06.フランボワーズ・アイス・クリーム

 ファンシーなデザインの小さなお城みたいな建物が見えてきた。

 白亜の城とでも言うのだろうか、乳白色の城壁にピンクやパープルなどのパステルカラーの装飾が施されていて、可愛らしい雰囲気がある。

 何となく美味しそうな色合いでもある。


(ああ、そうだ。僕はこの離宮に住んでいるんだった)


 僕は今世の記憶を思い出しながら、メイド長に続いて離宮の中へと入って行く。

 連れて行かれるまま大きな扉を潜り中に入ると、そこは豪華な内装の部屋だった。


(ここは、僕の部屋だ。奥が衣装部屋になっているんだ)


 部屋の更に奥の扉を入り、色取り取りの衣装がずらりと並ぶ部屋に到着した。

 メイド長がパンパンと手を叩いて合図すると、二人の衣装係が直ぐに出て来て僕を取り囲む。


 衣装係は慣れた手付きで――否、わりと雑な手付きで、僕の衣装を着替えさせていく。

 引っ張られたり、押し込まれたり、締め上げられたり、ぐるぐる回されたり――よく分からないけど、僕はもみくちゃにされる。


(えぇ? 着替えって、こんなに大変だったっけ!? あわわわわわわ! 目が回るうううううう!!)


「……目が、回って……気持ち、悪ぅ……うっぷ! ……」


 ぐるんぐるんと回転する視界に、吐き気が込み上げてきて、僕は必死に耐える。

 衣装係達は粗方着替えさせ終わったのか、部屋の一面にある鏡の前に僕を立たせて、装飾品の取り付けと最後の仕上げに取り掛かる。


「……やっと、ぜぇはぁ……止まった、ぜぇはぁ……ぜぇぜぇ………………ふぅ」


 回転していた視界がやっと落ち着いてきて、僕は安堵して一息吐いた。

 衣装の仕上げを終えた衣装係達が目の前から捌けて行き、僕は鏡に映る自分の姿を目にして驚愕きょうがくする。


「!!!??」


 そこに映っていたのは、僕が前世ではまっていたゲームに登場する人物の姿だったのだ。


 腫れぼったい分厚いまぶたの糸目、色褪いろあせたような淡い桃色の髪、人より少し尖った耳、脂っぽくテカりはち切れそうに膨らんだ白い肌、丸々と肥え太った豚のような体型、醜い容姿。



「……白豚……王子……」



 豚のような醜い容姿をしていることから、ゲーム内で通称・白豚王子・・・・と呼ばれていたキャラクター。


 そうだ、僕は『白豚王子・・・・』のワードを聞いて前世の記憶を思い出したのだった。

 鏡に映る自分の姿を見て、今世の自分が一体何者なのか、僕はようやく把握はあくしたのだ。



 僕は、魔法使いの国(アイス・ランド王国)の第一王子。

 フランボワーズ・アイス・クリーム(12歳)。



 自分が何者なのか把握した僕は、ゲームの内容を思い出して、更に愕然がくぜんとして狼狽うろたえる。

 僕は動揺のあまり、項垂れならがブツブツと呟いてしまう。


「……どうして……どうして……どうして……」

「「「?」」」


 そんな僕の様子に従者達はいぶかしげな目を向け、聞き耳を立てる。

 僕は衝動が抑えられなくて、思わず天を仰いで大声で叫んでしまう。


「……よりによって、何で! 白豚王子なんだあぁぁぁぁーーーーーー!!」

「「「!?!?!?」」」


 突然の叫声に、従者達はビクーッと吃驚びっくりして僕から後退る。

 従者達が目を見開いて僕を凝視ぎょうししているが、そんなことを今は気にしてなどいられない。

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