第35話 休日の過ごし方
なにをしても人の視線を独占してしまうスズは、上機嫌で僕の前を歩いている。太陽が上がってきて温かくなってきたからなのか、ちょっと元気になってきたスズは誰が見ても幸せですって感じを出しながらるんるん気分で歩いている。
「蓮太郎さん!」
「うわっ!? びっくりした……どうしたの?」
普通に歩いていたらものすごいスピードで僕の方へと近寄ってきたスズにちょっと驚いたが、それに意識を持っていかれている間に腕を掴まれた。
ずるずると引きずられるままついていくと、そこにあったのは小さなペットショップだった。人がそこまでいなさそうな店ではあったけど、スズは遠慮なく中に入っていき……目を輝かせていた。
「ペット、好きなの?」
「はい。動物は好きですよ……自分に素直ですし」
あぁ……まぁ、人間に比べたら素直で可愛いってことかな。確かにスズみたいな上位者からしたらちまちまと意味も無ければ不快なことばかりしている人間と、自分の本能や感情に素直に動いている動物だったら、動物の方が可愛いと思うだろうな。
スズはガラスに張り付くようにして子供の犬を眺めていた。犬は最初、目の前に突然現れたスズを見てちょっと警戒していたようだが、スズが動かずにじーっと見つめてきているのを感じでじーっと無垢な目で見つめ返していた。
「いいですね……私もペット飼いたいです」
「でも、うちはペット禁止だよ?」
「わ、わかってます……」
そこまで高いアパートやマンションでもないから、家はペット禁止なのだ。犬や猫とかでもやっぱりある程度は鳴き声なんかが出てしまうから、どうしてもそこら辺を考えるとペット禁止になってしまうんだよね。別にそこまで壁が薄い家に住んでいる訳でもないけど……それでも、だ。
ハムスターとかみたいな小さい生き物とか可愛くていいな、なんて思うけどネズミ系は基本的に夜行性なこともあって犬とかよりも余計に集合住宅では飼いにくいのが現実だよね。
「猫も犬もいいですね……あ、トカゲ」
小さなペットショップなのに、結構色々な種類がいるな……店長さんの趣味なのかなとちらりとレジの方へと視線を向けると、いつの間にか立っていたおじさんと目が合った。ニコっと笑顔を見せられたので会釈を返しておく。
「蛇は?」
「必要ありますか?」
私がいるでしょって圧を受けてしまった……まぁ、そうなんだけどさ。
「ハムスターみたいな小さい生き物もいいですね……後は、鳥とか?」
「鳥って飼うのが結構難しいって聞くけど」
「そうですねぇ……簡単に飼うなら、やっぱり魚ですか」
「いや、ペットショップに魚はあんまり売ってないよ?」
魚のペットはどっちかって言うと専門店的な所に行った方がいいと思うよ……ペットショップで買える所はそんなに多くないんじゃないかな。
「お嬢ちゃんはペットが好きなのかい?」
「はい。けど、彼と一緒に住んでいる場所はペット禁止なので、こうして眺めていることしかできないんです……結婚して引っ越したら飼ってみたいですけど」
「結婚……」
僕ら、まだ学生なのに平然とそういうこと言うよね。いや、スズは学生じゃないから仕方ないのかもしれないけど、僕らみたいな若すぎる男女がいきなり結婚なんて言うからおじさんもちょっと驚いた顔してるじゃないか。
「じゃあ、結婚して余裕が出来たらまた来てくれよ。そこの旦那さんと一緒にさ」
「そうですね……はい、わかりました」
「え、本気?」
「勿論です。甲斐性を見せてくださいね、旦那様?」
「が、頑張ります」
「がはは! 兄ちゃんもしっかりと稼いでうちに買いに来てくれよ?」
おじさん……外堀埋めに使われてますよ。
ペットショップを出た僕とスズは、街をぶらぶらしながらそのまま目についたファミリーレストランに入った。本当だったらもっとオシャレな店に連れて行きたい所なんだけど、所詮は学生なので仕方がない。
こんな美人とファミレスなんて駄目だなぁ、なんて思っているのは僕だけでスズは全くそんなこと気にする様子もなくメニュー表を見て頭を悩ませている。
「むむ……洋食もしっかりと再現できるようにならないと、旦那様に飽きられてしまうかもしれませんし、ここでしっかりと食べておくのもいいかもしれませんね」
「いや、飽きることは無いと思うけど……そもそも、ファミレスで食べて味を再現なんでできるものなの?」
「頑張ればできますが、やっぱり再現するなら高級料理がいいですよね」
「んー……そう、なのかな?」
でも、高級な料理って毎日食べていると胃が大変なことになりそうだし、そこら辺は人によるんじゃないか? 僕は家庭料理で満足できる人間だけどな……確かに総菜とかはなんとなく不味く感じてしまう時もあるけど。特に、最近は減ったけど昔の総菜は結構薬臭い味がしたりしたからね。
「蓮太郎さんはどれにしますか?」
「僕、このファミレスでカルボナーラ以外を頼んだことが無いんだよね」
「そ、そんなに好きなんですか?」
「うん。パスタは基本的にカルボナーラしか頼まないぐらいには……家では簡単だからって理由でトマトパスタを作るけど」
「そ、そうなんですか……私はスパゲッティそのものにあまり縁が無いのですが」
そうだろうね。スズが和食以外を食べている印象ってあんまりないもん……この間、僕と一緒にカレー食べてたけど。
「ん……貝」
メニューをパラパラと見ていたスズは僕が頼むと言っていたカルボナーラを見つめてから、すぐ近くに載っていたボンゴレを見て手を止めた。
「貝、好きなの?」
「はい」
「じゃあボンゴレにしてみたら?」
「……そうします」
スマートフォンでコードを読み込んで2人分のドリンクバーと選んだ2つのパスタを選択して、注文する。その様子を見つめていたスズは、ちょっと感心した様子を見せていた。
「最近の技術はすごいですね」
「それは僕も思うよ……ちょっと前までは押しベルだったり、普通に自分で声をかけていたのにね」
人間の文化はどんどんと進化しているってことなのかな。便利になる反面、ちょっと昔を思い出して懐かしい気持ちになってしまうのは何故なんだろうか。ま、僕ぐらいの年齢だったらどんどん進化してくれた方が楽だからいいけど。
「よし、飲み物取りに行こうか」
「はい」
貴重品だけ手に持って僕はスズに手を伸ばす。そっと手が重ねられて指が絡まり、2人でドリンクバーに向かって歩き出した瞬間から、店員さんと周囲の客からガン見されていた。うーん……やっぱりスズと手を繋ぐと目立つな。
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