第1380話 従魔術

 久しぶりのコルトルスの町。ここも変わったものだ。


 町と言うより村みたいなものだったのに、人の数を見たら町でも不思議じゃないくらい見て取れた。


 ……どこからか移ってきたのか……?


 海上に見知らぬ船が現れたらからか、海岸線にたくさんの人が集まっていた。


 パンペールが上陸するくらいだから海底は低く、なだらかな坂になっているのだろう。小さな港には入れないが、入ったとしてもタラップがないのだから意味はない。


 陸から三百メートルくらいで停泊させたらルースカルガンで飛び出した。


 一応、コルトルスの町にも支部は置いてある。まあ、職員は送れなかったので現地民──と言うか、婦人会か? おねえさんたちを雇い、ミサロやリン・グー(ゴブリン)を守ってもらっている。


 発着場にルースカルガンを降ろすと、見た記憶があるおば──おねえさんたちが集まってきた。


「お久しぶりです。ミサロはこちらにきましたか?」


「ああ。クスの葉の収穫に出たよ」


 行動力があるのか仕事が早いのか、五分以上、立ち止まっているとこ見たことないよ。寿命とか大丈夫なんだろうか? 万が一のときはボーナスでミサロが寿命を延ばすよう願うか。


「リン・グーはどこです? ちょっと相談したいことがあるもので」


「今は仕込みをしているんじゃないかね? すぐ呼んでくるよ」


 そう遠くにいなかったようで、すぐにリン・グーがやってきた。


 ……なんだろう? ゴブリンの気配がわかるはずなのに、リン・グーの気配がわからなかったよ……。


「すっかり打ち解けているんだな」


 前のときもそうだったが、衣服も雰囲気も町に慣れているように見える。緑の肌じゃなければ町の者と思ってしまうだろうよ。


「ええ。とても感謝しているわ。それで、わたしになにかようかしら?」


「パンペールの操作法を教えてくれるか? ロンレアの港に怪我したペンパールが倒れていて困っているんだよ」


「よほどの怪我じゃなければ回復したら勝手に消えるわ。従魔術は術者が死ねば解除される。あとは、パンペールの気分次第よ」


 従魔術? そんなのがあるんかい。そういや、奴隷紋とかもあったな。忘れそうになるが、ここってファンタジーな世界なんだよな。


「リン・グーは、従魔術とやらは使えるのか?」


「使えないわ。あれはライングル帝国の秘術だから」


 またライングル帝国か。ソンドクル王国を侵略してどうしようってんだ? なにか特別な……ものがあったな。マイセンズが……。


 ヤツらはマイセンズを知っているのか? 知っているからこそ侵略をふっかけてきたのか? それは、マイセンズに敵対した者? マイセンズの情報を持つ者? ダメ女神と敵対する者? 勇者と関係ある者? ダメだ。この世界、不確定要素ばかりで想像もつかんよ!


「まったく。ゴブリン駆除以外の問題が多すぎるんだ」 


 なんでオレのほうだけに回ってくるかね? オレは勇者でもなければ救世主でもないのによ。凡人には荷が重いんだよ……。


「仕方がないわ。あなたは女神の使徒なんだから。問題が寄ってくるようできているのよ」


 否定できないのが悔しい。女神の使徒が平穏無事なほうが不自然だしな。


「まあ、従魔術ってのがわかっただけでもありがたい。そいつを殺せばいいってことだからな」


「そう簡単なものではないと思うのだけどね」


「相手が殺せる存在とわかればあとは知恵比べだ。そして、相手より強い戦力を持つこと。まあ、神のような力を持っていたら諦めるしかないがな」


「……本当にあなたは怖いわね。さっさと負けてよかったわ……」


「オレだって勝てない相手ならさっさと負けを認めて、その足に口づけをして助けてくれと懇願するよ」


「そこがわたしは恐ろしいと感じる。人間の怖さが出ているから」


「…………」


「あなただけは敵にしたくないわ。あなた味方に蔑まれても目的を果たしそうだからね。だからわたしはあなたに頭を垂れ、その足にだって口づけするわ」


 初めてこいつを、いや、ゴブリンに対して嫌悪を抱いてしまった。興味も憎しみもないオレが、だ……。


「……気をつけるよ……」


 こいつは、絶対に隙を見せてはいけない存在だ。ナメてはいけない存在だ。そして、絶対に敵にしてはならぬ存在でもある。油断したらこいつは静かに人の間に浸透してくるぞ……。


「用はこれだけ?」


「ああ。ミサロを頼むよ」


 こいつの性格はともかく、優秀なのは間違いない。なら、しっかりと働いてもらうまでだ。


「ええ。わたしになにができるかわからないけどね」


 戦闘面は期待していない。こいつは町の者との繋ぎ。ゴブリンのクセにやたらコミュニケーション能力に期待しているのだ。


 おねえさんたちに心づけを渡したらルースカルガンに乗り込んでロンレアへと飛んだ。


「そう言えば、コルトルスにいたパンペール、いなくなったな。故郷に帰ったのか?」


 故郷があるとしたら大変そうだ。てか、あんなものが海をさ迷っているかと思うと海上輸送とかの未来に暗雲しかないな。氷山に激突するタイタニックが如しやろ。


「夜の航海とか命懸けだな」


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 ペンパールがいつの間にかパンペールになってた。パンペールに修正しなきゃ。

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