第8話
「なんか息苦しいや」
僕がそう零すと、君は心配そうな眼差しで僕を見てきた。
「大丈夫?」
その言葉で僕の心は多少ほぐれた、と思う。心から溢れる謎の閉塞感は僕の心を満たしていた。気がつけば僕は胸を抑えていた。
心が死にたがっているように、涙が溢れ出しそうになっていた。
その様子を見た君が僕の手を握る。凝り固まった閉塞感が融和していく感覚が心に広がっていく。
「ありがとう」
僕は、君の方へ向いて感謝を述べた。君は泣きそうな声で言う。
「静次!もう!辛かったら私に相談してって言ったでしょ!約束、守って、、よぉ、、!」
僕の顔を近くに寄せた君は、「えい!」と口にして僕と君の額をぶつけた。
痛くはない。君の体温が額から、手のひらから流れ込んでくる。閉塞感や心の中の鉛が雪解け水のようにどこかに流れていく。
「これから辛かったら私のところに来てね!絶対だよ!」
君は頬を膨らまして言った。可愛らしくてほくそ笑んで頷くしか僕は出来なかった。
浄化されていく心の中で鳴り響く「離れたくない」という叫びは何なのだろうか。
君に触れればその叫びも無くなる気がして、僕は君に言った。
「ハル、ちょっと抱き締めてくれ」
「わかったよ、静次」
ハルが春の温もりと共に僕を包み込んだ。
その時、無意識に封じ込めてた何かが弾けて僕は声にならない嗚咽を漏らしてしまった。
「大丈夫、大丈夫だよ静次」
そう言って僕の背中を優しく撫でる君。
生まれる、「君が側にいる」という心の中のオアシスが。溢れ出す愛が、僕という枯れた大地に水を与えた。
十分後、僕は落ち着きを取り戻し、君の瞳を見る。
「どうしたの?静次。じーっと私を見つめて」
君にそう言われて恥ずかしくなった僕はそっと目を逸らして。
満天の青空の下にある桜を見て、思いっきり笑顔を作り君に言った。
「いいや、なんでもない!やっぱり春って綺麗だなーと」
それを聞いた君は僕に問い詰める。
「どっちだ!どっちに言ったの!私か季節かどっちなの!」
僕はニヤッとして、その問いに対してこう返す。
「どっちだろうな?」
「意地悪!静次が珍しくいじわる!」
僕の言葉に拗ねた君は僕に向かって走ってくる。その姿を確認した僕は逃げる。
「待て!絶対に吐かせる!」
「捕まるもんか!自分で考えながら転がってろ!」
「酷い!」
そう煽ったのはいいが普段運動しない僕の体力はまぁお察しの通りですぐに捕まってしまった。汗を垂らし、服が着崩れて、普段では感じない艶かしさを纏う君は僕の身体に馬乗りになって声を発する。
「ほらぁ?早くいいな?このままだと私がナニするかわからないよ?」
「うぐ、、(別にそれでもいいんだが)」
「ん?なに言った?」
「・・・」
僕は言葉を詰まらせる。ここでホントの事を言うか、嘘を言うか、それともこのまま君にこの身を任せるのか。
どれを言っても僕に待ち受けるのはハルが関与している幸せというご褒美だ。
「春、季節の春が綺麗だって言ったんだよさっき」
僕は嘘をつく。本当はハルが僕を包んだ時の姿が光景が綺麗だと言いたかった。でも言えない。僕はヘタレなんだ。だから本当のことも言えず、身を任せることも選べない。
僕の嘘の答えを聞いた君はどうやらそれを信じたらしく、僕が身震いを覚えるほどの怖い、しかし可愛らしい笑顔を浮かべている。
「へぇ、、、んじゃ僕が辱めてやる!」
「おいコラ、僕ら未成年だ!やめるんだ」
「話し方が単調だねぇ、静次」
僕は「しまった」と思った。僕は動揺してハルに気があると見られるような反応をしてしまった。それを君も察したのか、ムフーと嬉しそうな表情を浮かべている。
その後、散々いじられ顔が真っ赤な状態で帰宅した。そのせいで熱が出たのではと母に心配されてしまった。それでも良かった。
君と触れた温もりがこの優しい夜空のように包んでいたから。
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