第1115話 *ロイス*

 とうとう始まったか。


 もう何度目だろうな、こういう状況は? 慣れすぎてしまって何度目かも思い出せんよ。てか、こんな状況に慣れるってなんだ? 何万匹ものゴブリンが眼下にいてなんの感情も湧いてこんよ。感覚、完全に狂ってんな。


「各自、好きに撃っていいわ」


 ミリエル様もなんの感情もない。やる気あるのかと疑ってしまうくらいだ。


 まあ、その分、職員たちはやる気満々だ。これまで後方支援としてゴブリンを駆除することができなかったからな、この状況は歓喜ものだろうよ。


「よし、やるぞ!」


 戦闘指揮を任されたルイスの声で一斉にEARをぶっ放した。


 おれも構えていたEARの引き金を引いた。


 狙う必要もない。ゴブリンは犇めき合っている。逆に狙いが定まらんよ。こりゃ片付けが大変だ。


「マーズ、ロンダー、RPG-7! 十一時方向、距離五百に撃て!」


 指揮官たるルイスが声を上げ、RPG-7担当の二人がすぐに撃った。


 ルイスは指揮のため、駆除に参加できない。周囲に目を向けている。元冒険者で経験も豊富だからマスターに期待されている。


 おれも元冒険者ギルドの一員としてルイスの実力は知っているが、まさかこれほど指揮官に向いていたとはな。マスターの見る目は呆れるばかりだ。


 あの人の見る目は異常だ。直感的に人の本質を見抜いている。


 冒険者ギルドでは役立たずと言われ、セフティーブレットに左遷されたようなおれを重用し、実務部隊の長として、ミリエル様の補佐兼マスターの代理を任さてくれた。


 他の者は懐疑的な目を向けていたが、マスターやミリエル様は気にもせず、おれを評価してくれた。


 まあ、戦闘面では役に立たんので今は一兵卒としてゴブリンを駆除するだけだ。


 しかし、ゴブリンという生き物は変わらんな。こいつらなんのために生きているんだろうな? 疑問でしかないよ。


「ルンを持ってきてくれ!」


「こっちもだ!」


 ゴブリンが多すぎてルンの消費が凄まじい。一人三十個は用意したのにな。


 それでも去年のアシッカよりはマシか。あのときは銃を壊さないよう交代で撃ってたしな。EARはすべてを撃ち尽くすと魔力充填まで時間はかかるが、EARはたくさんある。あるから二丁撃ちするヤツまでいる。そりゃルンが足りなくなるのも仕方がないか。


「ルンと水です」


 ガキどもがルンと水を運んでくれ、空になったルンを片付けてくれた。


 ミルズガンに侵入した職員が孤児を集めて補給部隊として組織した。


 ロンレアでもやっていたが、益々効率的になっているよな。下手な諜報員より恐ろしい組織になっているよ。セフティーブレット、どこを目指してんだろうな?


「ロイスさん。こちらに」


 プランデットでミリエル様に呼ばれた。なんだ?


 作戦指揮台に向かうと、ブラックリンがあった。


「他も動き出したのでわたしとルーは空に上がりたす。ここをお願いしますね」


「わかりました。お気をつけて」


 一兵卒も終わりか。もう少し稼ぎたかったが仕方がない。出世するとはこういうことだ。


「では」


 ブラックリンに跨がり、空に飛んでいった。


「メー。稼いできていいぞ」


 EARを双子の片割れに渡した。双子もミリエル様についていると稼げないからな。


「いいの?」


「構わんよ。この状況はしばらく動かんだろうからな。今のうちに稼ぎまくれ」


「ありがと。あとでお酒奢るよ」


 見た目は十歳くらいだが、中身は十七歳。ミリエル様がいなくなると地を出すヤツらなのだ。


「それはありがたい。楽しみにしているよ」


 作戦指揮台に上がり、首にかけていたプランデットをかけた。


「ルイスも稼いでこい。異常があればすぐ呼ぶから」


 おれに戦闘感はないが、異常を見つけるくらいはできる。従兄弟にも稼がせてやろう。


「ふふ。立派になったものだ」


「うるせー」


 マスターに任された以上、やるべきことはやらせてもらうさ。セフティーブレットは居心地が最高だからな。

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