僕の営業、或る日の営業!

崔 梨遙(再)

1話完結:900字

 僕が30歳くらいの頃の話。僕は求人・採用に関するベンチャー企業で働いていた。求人・採用に関する仕事は幅が広い。だが、僕達は他社に無いオリジナルの商品(企画)を持っていたので、競争相手のいない商談が多かった。


 だが、取り引きが上手くいくと、次第にメジャーな求人広告なども注文してもらえるようになる。ありがたいことだが、正直、メジャーな求人広告は僕達じゃなくても出来る。基本的に、どんな仕事も引き受ける。



 そんな或る日、お客さんから中途採用の求人広告の申込みがあった。増員したい時に欠員もあって、それなりの人数を急に集めなければならないとのことだった。しかし、予算の関係で小さな枠だった。


 僕は、“これでは無理だ”と思った。


「すみません、今回はこの小さな枠での採用は無理だと思います」

「どうして?」

「今回の職種は不人気職種です。それに競合他社も広告を出しています。そこで勝とうということでしたら、貴社の良さ、仕事のやりがいなどを盛り込まないといけません。この枠では貴社の、この職種の良さが伝えられません。多分、応募は無いでしょう。ハッキリ申し上げて、お金の無駄です」

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

「もっと大きい枠にするしかないです。情報量を多く盛り込まないと勝てません」

「だが、予算が無いんだ。これでやってくれ」

「それでしたら、すみませんが今回は他所の求人広告屋に依頼してください」

「崔さんは数字がほしくないのか?」

「営業ですから数字はほしいです。ですが、お客様に無駄金を使わせることは私には出来ません」

「わかった! もう頼まない」



 後日、そのお客さんから電話があった。


「崔さん、求人広告を出したよ」

「そうですか、いかがでしたか?」

「応募ゼロだったよ」

「そうでしたか、それは残念でしたね」

「予算を確保した、もっと大きい枠でやる。来てくれないか?」

「はい、喜んでおうかがいします」



 営業はツライ、つい目先の数字がほしくなる。だが、断る勇気も必要だと思う。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の営業、或る日の営業! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る