君に捧げる最上級の不幸

文綴言音

プロローグ

「私のことが好きならさ、私を殺す覚悟はあるの?」

心臓が痛い。加速度を付けて鼓動が刻まれていく。うるさい、やけに心臓が五月蠅い。僕は今、目の前の彼女に最初で最後のプロポーズをしてるんだもんな。

好きな理由なんて分からないし、恋なんてしたこともない。誰かを愛することができる人生なんて思ってもみなかった。

「私ね夢があるの、人生のピークで自殺する夢。私の事が好きならさ、私の事を殺せないとだよ?」

分かってる、しずくはそういう人間だ。だから大好きだし、殺したいとも思っている。いや、別に殺したいわけじゃない。いつから僕はそんな変態になったんだ。僕は彼女を幸せにしたい。そう、たったそれだけのことなんだ。好きなんだったら当たり前だろ。大丈夫、僕は間違ったことは言っていないはずだ。あぁ、待って、何か、何か喋らないと。好きと伝えた後はどうしたらいいんだ。よければお付き合いがしたいのだが。言葉がでてこない。柄にもなく緊張しているのか僕は。

「えっと、あの、絶対に幸せにするので、僕と付き合っていただけませんか。」

素っ頓狂な声と情けない顔。今、写真を撮られたらショック死してしまうだろう。プロポーズって、誰かに好きと伝えるのってこんな感じなんだな。

「絶対、私を殺してね」

肯定。そう、これは肯定だよな。喜んでいいやつだよな。なんか現実味がなくて、どんな顔したらいいのか分からない。なんか、さっきよりも恥ずかしい。そんなことを考えていると、僕は彼女に抱きしめられた。



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