異世界での無職生活:隠れた能力を覚醒せよ

@kunimitu0801

第1話「転生の日」

 目を開けると、見知らぬ場所にいることに気づいた。何もない空間、ただひたすら広がる緑の森。あれ? ここはどこだ? 心臓がドキドキと鳴り、何が起こったのか理解できない。

 ちょっと落ち着いて考えてみよう。

 まず自分の事。

 俺の名前は高橋翔太。普通のサラリーマンだ。……ややブラックよりの。

 そんな普通のサラリーマンだったはずなのに、こんなところにいるなんて。ふと、思い出した。確か、昨日は仕事が終わった後、道を歩いていた……その後、何が起こったのか、全く覚えていない。中途半端な記憶だな。

 周りを見回しても、誰もいない。ただ、鳥のさえずりと風の音が聞こえるだけだ。心が不安でいっぱいになり、立ち上がろうとした瞬間、何かが足元に触れた。

「えっ?」

 見ると、小さな生き物が俺の足元で動いている。なんだこれ、可愛いウサギみたいだ。思わずその姿に目を奪われた。

「助けて……!」

 その時、耳に飛び込んできた声にハッとした。声の方向に目を向けると、森の奥から少女の声が聞こえてくる。どこかで見たことがあるような気がするが、そんなことは考えている場合じゃない。急いで声の方へ走り出した。

 森を抜けると、そこには一人の少女がうずくまっていた。彼女は白い髪をしていて、日本人には見えなかった。だが、それ以上に俺の目を惹いたのは彼女の傷だらけの様子だ。心臓が早鐘を打つ。何があったのか尋ねる暇もなく、彼女が俺の方を見上げた。

「あなた、誰?」

 警戒するような目付きで俺を睨みつける。

「えっと、俺は高橋翔太。えっ?」

 俺の右手が光った。

「これは?」

 俺の右手から出た光が少女を包みこんだ。

 傷だらけだったのが一瞬で治った。

「傷が治った?」

 少女が自分の腕を動かしながら自分の身体の様子を確認する。

 それから少女がこっちを見て俺と目が合った。

「タカハシショウタ?」

「は、はい。高橋翔太です」

「私はエルナ。助けてくれてありがとう!」

 彼女の目が潤んでいる。彼女のさっきの様子から、何か危険なことがあったのだろうと感じた。

「どうしてこんなところにいたんだ?」

「森に魔物が出て、逃げてきたの……」

 その瞬間、心の中に何かが引っかかる。魔物?

「異世界転生?」

 ここではっと気がついた。

 これってネットで見るような異世界転生じゃないか。

 とりあえず状況はわからないが、ここにいるのは危険そうだ。

「ねえ、タカハシショウタ」

「あっ。翔太って呼んでくれ」

 改めて名前を告げる。異世界だから名字は貴族くらいしかないのかもしれない。

「一緒に村に行こう。ここにいるのは危険だ」

 俺はそう言った。エルナは少し戸惑った後、頷いた。

「うん、行こう!」

 二人で森を抜けると、明るい日差しが差し込んできた。エルナの手を握りながら歩くと、少しずつ安心感が広がっていく。彼女の笑顔は、暗い気持ちを和らげてくれた。

 村に着くと、賑やかな雰囲気に包まれていた。人々が忙しそうに行き交い、活気があふれている。こんな場所があるなんて、全く予想外だった。自分が異世界にいるという実感が、少しずつ強まっていく。

「この村では、冒険者がたくさんいるの」

 エルナが説明してくれた。俺はその言葉に胸が高鳴る。冒険者か……異世界転生ものならよく聞く単語だが、いざ自分が直面すると、自分がそんな存在になれるのだろうか?と少し不安になる。

「ショウタ。私と一緒に冒険者になろう!」

 エルナが明るく言った。

 俺はこの世界では無職だし、何かスキルも持っているのかも知らない。だが、エルナの期待に応えたいという気持ちが芽生えた。何かできることがあれば、きっと役に立てるだろう。

 その日、俺の新しい生活が始まった。未知の世界で無職の俺が、仲間と共に冒険する未来が待っているとは、この時はまだ夢にも思わなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界での無職生活:隠れた能力を覚醒せよ @kunimitu0801

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画