第48話

「会ったっつーか、俺が一方的に見かけたことがあるだけ」



「え。いつどこで・・・・?」



「俺が引っ越してきた日。ちょうど帰宅した皆原さんと前の廊下ですれ違った」




そうなんだ。


全然知らなかった・・・・。





「皆原さんってさ、すっげー美人ってわけじゃないけど、幸薄そ・・・儚げな雰囲気がたまらなく男の庇護欲をそそるなって思った」




「・・・・そこまで貶さなくても」



「えー?褒めてんのに」



「どこがですか?」





"幸薄そう"って言ったくせに。





「一度惚れたらどっぷり浸かって、二度と離したくなくなりそうな。隠れイイ女って感じ?」




・・・・隠れてるんだ。



やっぱり褒められるより、貶されてる感じのほうが強い。



自分でもたいして可愛くないことは、ちゃんと自覚してる。だけどそこまで親しくもない人にそんなふうに言われてしまうと、余計にへこむんですけど。



私の無言を不満と取ったのか、





「離したくないって思いそうなくらい、可愛くて魅力的な女性に見えましたよってこと」




さらなるフォローが付け加えられた。





「"離したくない"って。・・・・それって結婚もしたいくらいに?」




私がつい真剣に聞き返してしまうと、ふはっと吹き出す声が聞こえた。




「そーいや皆原さんって29歳だっけ?結婚に対して敏感なアラサー女子ってわけか」




「・・・・・!なんで年齢知ってるんですか?!」





この人エスパー?



まさかストーカー?



それとも、昔会ったことがあるとか・・・・?





「聞こえたんだよ、たまたま。たぶん相手は母親となのか、電話で話してるの」




「・・・・・・あっ」





誕生日の朝。



そういえば母との電話でのやり取りを、ベランダに出てしてたっけ。



それを頻繁にベランダに出ていた穂高さんに聞かれていたんだ。




「あん時の皆原さんの言い方だと、別に結婚なんてどっちでも良いんですーって感じに聞こえたけど、実際はやっぱり焦ってんだ?」



「べつに焦ってなんか・・・・っ」



「でもしたいんだろ?結婚」

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