悪役令嬢の下っ端から見た転生ヒロイン

佐々木尽左

第1話

 王国中の貴族の子弟子女が集められるジャルダン学園の敷地は広い。勉強するための学舎、全寮制のための宿舎、お茶会のための庭園、そしてダンスを練習するための舞踏館がやたらと広い学園内に点在している。


 いちいち移動するときに歩くのが面倒だけれど、今そのことはいい。


 晴れ渡った空の下、敷地の端にある人気ひとけのない林の中であたしは人を待っている。その間に先日の卒業記念パーティでの騒動を思い返していた。


 卒業記念パーティとは一般的な呼び方で、ジャルダン学園生社交舞踏会というのが正式名称だと聞いたことがある。学園の卒業生がこれから臨む社交界に向けてのお披露目の場という意味があるらしい。


 なので毎年ひときわ華やかになるけれど、今年の舞踏会はいつもとはまったく違った。というのも、この場であたしの所属する派閥に君臨していた侯爵令嬢アドリーヌ様の悪事が暴露されて大騒ぎになったから。


 派閥内で孤立していたあたしは会場の端でその様子を見ていた。


 会場が騒然とする中、衛兵によってアドリーヌ様とその取り巻きたちが外へと連行されていく姿は今でも鮮明に覚えている。


 ああはなりたくはないと心底思った。




 田舎にある小さな男爵領育ちのあたしがジャルダン学園に入ったのは二年前の春だった。初めて都会を目の当たりにして圧倒されたことをよく覚えている。


 これからの学園生活にあたしは胸の内の希望を膨らませていたけれど、ひとつだけ、これから学園内で入る派閥について不安に思っていた。


 貴族には大きな勢力の家が小さな家を傘下に加えて面倒を見るという寄親寄子という習慣がある。これは未成年である学園生も従って当然のものだから、あたしの一年先に入学していた寄親のオスレム侯爵家のアドリーヌ様の派閥に加わるのは自然なことだった。


 けれど、そのアドリーヌ様からの扱われ方はあたしの予想を下回る。まさか初回の挨拶で嫌われてしまうなんて。しかもその理由が、朝のお茶の味が気に入らず不機嫌だったから。そんなのどうにもできない。


 理不尽だけれど、これであたしの派閥内での地位は決まってしまった。せめて派閥の外にお友達でもいれば慰めになったんでしょうけど、当時はアドリーヌ様の派閥全体で調子に乗っていたからそれも叶わず。


 結果、あたしの学園生活は灰色から黒色へとその色を濃くしていった。最初から真っ黒にならなかったのは、派閥内での扱いやいじめが当初はそこまでひどくはなかったから。でもそれ以上に、とある学園生との対決で忙しかったからというのが大きい。


 マイヤール子爵家のシャンタル嬢、それがアドリーヌ様の敵だった。あたしと同じ田舎娘だったシャンタル嬢はアドリーヌ様と同時に学園へ入学し、最初から敵対していたと上級生から聞いている。


 普通、田舎出身の子爵令嬢が有力諸侯の侯爵令嬢に楯突いたら一瞬で潰されてしまう。それがわかっているからこそ、低位貴族出身のあたしたちは寄親の元へと身を寄せる。


 でも、シャンタル嬢は違った。同位である他の侯爵令嬢でさえオスレム侯爵家との敵対を避ける中、王太子になる予定の王子、父が宰相を務める侯爵家の長男、代々騎士団長を輩出している伯爵家の長男など、有力家の子弟を背景に真っ向からアドリーヌ様に立ちはだかったという。


 確かに同じ女性がダメなら男性を頼るというのは理屈ではわかる。でも、普通そこまでして格上のご令嬢と敵対なんてしない。あたしにはシャンタル嬢の意図がわからなかった。


 あたしはシャンタル嬢と直接対決することはなかった。派閥内でいじめを受けるほど孤立していて誰からも誘われなかったのは、今から思うと幸運だったと思う。


 それにしても、シャンタル嬢は実にすごかった。あたしがされていたいじめのようなことはもちろん、洒落にならないことまでことごとく躱してのけたのだから。まるで何が起きるかあらかじめわかっているみたいだった。


 しばらくは悪い意味なりに安定した日々が続いていたけれど、入学して半年もするとそうも言っていられなくなった。シャンタル嬢の仕返しで鬱憤の溜まった派閥内の上級生から不満のはけ口にされてしまう。


 実家のことを考えるとアドリーヌ様の派閥を抜け出せなかったあたしは耐えるしかなかった。無視をする、お茶会に呼ばれないというのはいい方で、次第に手段が物理的なものに変わってきたのは本当につらかった。


 それでも我慢していたあたしだったけれど、ついに一線を越えるよう命令されるに至って限界を超えた。上級生たちにシャンタル嬢を階段から突き落とせと強要される。下手をしたら死んでしまいかねないことを面白そうに言ってくるみんながあたしは怖かった。


 進退窮まったあたしは自室で一人泣いた。やらなければ派閥内で更にひどい仕打ちが待っている。でも、シャンタル嬢を害しても罪を被るあたしは切り捨てられることは間違いない。


 もう死ぬしかないと思ったあたしは、気付けば学園の敷地の端にある人気ひとけのない林の中で一人立っていた。でも、死ぬ準備なんてなにもしていないし、どうすればいいのかも思い浮かばない。


「あなた、パスキエ男爵家のデジレよね?」


 背後から声をかけられたあたしは目を見開いて振り向いた。するとそこには、ストロベリーブロンドの小柄な子女が笑顔で立っている。シャンタル嬢だ。確かにかわいらしい。男の人はこういう女の子が好きなのかなとぼんやりと思った。


 それとは別に、なぜここにいるのかという疑問があたしの頭に浮かんだ。同時に、一緒にいるところを人に見られるのはまずいとも思った。特にアドリーヌ様やあの派閥の人たちには。


 驚きつつもその場を去ろうとするあたしはシャンタル嬢に声をかけられる。


「そんなに思い詰めた顔をしてどうしたの? 私を階段の上から突き落とす決心がまだつかないのかな?」


 背中に冷たいものを突き刺さされたかのように感じたあたしは足を止めた。あのことは誰にもしゃべっていないし、派閥内の上級生たちだって他人に話すはずがない。


 震えるあたしはゆっくりと振り返ってシャンタル嬢に返答してしまう。


「何のことです?」


「明日、あなたのお友達が書いた手紙で学舎の最上階へと私を呼び出して、隠れ潜んでいたあなたが階段から突き落とそうとする計画なんでしょ」


 上級生が楽しそうに話していた計画をそのまま伝えられたあたしは愕然とした。一体どうやってそれを知ったというのか。


 驚きを超えて恐ろしさを感じたあたしは一歩下がった。でも、シャンタル嬢が二歩前に出てきたせいで距離を詰められる。


「やめておいた方がいいわよ。実行したら、私を突き飛ばし損ねたあなたが階段から落ちることになるから」


「え?」


「大怪我を負ったあなたがその後どうなるかは私も知らないけど、やらない方があなたのためよ」


「でも、あたしは」


「アドリーヌの仲良しグループの中でいじめられているよね。あいつに初めて挨拶をしたときにつまらない理由で機嫌を損ねたんでしたっけ」


「あ、あなた、どこまで知っているのよ」


「さぁね。ところで、あなたってもう後がないのよね? 計画を実行したら大怪我をして、実行しなかったらお友達に更にいじめられちゃう」


 笑顔を浮かべたシャンタル嬢があたしに話し続けた。震えるあたしは何も言えなくなってしまう。


「だから、私に協力してくれない? そうしたら、助けてあげる」


「え?」


「破滅する未来を押しつけてくる人なんて友達じゃないわ。そんな人たちに遠慮なんてすることはないと思うの。ああ、わかっているわよ。寄親と寄子の関係でアドリーヌのところにいるんでしょ? だから、計画を実行しないわけにはいかないって。だったら、計画を実行するふりをすればいいのよ。そうすれば、あなたは大怪我を負わないし、アドリーヌの言いつけもちゃんと守ったことになるでしょ?」


「でもそれじゃ、結局何も変わらないじゃないのよ」


「だから、私に協力して今の環境を変えればいいの。お願いしたいことは難しいことじゃないわ。ただ、そちらのグループ内であった話を私に伝えてくれるだけでいいのよ」


「それだけでいいの?」


「ええ。これからアドリーヌとあの仲良しさんたちは忙しくなってあなたに構っている暇はなくなるわ。言い方は悪いけど、役に立たない子に構う余裕がなくなるの。だから、多少の不名誉とわずかないじめに耐え続けて、仲間内で何を話していたのか教えてくれたら、助けてあげる」


 あまりにも都合の良い話にあたしは顔を引きつらせながら黙り込んだ。本来考える余地もないことだけど、今の境遇と近い将来の破滅を考えると迷わざるを得ない。


 けれど、このままだとどうやっても終わってしまう私の未来を考えると最初から選択肢はなかった。幸せになりたい、不幸になりたくないのはあたしだって同じだから。


 あたしはあまり間を置かずにシャンタル嬢との取り引きに応じた。




 翌日、派閥内の上級生の言いつけ通りあたしは学舎の最上階で身を隠し、やって来たシャンタル嬢にアドリーヌ様の警告を伝える。そして、それを鼻で笑ったシャンタル嬢が踵を返して階段を降りようとしたところで背中を押すふり・・をした。それと同時にシャンタル嬢は身を翻してあたしに愛らしい笑顔を向けてくる。


 事前の打ち合わせ通りだった。だから、この結果は当然のもの。予定通り。


 でも、もしあたしが土壇場で裏切っていたらシャンタル嬢はどうしていたんだろうという考えが脳裏によぎった。そのまま階段の上から落ちていた? そんな光景はまったく想像できなかった。


 そこで疑問が湧いていくる。今までアドリーヌ様たちの悪意をことごとく躱してきたシャンタル嬢は、どうしてあたしにあんな話を持ちかけてきたんだろう。だって、別にそんなことをしなくても、きっと華麗に躱してあたしが階下に落ちているだけだったはず。


 あたしが色々と考えているうちに、シャンタル嬢は何も言わずにそのまま階段を降りていった。


 計画が失敗した後、あたしは上級生たちに散々叱られた。使えない、のろま、生きている価値なしなど散々に罵られる。そして、アドリーヌ様の派閥内であたしの評価は地に落ちた。


 どうしてあたしだけこんな目に遭っているのだろうと絶望すると同時に、あまりにも理不尽だという怒りが湧いてきた。悔しくてたまらない。ならば、どうしようか。いえ、考えるまでもない。あたしは既に復讐する方法を手にしていたのだから。


 以来、あたしは積極的にアドリーヌ様の派閥内で見聞きしたことをシャンタル嬢に伝え続けた。派閥内だともはや相手にされないあたしだったけれど、逆にどんな話を聞いても追い払われるくらいで済んだ。


 そうしてある日、大きな出来事があった。


 派閥内では定期的にお茶会が開かれている。アドリーヌ様が参加される最上のお茶会から個人的に開く小さなものまで多数あった。これはどこの派閥でも同じで、集団の結束を固めるためや情報交換、それに単純に人とおしゃべりしたいからなど理由は様々ある。


 このお茶会で集団食中毒事件が起きた。アドリーヌ様の取り巻きの一人が主催したお茶会に参加した子女たちが、全員強烈な嘔吐や下痢に見舞われたらしい。


 長らく派閥内でお茶会に呼ばれていないあたしはもちろん、アドリーヌ様もこのお茶会には参加されていなかった。けれど、割と多くの子女が参加していたから学園中でそれはもう大変な噂になる。何しろ、主催者以外が全員倒れてしまったのだから。


 アドリーヌ様の派閥内はこれで大混乱に陥った。まるで取り巻きの一人が毒を盛ったように見えたから。無事だった当人は無実を訴えたけれど、犯行の理由も毒が混入した経緯も不明となれば誰も信じてくれるはずもない。結局、その子女は学園を休学することになった。


 今から振り返ってみると、これがアドリーヌ様の派閥が崩壊する始まりだった。犯人は予想できたけど証拠がまったくない。当時は定期的にシャンタル嬢と会っていたから尋ねる機会はいくらでもあった。けれど、怖くてできなかった。


 助けてあげる。この言葉を信じてあたしは自分の役割に徹した。


 その後も、派閥内では何か起きてある程度落ち着いてきたらまた何か起きた。初回の食中毒事件ほどではないにしろ、不幸なことがぽつりぽつりと繰り返される。


 いくら有力諸侯のご令嬢が中心だからって、いつ悲惨な目に遭うかわからない派閥になんて誰もいたくない。寄親寄子という関係が実家にあるにせよ、命とその身あっての物種だから徐々に人は離れてゆく。派閥外の子女たちもアドリーヌ様の派閥は呪われていると噂して近づこうとしなかった。


 できればあたしも早く派閥から離れたかったけれど、シャンタル嬢との約束があるから残らざるを得なかった。相変わらず無視され続けていたけれど、逆に言うとそれ以外のいじめはもうなくなっていた。


 この頃になると派閥の外ではアドリーヌ様に関する真偽不明の噂が多数出回っていた。下世話な話、ありそうでない話、それに事実が混じっている話など色々。派閥の外に知り合いがほぼいないあたしだったけれど、教室や廊下で雑談を耳にすることはできる。皮肉にも、シャンタル嬢に話をするために派閥内で聞き耳を立てているのが役に立った。


 そんな噂話のひとつに荒唐無稽なものがあった。何でも、アドリーヌ様は実家の大胆な陰謀に関わっているとか。噂話でも冗談だと一蹴される類いのものだった。


 ところが、事実というのは本当に奇妙なものだと思い知らされる。


 あたしの二年生の終わり、つまりアドリーヌ様が卒業される年の記念パーティで事件は起きた。なんと、オスレム侯爵家を始めとした一部貴族たちの王家への反逆計画にアドリーヌ様も加担していた罪で逮捕されてしまう。


 こんな学園内でそんな大それた計画の何をしていたのかさっぱりわからない。ただ、シャンタル嬢が王太子になる予定の王子、父が宰相を務める侯爵家の長男、代々騎士団長を輩出している伯爵家の長男を背後に従えて、アドリーヌ様とその取り巻きたちを衛兵に連行させたのは事実だった。




 そして今、あたしは敷地の端にある人気ひとけのない林の中に立っていた。アドリーヌ様が捕らえられた舞台と比べると天と地の差がある。今までやったことを考えるとこんなものかもしれない。


 助けてあげるという言葉を信じて今までシャンタル嬢に協力したけれど、今のところそれは口約束でしかない。相手の気が変われば手のひら返しで連座で処罰される可能性はある。


 後悔はしていない。あたしを直接いじめた人たちもアドリーヌ様もみんな破滅したから。見返したというのとは違うけど、すっきりとしたのは確か。ただ、これから自分の身がどうなるのかわからなくて怖いだけ。


 林の中であたしが待っていると、向こうからシャンタル嬢がやって来た。いつもと同じ笑顔を浮かべて。


「待たせたかな? 引っ越しの準備で少し手間取っちゃって」


「平気です。それと、卒業おめでとうございます。春からは王宮の女官だそうで」


「そうなのよ。勤め先としてはとてもいいところだと思っているの。あなたはひとつ下だからまだ一年あるのよね。アドリーヌの派閥がなくなっちゃったから、これから大変。一人なんですもの」


「いじめられるだけだった場所から解放されたんですから、むしろ嬉しいですよ」


「そう言ってもらえると、助けた甲斐があったわね」


 にっこりと笑ったシャンタル嬢が嬉しそうに返答してきた。何も知らないと本当にかわいらしいと思える。


 一瞬ぼんやりとしたあたしは小さく息を吐き出して気を取り直した。これから大切なことを確認しないといけない。


「前から気になっていたことがひとつあるんですけれど、尋ねてもいいですか?」


「いいわよ」


「どうしてあたしを助けてくれたんですか? あたしなんて放っておいても、あなたなら何とでもできたでしょうに」


「何とかできたのはそうだと思う。でも、あなたが協力してくれたおかげで厄介事が減ったのは確かなのよ」


「アドリーヌ様たちの様子を伝えたことがですか?」


「それが重要なのよ。どんなイベントが起きるか予想できても、実際にどうなるのかは悪役令嬢の周辺について具体的に知らないとわからないから」


 にこやかに話すシャンタル嬢の言葉の中に一部わからない単語が交じっていた。小首を傾げた私が問いかける。


「悪役令嬢ですか? アドリーヌ様のことですよね?」


「そうよ! 実際に国を揺るがす陰謀に加担していたんですからぴったりでしょう?」


 話を聞きながら卒業記念パーティでの出来事を思い出した。まるで演劇の舞台で悪役を演じる女優が舞台袖に連れ去られてゆくようにも思える。ああなるほど、もしかしたらシャンタル嬢は演劇になぞらえて例えているのかもしれない。


「そうかもしれませんね。私は悪徳令嬢と言った方がいいように思いますけど」


「悪徳かぁ。でも、悪役の方に慣れちゃっているのよね」


 どうもこだわりがあるらしい。私にとってはどうでもいいことなのでこの件にはこれ以上触れないでおく。


「それと、私は無関係だって証言してくださってとても助かりました」


「実際あなたには何もされていないしね」


 私のお礼にシャンタル様が楽しそうに返答された。


 舞踏会での大事件後、アドリーヌ様の派閥に属していた私たち子女は様々な扱いをされる。国を揺るがす陰謀に直接関わっていなくても、シャンタル嬢を攻撃していた大半の子女はそれに応じた罰を与えられた。完全に無罪だったのは私のみ。


 こんな露骨な扱いをされると普通は何かあったと思われるものだけど、派閥内でいじめられていたことは学園中に知られていたのであっさりと受け入れられた。何がどう評価されるかなんてわからない。


「あと一年、あなたもこの学園で頑張ってね。ただ、あんなことがあったから、婚約のお相手を見つけるのはしばらく難しいかも」


「それは仕方ありません」


「もし在学中に見つけられなかったらどうするつもり? お城の女官だったら口利きできると思うわよ」


「嬉しいお言葉ですけど、ああいった争いはもう避けたいっていうか」


「苦手そうだものね、あなた」


 困った感じの笑顔を浮かべられたシャンタル嬢に私は苦笑いした。確かに、もっとさっぱりとした人間関係が築ける場所がいい。


「田舎のどこかで代筆業みたいなのをやるかもしれません」


「悪くないんじゃないかしら」


「ありがとうございます」


「さて、そろそろ行かなきゃ。元気でね、デジレ。さようなら」


 もう話すことはなくなったらしいシャンタル嬢は笑顔を浮かべたまま踵を返した。


 それに対して私は何も返さないまま見送る。さようならという言葉がやけに耳に残った。確かにその言葉は正しい。私たちはもう会わないだろうから。


 結局、シャンタル嬢がどのような方なのかはっきりとはわからないままだった。けれど、それでいいのかもしれない。


 その後ろ姿が木々に隠れて見えなくなるまで私はその場でたたずんだ。

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