愛と正義

@tablegood0212

第1話

私の前世は男性でした。英国でごく普通の家族で育ち、母と仲が良くて小さい頃は買い物に出掛けて近所の個展を見た。母はモデルもしていて肖像画が飾ってあったのだ。そんな母が私に買ってくれたのが一台のピアノで、趣味として成人してからもクラブで演奏した。教会で祈ると母の姿がよく浮かびました。


山口は西の京と呼ばれ、応仁の乱の時に京を追われた公家達が移り住んだのが理由です。夏には室町時代から続く祇園祭りや提灯祭りがあって、神輿が担がれます。地域の小学生が大内のお殿様という民謡に合わせて、大きな声で唄いながら踊りを披露します。外国人観光客がアメージングと叫ぶ祭りなのです。


世界・音は伝搬する。宇宙を作り続けているエネルギーの衝突音を弟は聴き続けている。積み木を組み上げる様に音は重なりあってゆく、伝搬する未来を作る世界は地球にたどり着くと人間の声に変わる。いつからか弟はその声に苦しみ始めました。神が下さったギフトは記憶を現実の世界へと進化させたのだ。


私は作詞をして唄を歌う時にダイナミックな気持ちを空に飛ばす、梅雨空にレインコートを羽織るのが好きだ。もう夏が近いので白いTシャツを着ている。近所のスタジオで録音している、エレベーターに乗るといつもの私に戻る。忙しい毎日に何を手につけても良いか分からないのだ、昇降機の床にしゃがみ込む。


私は友人がスマホで知らせてくれたアーティストのMVを見ながらよく似ているなと思った。高校生の私も友人と軽音学部で作った曲をYouTubeでライブ配信している。私がよく似ているなと思ったのが、彼女がMVの最後に見せた辛い表情で、カメラから視線をそらして笑う彼女に近づきたいと思った。


ライブ配信が流行っている、皆んな孤独を嫌っているのだろう。スタバ等で仕事をする人も周りに人がいる事で落ち着くのである。だから私も友人との曲を聴いてもらいたい気持ちもあるけど、余り家に一人でいたくないのだと思う。配信をしている間はあなたと一緒にいる事が出来る。一人暮らしをしている。


父は山口放送でディレクターをしています、放送局の企画で日本の祭りを紹介している。山口県は山口祇園祭を放送する、大内弘世が京都から八坂神社を勧請し、1459年に始まったとされる。神社で舞が奉納される、鷺舞と呼ばれる。鷺は中国伝来の織姫伝説に由来するもので、7月の七夕行事にみられる。


父は日本の祭りという雑誌に掲載する写真を撮ろうと、小雨が降る拝殿の前で待機していました。神輿の担ぎ手の裸坊たちもサラシ姿で待機しています。父は一様に腕組みをして地団駄を踏む彼らを待ちきれない気持ちでシャッターを切ります。境内に置かれた八角神輿が御旅所に向けて進行を始めました。


7月24日・後中日祭には、メインストリートで1500人による市民総踊りが大内のお殿様という盆踊りを繰り広げます。27日、神輿は八坂神社に還ります、そこには20年前に誕生した女神輿も加わります。1トンもの重量を担いで進む、山口の女性たちの、健康にしてたくましい姿があったのです。


母は祇園祭の撮影で父と知り合い結婚、10年前から女神輿の担ぎ手になる。母には生まれる前の記憶に大内弘世が山口に作ろうとしていた街づくりがある。エリアプラス(デジャブ)として室町時代の景色を現実の世界として蘇らせたい気持ちがある。母の記憶は精神世界で弘世の母と繋がっているのである。


弘世の母は弘世が武士として成り上がっていくのを側で見続けた人である、京都の街にも弘世に付いて長く滞在した事がある。弘世が京の都を山口に勧招したのも、母の影響があったのではないかと言われている。弘世は室町文化の能や歌舞伎を体験して素晴らしい工芸品を山口に伝えた、今の大内人形である。


母の記憶には弘世が成長する姿が映る、自分が何者かは分からないが、弘世の様子を観ると親密さがうかがえる、今考えると弘世の母なのではないかと思うのである。母が体験した室町文化は派手さはないが、高い人の教養を感じる事ができたし、躍動する生き方に日本人の誇りを伝えていけると思うのである。


弟は夢の世界を持ち、自らの精神世界を守る為にリハビリ病院に入院した。声はまるで人間の様に弟に話しかけてきたが、弟の理解では対話するものでなく、ただ世界が存在するのである。夢の中では自由に空を飛ぶ事も出来たし、現実の世界の望みを全て叶える事が出来た。弟は精神世界の主になったのだ。


精神世界は山がそびえ、耕作地があり、海に面している、豊かな大地に人々の暮らしがある。人の生活の中には神様がいて、それを守る人が祭り事を行い、多くの人が百姓として働いている。何百年という長い間、人の営みは変わらずに先祖代々が受け継いできた文化を守っています。長い歴史があるのです。


母が突然、現実の世界から姿を消してしまう。私は母が弟の精神世界へと導かれて、室町時代の煌びやかな文化を現実の社会に再現する為に、大内弘世に会いに行ったのだと確信した。私は母を探す為に、リハビリ病院へと向かったのである。リハビリ病院にある、精神世界の入り口にはMさんが居たのである。


Mさんはリハビリ病院で心理療法士をしている。心の病を抱えている人の気持ちを受け止めてあげる事が仕事である。Mさんは母を弟の精神世界へと導き、大内弘世と対話したいという気持ちを受け止めました。Mさんも精神世界の住人なのである、現実とファンタジー、両方の世界で患者さんを支えています。


Mさん世界は、現実で生きる事も夢の世界にいたい事、両方とも正しいものだよ。心を傷つける事をしなくなれば、戦争はなくなり、両者はお互いを大切にして必要不可欠なものになるはずだ。現実と夢の境界で、あなたを支えている世界に頼ってくれたら良い。私はこの病院の入り口でいつも待っていますよ。


私は母に合わして下さい、Mさんは弟さんの世界に行ってらっしゃいますと答えた。私は弘世に会えたんですか、それは分かりません、でも納得されればお母様の意思で戻ってこられるはずです。私は母の事が心配です、だから母を精神世界から連れ戻したいのです。Mさんは解決するには時間が必要なのです。


私はリハビリ病院のショートステイを利用していた、Mさんと一緒に大内弘世に逢いに行った母を精神世界から救う旅に出る為だ。病室の個室は過ごし易く、食事も運ばれて、利用者はぐっすり眠る事が出来た。弟も母も病院の他の部屋で同じ様に過ごしているのである。談話室もあり図書館の様になっている。


私がショートに入ったのが昼を過ぎてからだったので、夕食迄時間があったのと高揚して眠れなかったので、談話室を利用して読書しようと思った。ある本を手に取ると吉田松陰先生の本でした。安倍元総理の愛読書でもあり、母が以前に教えてくれたのだ。その本は日本を豊かにする国作りが書かれています。


本を読みながら母を思った、母は世界を豊かにする為に働いているのよと言います、私も大人になったら働かなければいけないのかしら、数%の人が世界の富を独占しているのよ、私達のすべき事は世界の権力者とお金持ちが共感している豊かさに気づくべきよ、それが今の時代の文化で未来の暮らしになる筈よ。


父は母と私が突然居なくなり心当たりを探したが見つからない。思い悩む父の姿に祖母は実家である美祢市の赤の兄弟の話をした、不思議な声が聴こえて来て弟さんと同様に周囲でおかしな事が起きた。今回の事も関係があるかも知れないよと告げた。父は弟と話す為に急いでリハビリ病院に向かったのである。


父は病院の受付で私と母が入院しているはずだと伝えた。事務の女性が弟さんと面会して下さいと答えた。父は弟に母の事を知っているのか尋ねた、弟は私が先日訪ねて来た事を伝え、母の事は弟にも分からないと答えた。父は人の声と関係があるのか聞くと弟は幻聴は悪魔みたいなもので他人を操ろうとする。


皆さんは悪魔というとどんなものを想像しますか?、それは対話するものではありません、一方的な物理法則であるのです。例えば弟が話した人の声としましょう、しかし僕の意思は悪魔にとっては意味があるものではないです。悪魔は僕の人生が明日にでも終わる事を望み、世界を無に回帰して欲しいのです。


Mさんは父にご家族は無事ですよ、責任を持ってお預かりしています。弟さんも精神世界と落ち着いて向き合っていらっしゃいます。母も病棟で休まれています、近い内に回復される筈です。私は母を心配して付き添っている。父に弟さんと話されて安心しましたよね、父は何か出来ることはないですかと話した。

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