がまたビクッとしている。

 そんな反応を見ると、イメージ改善するのはなかなかに難儀なんぎそうだなと僕は思いながら、一生懸命に頬っぺたをむにむにもにもにする。


 夢中でマッサージしていると、メイド長がまた大きな咳ばらいをして、鋭い目でギロリと僕を見下ろして言う。


「おほん! ……では、準備ができたようですので参りましょう。本日は王国中の要人が一堂に会する大切な式日でございます。分をわきまえて、くれぐれも粗相そそうの無いように自戒自重じかいじちょうしてくださいませ! ……いいですね!!」


 メイド長に厳しくいましめられて、言われるままの勢いで僕は頷き返事をする。


「……あ、はい。……」


 この日は、アイス・ランド王国の国王誕生祭が行われる式日だった。

 国中から要人が一斉に集まり、国王誕生日が盛大に祝われるのだ。


 僕も一応は王子なので、式へ出席することになっている。

 普段なら多少汚れても放置される衣装だが、王宮へ入るため、小綺麗に着飾らせられていたみたいだ。



 ◆

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