第二話 ルートを外れた悪役令嬢は悪役皇子に殺される
――わたしが助かる方法はわかっている。
皇太子側の問題をあげつねねて婚約破棄を勝ちとり、断罪される前に北部に逃げる。
(やった! 逃げ切った! これからはわたしの人生を自由に謳歌できる……)
そう思った途端、馬車が横転し、外に投げだされたカトリーヌは鋭い刃に背中を刺された。
流れだす血に意識がもうろうとする。
「う、嘘……いや……せっかく断罪を逃れたのに……死にたくない……」
カトリーヌが最後に見た光景は、自分のそばで血濡れたナイフを持つ一人の青年の姿だった。
――なぜ、なぜユージンがわたしを殺したの?
血だまりのなかで自分の体が冷えていく感覚だけは鮮明に覚えている。
――死にたくない。まだ自分の人生を生きていない……誰か……助けて。
そう強く祈っていたカトリーヌに奇跡が起きた。
二度目の転生だった。
……――カラーンカラーンという鐘の音が響きわたり、ふと我に返った。
「カトリーヌ様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、また明日」
そんなふうに声をかけられ、見回せば、子どもたちが見覚えがあるエントランスを出ていく。
「ご、ごきげんよう……」
反射的に挨拶を返してから呆然とした。
(わたし……また死に戻ったの……?)
一度目は四年前に死に戻った。処刑される前の最後の一年はほぼ幽閉されていたから、実質的に動ける期間は三年しかないとわかっていた。
「でも、ここは……まさか……」
――皇立幼年学校?
カトリーヌもかつて通っていた。
振り返れば円形のアーチが頭上にある。
この特徴的なエントランスを見間違うはずがない。
外に出れば、馬車が行列をなして並んでいる。その光景もまたよく知っていた。
名家の子息や令嬢を送り迎えするために、どこの家も下校時間にあわせて馬車をよこすからだ。
「どういうこと……?」
広場の真んなかには噴水があり、ふと水面に映った自分の顔を見て唖然とする。
(手も顔も小さい……なんで……?)
身につけている服は皇立幼年学校の制服だ。スカートの前ボタンを開き、ペチコートが見える愛らしいデザインだ。何年も着ていた制服を見間違えるわけがない。
唖然とするあまり、その場から動けないでいると、
「カトリーヌ、帰らないのか?」
声をかけられた。
やはり皇立幼年学校の制服を着た幼い子どもだったが、その特徴的な金髪と赤い瞳は疑う余地もない。
「……ユージン?」
思わず身構えてしまったのは、最後に殺されたときの記憶がよみがえったせいだ。
「え、えっと……」
後ずさりしようとすると、がしっと手を掴まれる。
(まさかユージン……死に戻ったわたしを殺すつもりじゃないでしょうね!?)
幼いとはいえ、男の子の力は強い。
ぐいぐいと引っ張られたまま、馬車が連なるほうへと連れていかれるしかなかった。
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