スパイ教師の学園英雄譚~天才スパイ、魔法学園の落ちこぼれクラスの担任になる~

尾乃ミノリ

第0話:プロローグ

 ここは、どこにでもある普通の魔法学園。外はとってもいい天気。普段であれば外で優雅にランチタイムと洒落こむ生徒が多くいるはずなのだが、今日は人がほとんどいない。正確に言うと、俺の周りだけほとんど人がいない。先ほど勾配で買ってきたサンドイッチを掴み、俺は二人の女性に挟まれたまま、一人震えつつ立ちあがれずにいた。


 傍から見れば両手に華なシチュエーションなのだが、彼女たちは俺の頭上で火花を散らしていた。救いを求めて周囲を見回すも、全員から目をそらされる。



「あなた、最近ずっと先生に付きまとってますけど、一体誰なんですか!ストーカーですか!?」

 制服を着た銀髪の方が、フードを被っている金髪の方に詰め寄る。少し身長差もあるのだが、それをものともしない迫力がある。

「ち、違うわよ!私と彼は……同僚よ、仕事の同僚!」

 金髪が答える。


「私今まであなたみたいな先生見たことありませんけど、っていうか学園内でフード被って喋るなんて失礼じゃないですか?脱いでください。」


 ヒートアップしてきたのを見かねて、俺も止めに入る。

「まあまあ、何か事情があるかもしれないんだし、そういうのはよしとけ。」

「ショート……」

「先生!このヒトの肩を持つんですか!?」

「いや別に、肩を持つっていうか……。」

「これで分かった?私とあなたでは積み上げてきたものが違うのよ。」


 飯食えないし、目立ってるから、早くどっか行ってくれないかな……。しかし俺の意思とは裏腹に、偉そうに胸を張るフードの女は、優位と踏んだのか、そのまままくし立てる。


「第一あなた、ここの生徒でしょ?先生に憧れちゃうのも分かるけど、子供は子供らしく、生徒は生徒らしくしとけばいいのよ。」

「私はただの生徒じゃありませんから!」

「へえ、じゃあ何だっていうのよ。」

「私は……先生の、相棒です!」


 今までで一番大きな声で銀髪の方が主張する。いや、それは何となく語弊のある表現な気がする……、そう思っていると、フードが明らかに震えだした……。おい、何でおれの方を見る。


「へ、へぇ。私とコンビ解消したと思ったら、未成年とよろしくやってたんだ……。へぇ……?」

「いや、だからそれは誤解で……」

「そうです!先生の相棒は私なんですから、昔の人は出てこないでください!」

 彼女たちの口論はヒートアップし、止まる様子が見えない。近くを通る生徒からのお前が何とかしろという視線が痛い……。俺も悪目立ちするのは本意ではないので、重い腰を上げ、彼女たちの間に入る。


「まあまあ、こんなところで揉めるのも他の生徒に良くない。」

「「でも」」

「ラスティもこんなことしてたら、家の評判が落ちかねないし、マキナも、子供相手にそんなに向きになるな。」

 そう言うと、二人はまあ……と引き下がる。良かった、と思ったのもつかの間、


「じゃ、じゃあ、最後に一つだけ!先生の相棒は、私ですよね!」

「いやいやいやいや、どう考えても何年もコンビ組んでた私に決まってるじゃない。」

 俺をはさんで再び火花を散らしあう二人。おい、何のために俺が間に入ったと……。ああ、空が綺麗だな、青さが染みる……。



「ねえ、先生(シュート)!どっちか選んで!!!!」

「誰か助けてくれ~!」

 俺はこんなことをするためにここに来たわけじゃないのに……。



 男の名前は、ショート=ミツセ、職業は教師、しかしその裏の顔は……


(こんなんじゃ仕事になんねぇよ……。)


 潜入捜査官スパイであった。

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