裏切り聖女の護衛騎士
ホードリ
第1話
――《聖女》ルナリア・テルステラ。
レーデス聖王国で広く信仰されている『聖教』のトップに立つ人間であり、魔法とはまた違う特殊な力を持っており、王都に魔除けの結界を張るという、先祖代々から受け継がれた仕事を熟している少女だ。
夕陽に照らされた麦穂のような黄金色の長髪も、優しく細められている翡翠の瞳も、慎ましやかな胸も、少し小柄な背格好も、その全てがルナリアの可憐さを、その内に秘めている神聖さを際立たせている。
「今日も穏やかだねぇ〜。これだけ穏やかだと、少しだけ眠くならない?」
「そうですね。今はちょうど春ですし、これだけ空も晴れ渡っていますから。うたた寝をするには絶好の天気でしょうね」
聖王国の
その最上階。壁を全面ガラスで覆われたその一室で、ルナリアは床一面に咲き誇る花を愛でながら、自分の隣に立つ少年に声を掛けた。
赤髪の少年だ。年の瀬はおよそ十七ほどだろうか。ルナリアと同い年のように見える。
そんな少年は汚れのない純白の騎士服に身を包み、腰にはささやかな宝石の装飾が施された剣を帯剣している。
「だよね! なら、私もすこぉーしだけ、寝ちゃっても大丈夫……」
「じゃないです。まだまだやらなきゃならない仕事は残っていますから」
「ぶぅ……レンのケチ……」
ルナリアは頬を膨らませながら抗議の視線を自身の少し後ろに控えている少年へと目を向けた。
レンと呼ばれた少年は、ルナリアの抗議の意を汲み取ったのか苦笑いを浮かべている。
「そう言われても俺にはどうも出来ませんよ。ただでさえルナリア様はサボり癖があるんですから。ここでまたサボってたら、大司教に次会った時なんと言われるかわからないですからね」
「わかってますぅ、だ! レンはお堅すぎるの!
ただそんな神聖さの塊のようなルナリアにも欠点があり、それがこのサボり癖だ。
レンが少し目を離せば居眠りは当たり前。酷い時はこうして大教会の最上階にある『空中庭園』で、花を愛でながらまったりとしている。
「とにかく! 今日は仕事してください! 昨日も一昨日もサボっていたせいで仕事が溜まりにたまっているんですからね!」
「えぇ…………じゃあ、手伝って?」
「うぐっ!?」
キラキラとした瞳で、子供が親に甘えるような仕草でルナリアはレンを見た。
可憐、美麗、優美、神聖――後光が差していると錯覚するほどの愛らしい表情に、レンは胸を抑えてフラフラとその場に倒れた。
これはいつもレンに面倒ごとを押し付けるためのルナリアのお願いの方法だ。毎度毎度、今日こそは断ろうと心に誓ったレンの固い固い意志を、簡単に瓦解させる恐ろしい技だ。
「ダメ……?」
「――ッ、ダメ、です!」
「…………ふぇ?」
ただ今日だけは違った。
今日、初めてレンはルナリアの『お願い』を断ってみせた。ルナリアもまさか断られると思っていなかったのか、気の抜けた声と共に唖然としている。
だが、これには理由がある。どうしてもルナリアの『お願い』を断らねばならない理由が。
「実は……今日、俺は国王から呼び出しを受けているんですよ……」
「呼び出し……? なんの……?」
「詳しいことは何も聞いてないです。ただ、話があるとだけ伝えられていて……」
「そう……残念」
事情が事情だけに、ルナリアも駄々を捏ねる訳にはいかないと分かっている。
国王からの命令。それはこの国で生きていく上で、絶対の権限を持っている。特にレンは聖王国に所属する騎士の一人だ。王からの勅命を受けて、レンはルナリアの護衛騎士となったのだ。
その王の命令に背けば、レンの騎士としての立場が危うくなってしまう。
だからこそ、ルナリアは露骨に肩を落とし、テンションを底辺にまで落としこそすれ、それ以上を口にすることはない。
「ところで……」
「…………?」
「まだ『ルナ』って呼んでくれないの?」
「――っ!?」
ただせめてもの意趣返しとして、ルナリアはレンの耳元に瑞々しく潤った唇を寄せて囁いた。
顔を真っ赤にしたレンを見て、ルナリアは悪戯っ子のように笑った。
◆
(…………『ルナ』かぁ)
懐かしい呼び方だ、とレンは昔を思い出していた。
レンとルナリアは幼い頃――彼女が《聖女》になる前――に何度か顔を合わせては、その度に夢中になって遊んでいた。時折一人で教会を抜け出して街に繰り出していたルナリアとレンは気付けば友人となっていた。
良き友人関係だったと昔を振り返れば、そう思える。
だが、二人はそもそもの立場が違った。
レンはただの平民。ルナリアは教会の《聖女》。
どうしようもない壁が二人の仲を引き裂き、二人が共に遊ぶことはなくなってしまった。だが、その最後の時にレンはルナリアに誓った。
『ボクがキミの騎士になる! だから、それまで待っていてくれ!』
その日からレンは努力を重ね、宣言通りルナリアの護衛騎士となったのが今から三ヶ月ほど前。
折角、仲の良かった友人の側へと戻れたのに、その関係は昔のようにはならなかった。
「なんか……よく分かんないけど、気恥ずかしさがあるんだよなぁ……」
レンとしても二人の時くらいは『ルナ』と昔のように呼んでも良いのではと考えていたが、どうにも口にしようとする度に恥ずかしさが勝り堅苦しい口調にしかならない。
どうすれば昔のようになれるのか。そんな事を考えながら、王城の謁見の間に続くまでの道を歩いていると、目の前から一人の騎士が歩いてきた。
「……あれ、ダイナか?」
「ッ……レン……?」
金髪三白眼という人相の悪い騎士――ダイナだった。
ダイナはレンの顔を見ると、どこかバツの悪そうな顔をした後、早足でレンの横を通り抜けようとした。
「あ、おい! どうしたんだよ、ダイナ!」
したのだが、レンがすかさずその肩を掴んだ。
レンとダイナは同時期に騎士団に所属した同僚だ。レンは騎士になってすぐにルナリアの護衛騎士となった事で関わりが減ったが、それでも仲は悪くなかったはずだ。
「久々に顔を合わせたんだ。なにか話でも……」
「話なんか……ねぇよ……」
しかし、ダイナはレンに目を合わせようとしない。意図的に逸らされている。
「なぁ、なにかあったのか? それとも、俺がなにか……」
「だから、何もねぇって!」
ダイナが声を荒げながら、レンの手を振り解いた。
レン自身、自分がなにかしてしまったのかと考えた。だがそんな記憶はこれといってない。
なぜダイナがここまで自分のことを邪険にするのか、レンには皆目検討も付かない。
「…………わかったよ。じゃあ、もう何も聞かない。それじゃあ、俺は行くよ」
「…………っ」
ここでダイナと何か話をしようとしても、無駄だとレンは判断して、謁見の間へ向けて再び歩みを始めた。
そんなレンの背中を見送りながら、ダイナは苦虫を噛み潰したような表情をしていた事を、レンは知らない。
そして、ダイナの様子に違和感を抱きながら、レンは謁見の間の扉の前に立っていた。
扉を挟み込むように立っている二人の兵士によって止められたレンは、ちらりと廊下の窓から見える空模様を見て胸騒ぎを覚えていた。
(雨、か……。さっきまで晴れていたのに……)
雷が落ちる音が響き渡る。雨の勢いは激しさを増していき、先程までの穏やかな晴れ模様は一変していた。
まるでこれから悪いことが起きる前兆のようにすら思えて、レンは唾を飲み込んだ。
「入れ。王がお待ちだ」
「…………わかった」
兵士の一人がそう言うと、扉の前で交差させていた槍を手元に引き寄せ、扉を開放した。
ゆっくりと開かれる荘厳な扉の向こう。煌びやかに宝石や黄金で装飾された玉座に、その人は座っていた。
口周りに蓄えられた白い髭。彫りの深い威圧感のある顔立ち。頭の上に置かれたルビーが一際輝く王冠を被ったその人こそ、レーデス聖王国第十二代国王アルバート・グラニス・レーデスである。
そして、その横に立つことを許されたのは、筋骨隆々の老夫。聖王国最強とも名高い騎士団団長ドルナ・ノーラである。
「レン・アルスター。拝謁、感謝します」
レンは謁見の間の中央まで進んだ後、その場に跪いて身を低くした。
「レンよ。今日、貴様を呼んだのは他でもない。《聖女》ルナリアのことよ」
「…………と、言うと?」
ルナリアの名前が出たことにレンは顔を顰めた。
「なに、簡単な話だ。とある情報筋で『聖教』が我に刃を向けようとしていると入ってきてな。その首謀者として担がれているのが、《聖女》であると言うのだ」
「…………は?」
「我も最初聞いた時は信じられなんだ。だが、最近の『聖教』の連中は勢い付いている。その力は我にも届き得るだろう。そして、そこに《聖女》が付くとなれば、この国の未来は暗いものとなる。それは許せん」
レンの中の確証のない胸騒ぎが確かな形を帯びていく。ダイナに覚えた違和感が、それをより明瞭なものへと変化させていく。
脳内が警鐘を鳴らし始めていた。なぜ自分がここに呼ばれたのか。その理由がわかってしまったからだ。そして、それが正しいなら――
「よって、先程騎士団の総力を上げて、
「――――な!?」
――これはレンを嵌めるための罠であるという事。《聖女》を守る護衛騎士となったレンを、ルナリアから引き離すための謀略であると。
「そして、貴様にも裏切りの疑惑がある。よって、ここで物言わぬ屍となれ」
「…………っ!!」
その言葉と共に、陰に潜んでいただろう騎士たちが一斉にレン目掛けて攻撃を仕掛けた。
それをレンは反射的に引き抜いた剣で斬って、払いのけながら、後ろへと跳躍して距離を離した。
総勢十二名の騎士…………いや、王の側で控えるドルナを含めれば十三名の騎士を前に、背筋が凍っていく感覚をレンは覚えていた。
「何で――ッ!」
「やれ、騎士たちよ」
レンが疑問を挟む余地もなく、騎士たちの猛攻が始まった。
十二の銀線が閃く。洗練された騎士の連携から繰り出される攻撃は、味方に当たることはなく、的確にレンのみを狙って放たれている。
それをレンは辛くも凌いでいた。襲いくる斬断の嵐の中、その軌道を逸らしながら、出来た隙間に体を捻じ込み被弾を極力少なくする。
(クッソ! 凌ぐので精一杯だ! 早くコイツらを落とさないと!)
心の中に焦燥が色づき始めていた。
ここでレンが足止めを食えば食うほど、大教会の被害は大きくなってしまう。
ルナリアを守れる人間が居ない今、ここで時間を食い潰してる暇はない。
なのに、なのになのになのに――!?
騎士たちの連攻の嵐に囚われて、レンは動けないでいた。
逃げ出そうと無理にでも突破口を作ることも不可能ではないのだろう。
しかし、たとえ突破口を作り出せたとして、そこを潜り抜ける間に他の無数の斬撃がレンの身体を切り刻んでいくという結果は想像に容易くない。
(かと言って、魔法を使えば仲間を殺して――――いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない)
この状況を打開するには魔法しかない。
個々人が有する魂の形を魔力というエネルギー炉を以てして、外界に顕現させる秘法。仲間を殺してしまう可能性に怯えている暇はない。
「燃えろぉ!!!」
『ぐあっ!?』
瞬間、爆炎が地を奔った。
解き放たれた熱の奔流が周囲を取り囲んでいた騎士たちを吹き飛ばし、気づけば包囲網は完全に瓦解していた。
「なんたる才よ……」
アルバートはその光景を目の当たりにして、一言そう呟いていた。
そして、隣に立つ老騎士へ視線を向けた。
それだけで王の言いたいことを理解したのか、ドルナは剣を抜きながら一歩、踏み出した。
◆
「…………ぅ」
崩落する教会を見ながら、ルナリアは呻き声を漏らすことしか出来なかった。
花が焼け落ちていく。
代々受け継がれてきた空中庭園が崩壊していく。
赤い焔が全てを飲み込み、ルナリアが大切にしていたもの全てが消えていく。踏み躙られ、壊され、潰され、崩れ去っていく。
気付いた時には全てが手遅れだった。
逃げる暇もなく。教会は突如として襲撃してきた騎士たちの手によって陥落したのだ。
「ぁ、ぁ……」
グシャ……と、靴が花を踏み潰した。
見上げれば虚な目をした騎士が、ルナリアを見下ろすようにして立っていた。
その騎士の背後に積み上がっているのは無数の死体。
大司教や司教、牧師や果ては修行として来ていた修道女たち。見るも無惨に首を切り落とされた、ただの亡骸。
「な、なんで……こんな…………」
「…………」
ルナリアの問いに騎士は答えない。
幽鬼のように覚束ない足取りで、ルナリアの元へと歩み寄ってくるだけ。
「どうして……このような非人道的な真似が、できるのっ?」
「…………」
返ってくるのは沈黙。
血に塗れた剣が振り上げられる。それは断頭台の上でギロチンが落とされるのを待っているよう。
ルナリアは断罪の時を待つ罪人のように、その瞳を堅く閉ざした。
(レン……! 助けて……!)
今この場にいない自分の騎士の顔を思い浮かべながら、助けに来てくれるかもしれないという一縷の可能性に希望を抱いていた。
だが、現実は無情だ。
人の抱いた希望など容易く破壊していく。
「…………っ!」
断罪の刃が落とされた。
ルナリアのうなじに吸い込まれるように、一条の斬線が駆け抜けた。
そして、次の瞬間には周囲に紅い、
「させるかぁ――ッ!」
業火が広がった。
ルナリアに触れる剣を遮るように。炎の壁が刃を後方へと吹き飛ばした。
空中庭園を包み込んでいた炎よりも紅く、全てを燃やし尽くしていく炎よりも熱い。崩壊した空中庭園をたった一人の騎士が炎が暴れ狂う地獄へと変容させた。
その炎が荒れ狂う地獄の中心に、レンは立っていた。
「…………《炎獄》」
――《炎獄》。
それがレンが騎士として賜った二つ名だ。
レンの『魔法』は至極単純明快。ただ炎を操るだけの魔法だ。だが、その火力の高さは他の『魔法』の比にならない。触れたもの全てを燃やし尽くす地獄の炎。それを操るが故に、レンは《炎獄》と呼ばれている。
「ルナっ、無事か!?」
「うん……大丈夫……」
ルナリアの元に駆け寄ったレンはその身を抱き上げながら、そう問うた。
それに対して、ルナリアは大丈夫とだけ返した。頭から血は流れているし、体も上手く動かせないほどの激痛に襲われているが、それでもレンに心配かけまいと気丈に振る舞ってみせた。
対するレンもボロボロだ。あちこちに切り傷がある。焼かれた跡も残っている。今も体の傷を押して、ここまで急いで来たのだとわかってしまう。
「レン……来てくれて、ありがとう……」
「当たり前だよ……俺は、君の騎士だ」
レンの言葉に、ルナリアは胸の奥が熱くなる感覚に襲われた。このむず痒い衝動は今の状況に相応しくないと、ルナリアも理解している。
だから、今はこの衝動はしまい込む。
「やっと……ルナって、呼んでくれた……」
「うん。やっと、だ。そして、これからも君をルナと呼び続けるよ」
そのために――レンはそう言葉を続けて、ルナを抱き抱えながて背後に視線を向けた。
そこに立っているのは一人の老齢の騎士。王の側に立つことが許された最強の騎士ドルナ・ノーラ。そして、取り囲むようにして立っている騎士たちの姿もある。
「ここから逃げよう。二人で」
「うん!」
その言葉を皮切りに、騎士たちは一斉に襲いかかった。それを炎の壁で遮りながら、目の前でただ此方を見ているだけの老騎士へとレンは目を向けた。
「団長、貴方は来ないんですか?」
「……行くとも。ただ……これは私からの提案だ。今ならば降伏も受け入れよう。《聖女》を置いて、この場から立ち去ればそれ以上はお前に手を出さないと約束する」
「……それじゃあダメなんですよ。俺はルナの騎士だ。貴方も……アンタも王に仕える騎士ならわかるはずだ。この人を守るために命だって賭けられる、この気持ちが」
「分かるとも。だが、彼女は王ではない。この国の主に対して、そういう感情を抱くならまだしも、それはただの女だ。王を守る騎士のように命を賭ける道理はないだろう」
「ルナはこの国に魔除けの結界を張っている。それがこの国にどれ程の利益を齎しているか、アンタだって知っているはずだ。《聖女》を失えば、その結界の維持だって……」
「だが、それはあくまで『魔除け』だろう? 王都を守護する完璧な結界ではない」
このままではただの押し問答だ。
なにをレンが言っても、ドルナはまるで聞く耳を持とうとしない。この状況がどれだけ異常なのかを理解などしてくれないだろう。
「分かりました。では、俺はやはりアンタ達の敵になるしかない。ルナと……ここから逃げる」
「ここから逃げた所で、お前らは追われ続ける身だ! ならば、今ここで楽にしてやるのが俺の役目だろう!」
ドルナは剣を抜き放ち、二人の距離を隔絶していた炎の壁を切り裂いた。
だが、それ自体にレンは驚愕しない。
相手は聖王国最強の騎士だ。それくらいの芸当できて当然だろう。そして、この数を相手にルナリアを守りながら戦うのは論外。逃げる道もない。
なら、どうするのか。
単純だ。逃げる道が無いなら、作ればいい。
「団長。俺はルナを守る。だから、今は逃げさせてもらいます。次、もし会ったとき。その時に決着を着けましょう」
「逃げられると思って……!」
レンの足元の床が崩れた。いや、違う。正確には溶けていた。
熱に当てられ、地面が溶解して下に続く道を形成していたのだ。
「ここは最上階。下に行けば逃げ道はいくらでもある。ここでお別れです、団長」
「待て、レン!」
そうして、レンは大教会を脱出した。
雨が一頻り降り続ける王都の道を駆けながら、門壁を目指して走り抜ける。
この日、レンとルナリアはレーデス聖王国の叛逆者として世界中に指名手配される事となった。
◆
とある山中の山小屋。
辛くも逃げ延びたレンとルナリアはそこで夜を明かしていた。
雨で濡れた衣服を脱ぎ暖炉の前で乾かしながら、小屋の中にあった布を服のように羽織り火に当たって寒さを凌いでいる。
「ねぇ……レン。この後はどうするつもりなの? 私たちはこの国じゃもうただの犯罪者だよ?」
「そうだなぁ……このまま聖王国領を脱出して、帝国領にでも身を潜めようか」
「うん」
二人は今後についての話し合いをした。
もうこの聖王国には二人の居場所はない。聖王国の領地で逃げ回っていても、いつかは捕まってしまうのは明白だ。だから別の国に逃げよう、と。
「ねぇ、レン……ありがとね」
「……え?」
「私を……助けてくれて……」
ルナリアはなににも変え難い笑みを浮かべて、レンにそう言った。レンはそれに対して、なにを言うでもなくこくりと頷くだけ。
夜が明けていく。
怒涛の一日が終わり、更なる波乱の日々が幕を開ける事になると、レンは予感している。
(でも、それでも……俺は君を守るよ……)
一人の騎士として。
一国に裏切られた《聖女》の護衛騎士として。
自分だけはルナリアを裏切らないと、決意を新たにしたのだった。
裏切り聖女の護衛騎士 ホードリ @itigo15
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