大きい銀子と小さい塁
生獣(ナマ・ケモノ)
第1話 大きい私と小さいコイツ
私、櫻井 銀子(さくらい ぎんこ)と天宮 塁(あまみや るい)は所謂幼馴染だ。
年齢も同じ。クラスも同じ。何の変哲も無いただの高校二年生。
私は背も胸もでっかくなったけど、塁は縦にも横にもちっとも成長しなかった。
本当につるぺったんで、まるで小学生。
でも中身はすっかり大人……って訳でもない。
「銀! 今日アタシん家来るんだろー?」
「おー、今日こそ負かす」
「へっ、言ってな!」
そう言って無邪気に笑う塁。
女子用制服と長髪じゃなかったら言動と名前のせいで少年に間違われるだろうな。
馬鹿で、お調子者で、かと言ってちっこいから運動が抜群に出来るって訳でも無くて。
それでもクラスではマスコット的な人気で何かと話題の中心。それが天宮 塁という人間だった。
私はそんな奴の隣を幼い頃から陣取って、ずっと一緒に居る。
理由は色々あった。
まず第一に、一緒に居ると楽しいからだ。
ゲームやアニメ、漫画の話で盛り上がれるし、駄弁ってるだけで退屈しない。
第二に、顔が良いから。
コイツにそういう事言うのはちょっと癪だけど、塁は可愛い。
ぱっちりした目とか、ぷるっとした唇とか。
あと髪も面倒って理由で伸ばしっ放し。
なのにサラサラしてて、男みたいな服装や言葉使いじゃなかったらお嬢様にだって見えそうだ。
そんな感じだから、学校では男女共に大人気。
一方私はと言うと……まぁ普通かな。
昔から背が高かったから目立ってて、今では170を超えてる。
これでもうちょっと愛想が良ければ王子様みたいなポジションになったかも知れないけど……現実としては塁と連むせいで対比でゴリラとかゴリラとかゴリラとか言われる。
まぁ、女扱いされてるだけマシだけど。
「ギンー、はーやーくー!」
「はいはい、分かったから」
放課後になり、ゲームが待ち切れないのか塁は私の腕をグイグイと引っ張りながら帰路につく。
家が隣同士な事も相まって、コイツと離れる事は滅多に無い。
友達と遊びに行ったりしないのか?と思うけど、塁のノリについて来れる女子はそうは居ない。
かと言って男子は男子でちっこい塁とつるむのもなぁ……という感じ。
仲の良い友達も居るには居るけど、漏れなく部活に入っているので結局放課後は大体私と過ごす。
まぁ……こっちとしては別に塁と一緒に居るのは嫌じゃないし、むしろ楽しいから良いんだけど。
「よーし! 今日もギンに勝つぞ!」
「今日こそ勝ち越す」
「やってみな!」
負けた。
塁は無い胸を張って大威張りだ。
昔からやたらゲームだけは上手くて、私はトータルで負けがちだ。
でも塁は一度も「手加減してやる」とか言った事が無い。
そういうとこは、ある意味気持ちの良い奴だとは思う。
「ふはははは! アタシの勝ちだ! さぁて、何をお願いしようかな〜?」
「ほんっとに性格悪いなお前……」
ニヤニヤと笑いながら私の顔を覗きこんでくる塁に、思わず悪態をつく。
こっちは勉強や運動での勝負なんて持ち掛けた事は無いのに、コイツは得意のゲームだとよくこう言った賭けを持ち掛ける。
まぁ、賭けと言っても精々宿題写させろ〜とかお菓子一個寄越せ〜とかそんなレベルだけど。
「何して貰おうかな〜? うーん……」
「そんなに悩んでんのかよ?」
腕を組んでウンウン唸る塁。
そんな塁を放置して、私はゲームのスタートを押して次の戦いに備える。
さぁて、次はどんな戦い方で行こうか……なんて考えてると、突然頬にぷにっと柔らかい感触があった。
何かと思い振り向いてみれば、そこには私の頬を指で突ついてる塁が。
「な〜にすんだよ?」
「ん〜? いやさ、ギンってデッカいよな」
「うん? そりゃ175越えてっからな」
「いやいやそっちじゃなくて。いやそっちもデカいけどさ。おっぱいだよおっぱい」
「はぁ? まぁ、人並み以上にデカいって自覚はあるけど……」
「だよなぁ。何食ったらそんなでかくなるんだ? やっぱり牛乳か?」
「いや、別にいっつも飲んでる訳じゃねーし……つーかおっぱいがどーしたよ? 悪いけど分けてやれねーぞ」
「触らせて」
「はぁ⁉︎」
塁の突拍子も無い言葉に、思わず素っ頓狂な声が出る。
いや待て。
幾ら何でもおかしいだろ。
なんでそうなるんだ? そんな疑問が頭の中をグルグルするけど、塁は「だめ?」なんて言いながら私の胸元に手を伸ばそうとして来る。
私は咄嗟にその手を払いのけた。
「ダメに決まってんだろ⁉︎」
「え〜? なんでさ?」
「いや、他人に自分の胸弄られんの普通に嫌だろ」
「頼む! アタシには無いもんだから、どんな感じなのか気になって!」
「いや、だからって……」
「頼む! このとーりっ!」
「うぐっ……」
あぁ、これだ。
両手を合わせて、チラッと上目遣い。
私はその顔に弱いんだ。そんなんされたら断れないじゃんか。
「あーもう分かったよ! 勝手にしろ!」
「やったー! へへっ、サンキューなギンっ! それじゃあ早速……」
塁の小さな手が伸びてくる。
最初は真正面から弾力を確かめるようにふにふに押してきた。子猫か?
「おぉ……柔らかい。やっぱりデカくなると弾力も違うんだな」
「そりゃお前のよりかはな」
「くぅっ! なんでアタシはこんなに平たいんだっ」
「知るかよ……」
今度は重さを確かめるように下から持ち上げ……って。
「こら」
「痛てっ⁉︎」
「なーに許可無く揉んでやがんだオメー」
「ちょっとぐらいいいじゃんかー! ケチ! はぁ……まぁいいや。じゃあ次な」
「まだやんのかよ……」
「とーぜん! ギンだって負けっぱなしは嫌だろ?」
「そりゃまぁ……そうだけど」
塁はまた私の隣に戻るとコントローラーを握る。勝負再開だ。
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