王立魔術学院のカワサキ・ヤンキー〜インフレについていける程度の能力〜

@tokizane

⓪ヤンキー、自分のスキルを認識する。

「もう1度おさらいしましょう。『魔力量』という概念があります」

 モリィは説明する。


「魔術師が戦闘状態になるとほとんどあらゆる行動でその魔力を消費することになる。もちろん多ければ多いほど良いわけですね」


『量』ってことは、数値化できるわけ?

「いえ、残念ながら魔力量を測定できる器具は開発されておりません。魔術を使える者、魔術師の主観として『相手よりも自分のほうが多い』、『修行を重ねた結果1年前よりも魔力が増した』そうざっくり判断できるだけです」


 戦闘状態の選択肢……というと——

 モリィは指を立てて数える。

「主に①身体能力の強化、②放出魔術、③防御魔術、④治癒魔術、それに⑤魔術師1人1人が生来の才能として授与される固有魔術ですね。これらを駆使し戦うわけですが、長引いて魔力量が底をつくと——」


 ただの人間と変わらなくなる。勝算は極小になると。

「身体強化1つとっても一般人からすればインチキですよ。馬より速く走れて、銃で撃たれても『痛い』で済むんですから」


 ……つまりゲームでいうと、HPヒットポイントMPマジックポイントをあわせたような概念なのか?

「ゲーム? 私にはそのHPとMPという概念のほうがわからないのですが……」


 魔力量の多さとその魔術師の強さには正の相関関係がある?

「……そういうことになりますね。もちろん戦う相手との相性や戦いのシチュエーション、固有魔法の優劣も関係してきます。きますが——やはり魔力量があるほうが有利と言い切れる」


 うーん、D○の戦○力みたいなもんか。

 ……その魔力量っていうのは生まれつき個人差があるものなの? 増やせる?

「魔力量は人それぞれ多寡がありますが、範士マスターから正しい指導を受けることができれば伸ばすことが可能です。とはいえ爆発的に成長することはありません。毎日練習して少しずつ伸ばしていくものですから」


 ヒトシはしばらく考えたあと、モリィにこう問いかけた。

「あくまで俺の体感だけれど、魔力量が大きく変動することがある。今あんたら『生徒会』の奴らとトレーニング(模擬戦とか走り込みとか)してるだろ? その内容によって使える魔力量が——体感では倍くらい違うことがある」

「倍……それはありえない……とは言い切れないか。それはきっとあなたの固有魔法に関わることなのでしょう」


 モリィの表情が生き生きとして見えた。共にこれから命懸けの戦いに参加するというのに、俺を魔術師として育てることに夢中になっている。


。そういう固有魔術チカラ…ってコト!?」

「常時効果が発生する固有魔術。珍しいですが前例がないわけではない……」


「ゲームでいうところのパッシヴスキルってやつね(ゲーム脳)」

「またよくわからない喩えで納得していますねあなたは……。転移者特有のものですか?」


「まぁともかく実験してどういう能力なのかはっきりさせよう。しよう、しよう、そういうことになった」



 ……ヒトシの実験に生徒会のメンバーは協力してくれた。

 その結果わかったことは——


「模擬戦闘をする際魔力量が上昇する。そしてあなたの主観において」

「戦う相手と同じ数値にまで上がった。俺の元々の魔力量を1000とすると、2000とか3000にまで増える」


(自分よりはるか格上と戦うこととなっても、ジャイキリを起こせる確率が跳ねあがる。これはかなり使える能力では?)


「魔力量は数値化できないはずなんですけれど……」

「なんとなくそうじゃないかって俺が思ったの!! そして自分よりも魔力量がない奴と戦う際、相手にあわせて弱くなるなんて不都合は生じない」


「さらにありがたいことに」

「複数人と戦えばその相手全員の魔力量の合計で計算される。大勢に囲まれても問題なく戦えるっつうことね」


 モリィは実験で明らかとなったヒトシの能力に感心しているようだった。

 ヒトシはそのことが嬉しかった。子供みたいな素直さだ。

 自分の同年代の異性とはこれまでまるで縁がなかったヒトシである。


「マジで面倒なことに巻き込まれちまったなぁ」


(喧嘩相手がそこらの不良や暴走族だったあのころが平和に思えてくる)


 元いた世界では『関東最強』と謳われたヤンキー、ヒトシがよりにもよって学校の体制側の組織である生徒会に与し、盗賊団ギャングと戦うことになるとは。

 ヒトシが今いるのは王立魔術学院の敷地内である。

 盗賊団が襲撃を予告してきたその期日までたった2日しか残されていない。


「防衛作戦当日は、私が完璧な体制を敷いてあなたをサポートしてみせますから。それに私の治癒魔法は——」

「死にさえしなければ無傷の状態に戻すほどの出力があるんだろ? だからって特攻できるほど覚悟はキマってねぇよ」


「……あなたが元いた世界では『やんきー』だったんでしょう? 喧嘩が強くて、仲間意識が強くて、矜持があって……。どんな相手にも負けないときいています!」

「戦闘民族かな……。まぁ魔力量さえ互角ならあとは根性の勝負、なら俺が遅れをとる相手はいないだろ」


(なんて好きな女の前で大言を吐いちまったが……相手のボスはこの国最強の魔術師。魔術戦初心者の俺がどう立ち回ればいいんだ?)

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