9.可憐な次女?3

「へ?」


 少女がいないわけじゃない。


 いるにはいる。


 魔方陣の上にちゃんといる。


 いるけど……魔方陣の上に立ってはいない。


 魔方陣の上で横になって寝ていた。


 白いぶかぶかのTシャツに、パンツ一枚の所謂いわゆるパンイチ姿で。あとアイマスク。


 Tシャツの表と裏には大きな文字がプリントされている。


 表には『おねぇ様命』、裏には『おねぇ様とうとし』


 お、推しTシャツ?


 あ、お尻かいた。


 プレセア……だよね?





 私が創作したプレセアは、植物と動物を愛する、おしとやかな女の子。


 優しい心を持った、仲間想いの可憐な乙女。


 寝る時はフリフリのパジャマを着るタイプ。


 い、|創造《イメージ)と全然違う……。


 アリシアと同じ水色の髪と、ショートボブだけは創造イメージ通りだけど、これじゃあ、おしとやかな女の子というよりギャルだ。


 コミュ症の女の子が総じて苦手なギャル。(これって偏見?)

 

「……プレセア?」


 私はプレセアらしき女の子に近付いて、手を伸ばしながら膝を曲げて声を掛けた。


「ん?」


 声に反応してアイマスクを親指でくいっと上げる女の子。


「んん?」


 今度は上半身を起こして周囲を見渡した。そして——。


「アリシアお姉様?」


 アリシアの名前を口にした。


 アリシアの事を、お姉様と呼んだ。


 という事は、この少女はアリシアの妹、プレセアだ。


 納得いかないけど、プレセアだ。


 腑に落ちないけど、プレセアだ。


「お願いプレセア、あの子を助けてあげて」


 私はプレセアの目を見て必死に訴えた。


 プレセアは私から視線を逸らして怪我をしている女の子を見た。


「ああ、うん、OK。あのメスガキを治療したらいいのね」


「そう、あのメスガ……」


 え、聞き間違い? 今、メスガキって言った?


 プレセアはゆっくり起き上がり、女の子に近付いた。


 そして数秒間考える素振りを見せた後、女の子に手で触れた。


 手で触れた箇所から、淡い光が女の子の体を徐々に包み込んでいく。


 すると、傷から垂れている生々しかった血が、瘡蓋かさぶたになって傷跡となった。


 女の子の険しかった表情が、安らかな寝顔へと変わっていく。


「ま、こんなところかな」


 そう言って、プレセアは女の子から手を離した。


「この子は助かるのね?」


「ええ」


 はっきりと肯定したプレセアの言葉に気が緩んだせいか、私は襲って来た睡魔に抗えなくなり、


「よか、った……」

 

 バタンと倒れ、そのまま眠ってしまった。

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