青鬼のおじちゃん三度

意識を取り戻すとやはり仄暗い海の中だった。目の前には覚醒したばかりの美羽と青鬼のおじちゃん。俺はまずおじちゃんに今回の事態を真剣に考えきれていなかったことを詫び、これから魔物とどう戦うかの考えを美羽とおじちゃんに伝え、今後の作戦を念入りに話し合った。

「おじちゃんに聞きたいのだけど、死に戻りの時、復活の時間をもっと前に戻せないかなぁ?例えば1年前とかに」

『1年前に戻すことは可能だ。だがそれだけ長い時間を逆戻りすると時間軸の影響もそれだけ大きくなり、戻った1年前から死の直前までの記憶を失うことになる。記憶の全てを失わなわず復活できるのは命を落とした当日の起床した時間までだ』

「ん〜それじゃ意味がないなぁ」

『だが5時間程度なら、記憶を繋ぎ止めつつ復活を早めることができるはずだ。稀に死亡当日の数分程度記憶の欠落が起きることがあるにはあるがな』

「その数分の記憶に大事なことが含まれなければ問題ないわけだ」

『そうだ。それに主らはふたりだ、ふたり同時に同じ時間の記憶を失うことはまずない。もしも記憶の欠落が起きてもお互いに補いあえばよいだろう』

「うんそうだね。できれば1年前に戻って、自衛隊や警察を説得して侵攻される前に魔物たちを潰したかったけど、5時間あれば今回の襲撃に限るけど犠牲者を最小限にできる可能性があるよね」

「あとは敵の出方がわかればいいんだけど、おじちゃん何かわかる?」

『うむ、奴等の出方は大方推測できる。だがそれを知る前に世界中の中からなぜ日本が初めの侵略地に選ばれたのかを知っておいた方がいいだろう』

「あっそうだね、奴等は日本だけで無く、世界を侵略しよう考えているんだった。うん、その理由を教えて」

『よかろう。奴等も人間の持つ科学力と兵器の怖さをよく心得ている。それゆえに緒戦の地に日本を選んだのは大きく三つの理由がある。まず島国であること。奴等は山岳地帯を利用したゲリラ戦で日本を攻撃してくるはずだ、そうなると各地に散らばる魔物たちを大型兵器で一網打尽というわけにはいかない。他国から援軍を望むとなれば大型兵器よりも人海戦術をもって各個撃破するより多くの人手を望むこととなる、大陸のように陸続きではない日本は、他国から多数の人材を望むにしても海路もしくは空路を使うしかない。そのため迅速かつ大量に援軍を望めないこと。』

「なるほど、たとえば戦闘機で素早く駆け付けて空爆をおこなっても、多数の日本国民を巻き添えにしかねないからね」

『そういうことだ。次に山岳地帯が日本列島の背骨のようにはしっていること。山岳地帯は衛星からの監視も鬱蒼とした木々が視界を防ぎ、異世界軍の戦力と動きを把握させないため。気づかれずに日本の主要都市や自衛隊の駐屯地の近隣に自軍を分散でき、そして開戦後も正確な数や動きを把握させないことにより、先ほど主が言っていたとおり人間側の大型兵器を安易に使用させないためで、民間人を人質として拘束できればさらに有効となる。』

「ふむ。なるほど」

『そして最後に日本が世界でも有数の先進国であり大国であるということ。日本を攻略できたとなれば、高水準の科学力や技術力を世界の攻略に向けて利用できる可能性を持つということだ。また、日本国民は人質としてもある程度の効力も持っている。』

「奴らかなりこちらの世界を把握しているということだね」

『そうだ。奴らを侮ってはいけない。それらを踏まえて、我の考えによる奴等の作戦はこうだ。先ほども話した通り奴等は日本列島を縦断する山岳地帯を利用して部隊を日本の各主要都市や自衛隊などの防衛主要地帯の近隣に広範囲にわたって潜伏させる。そして同時多発的に日本の都市部と防衛主要地帯を襲っていく。もちろん一度や二度の同時多発攻撃で日本を攻略できるとは奴等も思っていない。自衛隊の総数およそ15万人、警察官の総数およそ30万人に対し、魔物軍の総数およそ10億。数に物を言わせ攻略するまで何度も何度も襲ってくるはずだ』

「ということは、俺たちが戦っていた最中も他の多くの場所で日本人たちは襲われていたんだね」

『んーそれが今回、主らの町は他のどの地よりも先行して襲われていた。もちろんどの地もすでに攻撃体制を整え、すぐにでも侵略できる状態だったが…。』

「ふむふむ、奴らの通信体制に穴があるか、統制の取れていない部隊がある可能性があるね〜」

『それが原因だとすると、その穴に付け入ることも考えられるが、敢えて主らの町にだけ先行させ、人間の出方を伺っているという考え方もできる。奴らも地球のことを調べ上げてはいるが、実際に戦うのは今回が初めてだ。どのように人間が応戦するかの様子見してもおかしくは無いと思うが、今回は何も知らない人間たちへの不意打ち。その様子見がそこまで今後の戦いの参考になるとも思えないのだが…』

「まあ、奴らの意図を全て把握するのは無理だろうし…。でもその情報は朗報だよ。奴らの今回の攻撃は全く無防備状態の日本人に対して完全な不意打ち。町のひとつやふたつぐらいは簡単に落とせると思い込んでいるはず。そこで、どこよりも先行していちばん無防備状態で容易いはずの俺たちの町が、落されるどころか奴らを返り討ちで壊滅させる。そんな夢にも思っていない不測の事態を起こしてやれば、奴らは間違いなくパニック状態になると思うんだ。その不測の事態を俺たち兄妹たったふたりでやる。奴らが町にも入っていない行軍途中の山中で襲い、周りの人間にも気づかれないうちに壊滅状態にする。それがまだ動いていない他の地域の軍たちに知らしめることができれば、恐らく今回の同時多発攻撃を一時見合せるはずだと思うんだ」

『ふむ、主の言うとおりかもしれんな。奴らにとって全く想定していない状況が起これば、主らが起こした同じことが他の地域でも起こり得ると考え、一時作戦の中断の決断してもおかしくは無い。なるほどそれを5時間前までに復活を遡らせることによって実現させるのだな』

「そう。そして一時的な作戦の中断でこちらの体制を整える時間を稼ごうと思う。間違いなく奴らは自分たちを壊滅に追い込んだ存在を必死になって調べるはず、そして他の地域にもそのような存在がいないか調査するだろう。手がかりを残すつもりは無いから、ある程度の時間を稼げると思うんだ」

『承知した。我もその作戦に賛成だ』

「美羽、そこで限られた時間を有効に使うために、巻き込んで申し訳ないと思うが頭の切れるあいつに協力を仰ごうと思ってる。」

「三島くんね」

「そう、あいつならこの窮地を乗り越える作戦を考え、誰よりも効率よく進めることができるはずだからな…」

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