熱い営業、僕の営業!

崔 梨遙(再)

1話完結:1000字

 僕が30歳くらいの時。僕は採用関係のベンチャー企業で働いていた。新しい会社で働く、引き継ぐお客さんなんか無い。お客さんゼロからのスタートだった。僕はルートセールスは嫌いだった。変わってると言われるが、営業は新規開拓がいい! 僕はコツコツ黙々と仕事をした。


 地道にリストを作って資料を郵送した。電話でアポイントをとって商談した。飛び込み営業もした。すると、少しずつだが確実にお客様さんが増えていく。僕には営業のセンスは無い。地道に真面目にやり続けるしかない。だが、真面目にやり続ければ結果は出るのだ。



 或る日の営業。相手は採用責任者。その会社は若手が活躍出来るというのが特徴の会社だったから、採用責任者は20代後半の女性だった。小柄でかわいかった。だけど、僕は仕事モードの時は女性に興味が無くなる。お客さんに美人がいようと、社内に美人がいようと全く気にならない。だから、意外かもしれないが社内恋愛をしたことも無い。会社を辞めてから付き合ったことはあったが……。


 そして、そのかわいい採用責任者はシッカリしていた。申込み書をもらえるかどうかのクロージングのアポ、採用責任者はクールに言った。


「崔さんの提案は魅力的です。けど、こんな言い方をすると失礼かもしれませんが、崔さんの会社は出来たばかりのベンチャー企業。200万とはいえ、申し込むには不安があります」


 当然の不安だろう。だが、僕はその不安にも対応出来る提案しかしていない。


「ご心配はわかります。ですが、提案の内容をご覧ください。いざとなったら私だけでも対応できる内容にしています。学校訪問の代行も私1人で対応できますし、リクルーティングパンフレットの作成も、私が取材して知人のクリエーターに仕上げてもらえば後は印刷するだけです。細部までご覧いただいても、私1人で対応出来る内容だとご理解いただけると思います」

「本当ですね! 崔さんはそこまで考えていたのですか?」

「はい。私の会社を信じられないのでしたら、私を信じてお申し込みいただけませんでしょうか?」

「崔さんの熱い営業を信じます」



 僕は申込み書をもらった。時には、覚悟をして営業しなければいけないこともあった。だが、その覚悟はきっと伝わる。僕の営業は『熱い』と言われた。だが、熱さが武器になることもある。『熱さ』は、僕の数少ない武器の1つだったかもしれない。







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熱い営業、僕の営業! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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