第九十五話 温泉
≪ランレミール 視点≫
「国王陛下、ご報告申し上げます!」
余が午前の仕事を終え、天気がよいので庭の散歩にでも出かけようかと思っていた所に、部下が慌てふためいて駆け込んできおった。
散歩に行けずに苛立ちを覚えたが、部下に当たっても仕方ない…。
余は気持ちを落ち着かせ、部下の報告を聞いてやる事にした。
「そんなに慌ててどうしたのだ?」
「それが、勇者と軍が侵攻中に氷龍が現れ、行く手を阻んだそうです!」
「氷龍だと!?」
「はっ、勇者と軍は氷龍に怯え、撤退を余儀なくされたとの事です!」
「そ、そうか…」
我が王国のルズトール山脈に氷龍が住んでいるのは有名な話で、余も知識としては理解しておる。
しかし、ここ数百年間は氷龍の目撃情報は無く、実は別の場所に移動したか死んでいるのではないか?と言う噂も出ているくらいであった。
ルズトール山脈は非常に危険な場所で、誰も氷龍の存在を確認しに行く事が出来ぬから、そう言う噂が立つのは当然の事である。
まさか氷龍が生きていて、しかも、魔王の味方をするだとは余も想像出来ぬ事である。
部下が慌てていた理由も分かったが…。
「それで、魔王国への侵攻は出来るのか?」
「いいえ、氷龍がブレスを吐き、一面を氷漬けにしてしまいました。
それはソルバーヌ王国まで続き、ソルバーヌ王国側も軍を撤退させたそうです。
これ以上の侵攻は、氷が解ける来年の春まで不可能かと…」
「ぐぬぬぬぬっ…」
魔王国への侵攻が出来なくなるのは、非常に困る。
何が困るかと言うと、勇者の処遇についてである。
勇者は既に人族の限界であるレベル50を超えた者もおって、我々の手に追えぬ存在となっておる。
個々の技量では勇影隊の方に分があるだろうが、ステータスで劣る勇影隊が何処までやれるか疑問が残る。
事実として、逃げ出した勇者に勇影隊特級の一人が殺されたからの。
勇者が我が国に不満を持ち、暴れられでもしたらどうなる事か分かったものではない。
勇者を一度ここへ連れ戻し、贅沢な暮らしを送らせるか?
いいや、余の近くに今の勇者を近づけ、寝首を掻かれてはたまったものではない。
逃げ出した勇者もいる事だ、残っている勇者の中にも不満を募らせておる者もいるに違いない。
勇者は出来るかぎり遠ざけ、不満を持たせない様に贅沢な暮らしをさせるほかあるまい。
しかし、来年の春まで遊ばせていては、魔王との戦いに敗北するであろう。
適度に贅沢をさせ、適度に訓練を積ませるのがよいだろう。
近くにいた部下達に指示を出し、勇者達を隔離する良い場所が無いか探させた。
「イブラド辺境伯はいかがでしょう?町は発展していて栄えていますし、近くに温泉も湧き出ております。
保養地として人気があり、戦いに疲れた勇者様も満足してくれるのではないかと思います」
「ふむ、では早速手配しろ、イブラド辺境伯には、余から手紙を出しておくとしよう」
「はっ!ただちに!」
イブラド辺境伯には、勇者から目を離すなと釘を刺しておくとしよう。
まったく、氷龍は余計な事をしてくれたものだ。
しかし、氷龍は自然災害の様なものであるし、魔王国側からの侵攻も無いであろうが…。
軍をどうするか、また頭を悩ませねばならぬの…。
軍の責任者を集めさせ、今後の方針を話し合う事となった。
≪藤堂 綾女 視点≫
「一時はどうなるかと思ったけれど、皆無事に戻れて来て良かったわ」
「うん、そうだね」
氷龍と言うのが現れたけれど、私達は無事に逃げ帰る事が出来たわ。
だけど、また違う場所に行かされることになったのよね。
当初は皆不安で文句を言っていたけれど、ついて見ればとても良い所だったわ。
「温泉に入れるなんて、思っても見なかった」
「そうね、この世界にはお風呂は無いって言われてたから、私も驚いたわ」
「うん、綾女ちゃん、気持ちいいね」
「そうね、だけど、この水着とも言えないダサい服はどうにかならなかったのかしら…」
「皆着てるし、裸で入る習慣が無いだけだよ」
「そうね…」
私と恵茉、浅井達七人で温泉に浸かっているのだけれど、温泉に入る前に渡された服がダサくて、裸より恥ずかしいわ。
全身タイツに近い感じで、濡れても透けたりしないし着心地は悪くないのだけれど、見た目が悪すぎるわ。
ここは保養地らしく、他の女性達も同じ服を着て温泉で傷や疲れを癒しているわ。
だから、私達だけ裸と言う訳にはいかなかったわ。
でも、疲れが癒されるのは事実だわ。
ここの所ずっと戦っていたし、温泉に入ってゆっくり出来るのはとてもありがたいわね。
温泉に浸かりながら目を瞑って、暫く寝たい気分だわ。
「あれは無いよ」
「あいつら最低だし、もう二度と近づかない!」
「先生も止めなかったから同罪だね」
「と言うか、先生も女が欲しかったんじゃ?」
「最低~」
私は恵茉にもたれかかりながら、目を瞑って温泉を堪能していると、浅井達は文句を言い合っていたわ。
話題は、問題児の三人と北条先生の事で、この地に着くなり女を求めていたわ。
本当に最低の奴等だし、私も二度と近づかないと決めたわ。
「藤堂、直江兄弟は大丈夫なの?」
「大丈夫よ、釘は刺しておいたし、心配いらないわ」
私は目を瞑ったまま、浅井の質問に答えたわ。
「本当に?それにしても直江兄弟と仲が良いよね?本当に付き合って無いの?」
「付き合って無いわ、それと、直江兄弟が大丈夫な理由はちゃんとあるわ。
私が言わなくても、直江兄弟はいつも一緒に居るし、二人仲良く女を抱けると思う?」
「いや…それはどうだろう…」
「普通ありえないし、直江兄弟もそこまで馬鹿じゃないわ」
「でも、男だから誘惑に負けたりする事もあるんじゃない?」
「分かったわ、温泉から上がったら皆で確認しに行きましょう、それで良いわよね?」
「そうね」
私達は温泉から上がり、着替えてから直江兄弟の部屋を訪ねて行ったわ。
「何か用であるか?」
「皆で来たと言う事は、重要な相談でござるか?」
「ほら見なさい、こういう奴らよ」
「そうね、疑って悪かった…」
「えっ、何がであるか?」
「訳が分からないでござるよ…」
私達が直江兄弟の部屋を訪ねると、テーブルの上には二つのカップとお菓子が散乱していて、二人だけしかいない事が分かったわ。
女の匂いがしているのでは無いし、浅井達も安心している様子だわ。
ここで直江兄弟が女を抱いていたとしたら、間違いなくパーティーから追い出されていたわね。
そうならなくて良かったと、私も安心したわ。
でも、もう一度釘は刺しておいた方が良いわね。
「二人があいつら見たいに、女を抱いていないか心配して来たのよ」
「あっ、そう言う事であるか…」
「拙者と兄は、童貞のままでござる…」
「そこまで言わなくて良いわよ!ほら、浅井、謝りなさい」
「う、うん、疑って悪かったね…」
「いやいや、別に謝る様な事ではないであるぞ」
「うん、あいつらの事は拙者と兄も最低だと言ってた所だし、疑われても仕方のない事でござる…」
「まぁ、これからもよろしく頼むよ」
浅井達は直江兄弟に謝り、疑いも晴れて良かったと思うわ。
それにしても、問題はあの三人と北条先生だわ。
レベルも高いし、私達を襲って来ないとも限らないわ。
昼間は直江兄弟に頼んで護衛して貰うとしても、夜は何とか自衛しないといけないわね…。
立花達がやってたように、夜は私と恵茉も浅井達と一緒の場所で眠らせて貰えるように、お願いしようと思うわ。
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