Ⅲ
14.原因
「しっかり掴まっていてください」
クラウドに言われて振り落とされないよう腰に手を回すと、クラウドは手綱を引き、飛竜は勢いよく空に向かって飛び上がった。
あっという間に、プレセアとマリアちゃんが豆粒のように小さくなっていく。
高過ぎて怖いけど、それ以上に空から見る景色に感動した。
(うわぁ……)
地上からでは決して見えなかった場所が見渡せる。
視界が広がり、世界という規模の広さを初めて実感した気分。
そして胸がドキドキする。
思春期に入ってから初めて男の人に抱きついたから。
服の上からでもわかるほどに腹筋がバッキバキ。
他の部分も触ってみたい。
空から見える景色以上に感動した。
†
「ねぇ、クラウド。ユミル村の名前、聞いたことある?」
太陽が完全に沈みかけようとしている空の上で、ふと気になっていた事をクラウドに聞いた。
「いえ、初めて聞く名前の村です」
「……そう」
マリアちゃんが暮らしているユミル村。
この村の名前を、私は知らなかった。
ユミルと言う名の村は〈三姉妹の魔女と五人の騎士〉には描かれていない。
マリアちゃんもそう。
マリアという名前の大人の女性はいた。
でも子供は登場しなかった。
自分の書いた物語の世界にいると思っていたけど、どうも違うみたい。
私はアリシアとして、〈三姉妹の魔女と五人の騎士〉とは違う世界にいるかもしれない。
私の願いは私の書いた物語の世界に行く事だった。
神様がこの世界に連れて来てくれた理由が私の願いじゃなかったとしたら、神様は私に何を求めているのだろうか。
†
飛竜は高速(たぶん時速三百キロくらい)で空を舞い、三十分ほどすると、首を下に向けてキュイっと鳴いた。
どうやら真下に見える山岳の中に子供たちがいるようだ。
おそらくそこは盗賊のアジト。
このまま降りて乗り込みたいところだけど、目立つことで子供たちに被害が及ぶかもしれない。
子供たちを見つけるまではなるべく戦闘は避けないと。
「少し離れた場所に降りられる?」
飛竜は頷いて空を旋回し、来た方向に引き帰しながら下降すると、なるべく音を立てないようにゆっくりと地面に着地した。
「こっちね」
飛竜から降りて、子供たちのいる方向を向いて言った。
「あなたは、ここで待っていてね」
飛竜を茂みに待機させ、夜の暗闇の中、クラウドと一緒に盗賊のアジトに向かって山の中を歩く。
そして2キロほど進むと、山の斜面に洞窟があるのが見えて来た。
洞窟の入り口に見張りらしき人影も見える。
目的は子供たちを助け出す事と盗賊退治。
優先順位はもちろん子供たちの救出。
私たちの存在が盗賊たちに気付かれてしまったら、子供たちを人質にされかねない。
そうならない為には、出来るだけ騒ぎにならないようにして子供たちを見つける必要がある。
欲を言えば盗賊たちに見つからずに先に子供たちを助けたい。
だけど——そう上手くはいかなかった。
原因は私だ。
あと、真夜中で視界が悪いのと、地面から突き抜けている木の根とハイヒールのせい。慣れない体も一因あると思う
私は盗賊のアジトを目の前にして、ハイヒールの踵を木の根に引っ掛かけてしまい、豪快にこけちゃったのだ。
人が正面から勢いよく倒れると音と、『ぎゃふん!』と間抜けな悲鳴。
おかげで盗賊たちがわらわらと集まって来ちゃった。
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