第九十八話 ミッチーと近衛騎士の訓練

≪前田 満 視点≫

 僕達のやる事が明確になり、僕達は日本に帰るために、それぞれが頑張って行く事になった。

 僕に出来る事は、強くなって皆を守る事だけだ。

 彩美あやみさんとは真逆でコミュニケーション能力は皆無だし、美佐子みさこさんの様に武道を習っていた訳でもない。

 桃花ももかさんのように何かを作れる事もなく、鈴夏りんかさんの様に優しかったりもしない。

 何も出来ない僕だからこそ、皆を守れる力が欲しい!


「…よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくな!」

 僕は今、広い訓練場へとやって来ていた。

 遠くには案山子の様な的が幾つも立っていて、そちらでは魔法使いや弓使いの人達が訓練をしている。

 僕はその反対側の方で、ソルバーヌ王国の近衛騎士団の人達に僕の訓練をして貰える事になっていた。

 近衛騎士団と言えば、ソルバーヌ王国の王族を守る人達だから、当然精鋭揃いだ。

 そんな人達に訓練して貰えるのはとても光栄な事だし、感謝している。

 何故こんなすごい人達に訓練をして貰える事になったのかと言うと、彩美さんがエルバート王太子に直接頼んでくれたからだ。


 彩美さんがいなかったら、こんな事にはなっていなかったし、ここまで辿り着けなかっただろう。

 逃げ出して町に行った時も追手が来た時も、どんな相手だろうと和やかに話し合い、僕達の有利になる様にしてくれている。

 この世界に来た当初、僕一人で何とかしようとしていた自分がとても恥ずかしいし、僕一人だけだと何も出来ずに魔物と戦わされ、死んでいたのは間違いない。


 美佐子さんは空手の使い手で、魔術師を選んだ当初は間違いだと思っていた。

 しかし、戦える美佐子さんが後衛にいる事で、戦えない皆を守る事が出来ている。

 それだけではなく、魔法の熟練度上げと言う地味な事もずっと続けている。

 新しく覚えた魔法も使いたいだろうに、ずっと一つの魔法を使い続けている美佐子さんには頭が下がる。


 桃花さんは、錬金術師と言う生産職を選んで様々な道具を作り出し、僕達の逃亡生活を支えてくれている。

 それだけではなく、僕なんかより遥かに頭の良い桃花さんは皆から意見を求められ、その度に的確な意見を伝えてくれる。

 桃花さんがいるから、皆が自信を持って行動出来ている。


 鈴夏さんは、僕達と合流してから、ずっと僕の傍に居て支えてくれている。

 僕が左腕を失った時も献身的に尽くしてくれたし、大図書館で調べものをする時も、他人と上手く話せない僕に代わって色々やってくれた。

 僕は鈴夏さんの厚意こういに甘えてばかりなので、いつかは恩返しをしたいと思っている。


 僕には勿体なさすぎる四人の恩に報いる為にも、僕はここで強くならなければならない!


「君の実力を見せて貰うから、全力で戦って見てくれ!」

「…はい!」

 僕は近衛騎士団の一人と、全力で戦う事になった。

 僕のメイスには厚手の布が巻かれていて、当たっても大丈夫な様になっている。

 近衛騎士の持つ剣は刃が潰されていて、当たっても切られはしないけれど、当り所が悪ければ死ぬ可能性もある。

 何故なら、僕はジェリーヌの訓練を受けてから防具を身に付けないようにしたし、今回も当然身に付けていない。

 近衛騎士の方はフルプレイトメイルを身に付けていて、僕の厚手の布を巻いたメイスが当たっても死ぬ心配はないだろう。

 念の為に寸止めはするつもりだけれど、僕にはそこまでの技術はまだ無いし、間違って当ててしまうかも知れないけれど、その時は治癒魔法を掛けて許して貰おうと思う。


「行くぞ!」

 お互いに武器を構えた所で戦いが始まり、僕は一気に間合いをつめ、メイスを振り下ろした!

 ガツン、ガツン、ガツン、ガツン!

 布を巻いているメイスと剣がぶつかり合い、鈍い音が響き渡る。

 基本はアルロレーネ王国で習い、それをジェリーヌの訓練で自分なりの昇華させてきたつもりだったが…。


「レベル40でもこの程度か?」

「…まだやれます!」

 僕の攻撃はやはり、真面目に訓練を続けて来た人には通用しない。

 それは、ブラッドリーに負けた時から分かっていた事で驚きはしない。

 むしろ、僕より強い事が嬉しいと思う。

 今出来る全ての事を、目の前の近衛騎士にぶつけて行った!


「よし、お前の実力は良く分かった。

 こちらの攻撃を避ける技術はとても素晴らしいが、攻撃が真っすぐで単調すぎる。

 攻撃の種類を増やし、相手をいかにして崩して行くかを教えていこう」

「…はい…よろしく…お願いします」

 近衛騎士は僕に対して、人との戦いの技術を丁寧に教えてくれる事になった。

 僕はその技術を一つ一つ頭と体に叩き込み、毎日毎日訓練を続けて行った。



≪近衛騎士 視点≫

「アルロレーネ王国より逃げ出して来た勇者達に、訓練を施して欲しい!」

「よ、よろしいのですか?」

「構わない、勇者達は悪人では無いし、恩を仇で返す様な事はしないさ」

「それならよろしいのですが…」


 エルバード王太子殿下が、我ら近衛騎士に勇者の訓練をするようにご命令して来た。

 勇者が我が国に来ている事は極秘で、王族と近衛騎士の極少数の者しか知りえない事だ。

 勇者が伝承通りならば、我ら近衛騎士でも勝てない存在となりえるし、その勇者を鍛えた後に我らに牙を向けられれば、我ら近衛騎士の役目を果たせなくなる。

 しかし、エルバート王太子殿下のご命令とあらば、我ら近衛騎士は従うしかない。


 訓練を受けるのは四名で、私は四人の同僚と共に、治癒師の男の子を担当する事になった。

 見た目は大人とは言えない子供で、俯いている様子から自信も無く、とても弱そうに見える。

 しかし、彼はレベル40の勇者で、油断は一切出来ない。

 先ずはレベル43の私が戦い、どの程度の強さか見極める事にした。


 速い!

 素早い動きから繰り広げられてくる攻撃はどれも速く、私は受けるに精一杯になる。

 治癒師だと馬鹿にしていた訳ではないが、少々驚かされてしまった。

 しかし、早いがその攻撃は単調で、慣れてしまえばどうにでもなる。

 勇者の攻撃を受け流し反撃を試みるも、私の攻撃は読まれていたかのように全て躱されてしまった。

 なるほど、勇者が鎧は不要だと言った理由が良く分かった。

 治癒師なので攻撃スキルは無いが、治癒師だから多少疲労してもみずからを治療して戦い続けられるし、これだけ強ければ普通の者では勝てないだろう。

 面白い!

 この勇者を私達で鍛えてやれば、魔王を倒せるほどの強さを得られるかも知れない。

 勇者達は魔王との戦いを望んでいないそうだが、勇者が今後歴史に残る様な事を成せば、私達はその勇者を育てたとして妻や子供に自慢できるな。

 そうでなくとも、エルバート王太子殿下の言う通り、我が国に恩返しをしてくれるだけでも良いと思う。

 ならば、私は鬼になって我ら近衛騎士の持てる全てを叩きこんでやろう!

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