いつかの縁

有里 ソルト

第1話

縁とは思いもよらないところで繋がるものだ、と青年――アヤメは思う。




「周りを見て歩かないと危ないぞ?」


外を歩いていた時、すれ違いざまにぶつかってきた中学生くらいのセーラー服の少女。

尻もちをつき、さらには持っていた本を全て落とすというなかなかに悲惨な状況だが、そんなことなんてお構い無しに少女は惚けたようにアヤメを見つめている。


――あぁ、またか。


女性からの好意の視線に慣れっこなアヤメは、固まっている彼女の代わりに本を拾ってやる。


どれも小説のようだ。何冊か手に取ってまとめたところで、ある本に既視感を覚えた。




「……あんた、名前は?」





そう、尋ねずにはいられなかった。

何故ならこの本の持ち主を『知って』いるからだ。


正確にいえば、今から五十年後、この本が誰の手に渡っているかをアヤメは知っている。


少女は首を少し傾げる。

いきなり名前を尋ねるのはよくなかったか、とアヤメが再度口を開こうとしたところで、彼女から返ってきた言葉は意外なものだった。




「ごめんなさい。私、耳が聴こえないんです」


たどたどしい発音でそう言った彼女は、「本、拾ってくれてありがとう」と柔らかく微笑んだ。

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