僕の営業! 待つこともあるさ!

崔 梨遙(再)

1話完結:1000字

 僕が30歳くらいの頃、採用関連のベンチャー企業で働いていた。企画営業とカメラマンとライター。営業は完全な新規開拓営業。僕は確実にお客さんをコツコツと増やしていった。



 その企業は、なかなか攻めることが出来なかった。資料を郵送してもダメ、電話でアポを取ろうとしても事務員のお姉さんが取り次いでくれない。仕方がないから飛び込み営業を続けた。採用担当者と話すことさえ出来れば話は盛り上がるという自信があった。まあ、実際にその企業の採用責任者は多忙だったのだが……。


 その日は、あえて夕方に飛び込んだ。夕方なら外へ出ていても帰社していると思ったからだ。4回目の飛び込みだった。そこで、ようやく採用責任者と会うことが出来た。やっぱり、会うと話は盛り上がった。


 だが、採用責任者は言った。


「崔さんの提案はとても魅力的です。今回の提案は新卒採用に関するものですよね? 私達もちょうど新卒採用を始めようと準備しているんです。私達は3年計画で新卒採用を開始しようと思っているんです。3年間は新卒を受け入れる準備です」

「3年後ですか? わかりました。では、私は3年待ちます」

「3年ですよ!」

「はい。私は3年間で、予定通りに新卒採用を開始できるように資料や情報の提供をさせていただきます。援護射撃と思ってください。社長様と話す時に武器となるような資料と情報、そちらが必要とする資料と情報を提供させてください」


 それから3年、僕は年に3~4回、仕事の邪魔にならない程度に採用責任者と会い続けた。途中、小さな求人案件を任せてもらえた。取引実績を作ってもらったのだ。


 途中、僕は採用責任者に言われた。


「崔さんは、いつまで来てくれるんですか?」

「お取引をいただけるまでです。ですが、お取引をいただいたらフォローに来ますので、ずっと来ます」


 採用責任者は笑っていた。『崔さんらしい答えですね』。



 そして3年後、僕が提案した新卒採用がスタートした。約束通り、3年で僕は大きな取り引きをさせてもらえた。採用責任者は約束を守ってくれたのだ。3年は長いのだろうか? いやいや、お客さんにも都合があるのだ。『今スグに申込み書をもらえないならもういい!』と考える営業マンは多いのだが、僕はそうじゃない。その企業の新卒採用1年目は10名の採用に成功。それからは毎年取り引きをさせてもらえるようになった。僕は、約束を守ってくれた採用責任者に今も感謝している!







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