第1372話 *マルゼ* 努力と根性

 ビンブーを五回も運べばタルジさんたちも慣れ、おれが付き添うこともなくなった。


 ロルとマニルもタルジさんのところに長くいたので、問題なくやり取りできている。馬車から降ろすのは巨人だから忙しいってこともない。ライガもやってきているし。


 なので、運ぶのはタルジさんたちに任せ、おれはドワーフの女の子、マルを冒険者ギルドで働かせるようにお願いした。


 マルは、タルジさんのところで帳簿づけの下働きをしており、簡単な文字や計算はできた。字もそう悪くない。ちゃんと書けていたよ。


「……なかなか無茶を言うな、お前は……」


「今からドワーフを人として扱っておいたほうがいいですよ。おれのいたところでは王国が一つ、滅びかけましたからね。いずれ、こちらにもドワーフはやってきます。同胞が下奴げどと知ったら不快に思うでしょうね」


 仮にならなくても下奴にされているドワーフは不満に思うはずだ。自分たちだけなぜ下奴として苦しい思いをしなくちゃならないんだってね。


「おれの所属しているセフティーブレットは、他人の所有に文句は言いませんが、仲間を害する者には容赦はしません。ドワーフも恐れません。おれたちのマスターは、仲間のために国を越え、魔王軍とも戦いましたから」


 セフティーブレットには巨人もいればエルフもいる。獣人も味方にしていると説明した。


「おれも同じです。仲間のためならどこにでもいきますし、どんな凶悪な存在とでも戦います。おれたち姉弟も全力で助けてもらい、こうしてここにいられるんですから」


「わ、わかった。お前の働きを見ていたら事実だってわかるからな。マスターに許可をもらうよ」


 日頃の行いは大事って本当なんだな。おじちゃんの言ったとおりだ。


「ありがとうございます!」


 さすがにマルを職員にはできないようで、おれの連れって形に落ち着いた。


「こっちはルウ。手伝いって形で手紙を清書している子だよ」


 今では簡単な依頼書を清書できるようになり、壁に張り出されるようになったよ。


「マ、マルです。よろしくお願いします、ルウ様」


「様はいらないよ。もちろん、おれにもね。ルウ、マルゼで構わない。逆に様をつけられると困るよ」


「わ、わかりました」


 そう簡単に骨まで染み込んだ下奴根性は消えないか。


 その点、おじちゃんは凄いよな。状況や奴隷根性を利用して、新たな価値観を植えつけた。プライドを持たせた。おれもそうならないとな。


「ルウ。マルに清書のやり方を教えて」


「あたしが!?」


「そうだよ。覚えることは大事だけど、もっと大事なのは教えること。次に技術を受け継ぐことだ。教え方を覚えれば孤児院の子たちにも教えられる。そうやって読み書きを教えていくんだ。親がいなくても生きていけるようにね。おれも文字なんてわからなかったけど、根気よく教えてくれた。だから今のおれがある」


 おじちゃんもこの世界の文字に苦労していたけど、わかることはすべて教えてくれた。計算の仕方も、学び方も、惜しみなくだ。


「最初はおれも一緒に教えるから。がんばって学ぼう」


「わ、わかったよ」


「マルも不安だろうけど、おれが守るから。生きるために学んで」


「は、はい。わかりました」


 自らの意思で動かないと成長はしない。根性と努力だ。


「マルゼは無自覚すぎ」


 なにかルウが不機嫌だ。おれ、なんかした?


「ど、どうしたの?」


「なんでもないよ」


 なんでもない態度ではないが、下手なことを言うなとおれの勘が言っている。ここは、スルーしておこう。うん。


 なにもなかったようにマルがどれだけ書けるかを見せてもらった。


「字、綺麗だね」


 おれより上手くね? 羽ペンでよくここまで綺麗に書けるものだ。


「あ、ありがとうございます」


「これなら清書担当になっていいかも。ガバルさん。マルに書類を書き移してもらうといいと思いますよ」


 マルが書いたものをガバルさんに見せた。


「おー。綺麗な字だな。これなら任せられるぞ」


「じゃあ、ガバルさんにマルを任せてもいいですか? おれは外に出なくちゃならないので」


 さすがにすべてを任せられない。ドワーフたちの世話もあるんでな。


「ああ、いいぞ。ルウもがんばってくれているからな」


「ルウはがんばり屋だから」


 自らの意思でここにきた。がんばらないと生きられないとわかっている。努力と根性は飛び抜けているのだ。


「アハハ。マルゼは罪な男だよ」


 罪? おれ、なんかした?


「ルウも大変だな」 


「もー! 止めてください!」


 なんだろう。おれだけ取り残されてない? ま、まあ、ルウがここに馴染んでいるならオッケーだ。


「ちょっと外に出てきますね」


 なんか居心地が悪い。ここはちょっと時間を空けるとしよう。


 外に出てビンブーの集まり状況を教えてもらった。


「どんどん増えているようだ。農作物にも被害が出てきているって話だ」


「獣の死体以外にも食べるんですね」


「それだけ食うものに困っているんだろうよ。お陰で金も尽きそうだ。どうする?」


「用意します」


 銅塊はまだある。マガルスクでたくさん集めたからな。でも、払うばかりじゃなく、回収することを考えないとな……。

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