悪役転生でストーリー変わったので……本来の主人公に転生した俺はスローライフを満喫することにします

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転生したので、スローライフを決意しました

「ちくしょう、血が、血が止まらないじゃないか。

誰か、誰でもいい、早く回復を!」

「ははは、君でも焦ることなんてあるんだ。

だが、もう遅い」

「くそ、くそ、くそ。

何だってこんなことに!」

「もう流れには逆らえない。

いつだって、世界は残酷だ」

「認めない、認めないぞ!

こんな結末、認めるか!」

「ははは。諦めることも重要だよ」

「諦めるもんか!

諦めるも……

あきら……

ぎゃー!」

ディスプレイ越しに響き渡る絶叫とともに、意識を失った。


目が覚めた時、俺はベッドの上にいた。

「え?ここどこ……?」

覚えているのは、仕事で受注の目処が立ち、その祝杯とばかりにストロング系酎ハイ片手に積みゲーと化していたギャルゲーなRPGをクリアしたことまで。

ふと周りを見渡すと、見覚えのある光景が広がっていた。豪華な室内、ベッドのカーテン、壁に掛けられた剣……どこかで見たことがある。まさか――これはゲームの世界だ。俺はこの部屋を覚えている。ゲームの主人公が目覚める、まさにその場だ。

「うそだろ……」

俺の名はレイ・アルグレア。元は普通の会社員だったが、何の因果かこの世界に転生してしまった。しかも、自分が転生したのはゲームの主人公だということにすぐ気づいた。このゲームはファンタジーRPGで、主人公は騎士学校に通いながら様々なヒロインたちと出会い、悪役である「ヴァルガス・デ・ルアント」と激突していくという典型的な物語だ。


目が覚めた時、俺はベッドの上にいた。

「え?ここどこ……?」

覚えているのは、仕事で受注の目処が立ち、その祝杯とばかりにストロング系酎ハイ片手に積みゲーと化していたギャルゲーなRPGをクリアしたことまで。

ふと周りを見渡すと、見覚えのある光景が広がっていた。豪華な室内、ベッドのカーテン、壁に掛けられた剣……どこかで見たことがある。まさか――これはゲームの世界だ。俺はこの部屋を覚えている。ゲームの主人公が目覚める、まさにその場だ。

「うそだろ……」

俺の名はレイ・アルグレア。元は普通の会社員だったが、何の因果かこの世界に転生してしまった。しかも、自分が転生したのはゲームの主人公だということにすぐ気づいた。このゲームはファンタジーRPGで、主人公は騎士学校に通いながら様々なヒロインたちと出会い、悪役である「ヴァルガス・デ・ルアント」と激突していくという典型的な物語だ。


だが、何かがおかしい。

「……ん? 待てよ。なんか展開が違くね?」

転生後、しばらくして俺は気づいた。ゲームのストーリーがすでに大きく変わっていることに。元々の悪役であるヴァルガスは、何やら妙に性格が変わっており、ヒロインたちと和気あいあいと交流している。いや、あの熱い視線は、明らかに好意以上の感情……要するに、絶対惚れてるぞ、あいつに。

それどころか、悪役どころかヒーローのようにさえ見える。彼は敵対するどころか、学校で最も頼れる存在にまでなっていた。

「……悪役なのに、めちゃくちゃ良いやつじゃん」

「なんか言ったか?」

「いや、美少女侍らして、このハーレム野郎って罵っただけさ」

「はべらかすって……仲の良い友達じゃないか。君にはそんな風に見えるのかい?」

「女友達がいっぱいって段階で十分だろ」

うん、それどころかのテイク2。なぜか、仲良く話してます。

最初、てっきりろくでもないやつだと思って身構えたんだけど……

突っかかってくることもなく、ただなんだかんだで張り合えるのも俺だけってのもあり、ライバル的な感じで気が置けない感じでなんだかんだと競い合ってたり。

……彼女の数だけは、こっちが○なんで全然勝負にならないけどな。


不思議なことに、ヴァルガスも転生者だった。現代日本からの転生者で、どうやら彼もプレーヤーだったらしい。死亡フラグを取り除こうと、幼少時から驕ることなく努力をし、必要なら登場人物の手助けもしてきたらしい。しかも彼の人格が、本質的に善人すぎるため、ゲームの中での悪役としての行動が本当に変わってしまっていたのだ。結果、ヒロインたちとの距離も急速に縮まり、俺が主人公としてイチャイチャするはずだった展開は、ことごとく彼の手に渡っていた。

まあ、例えば、元々のストーリーで鬱展開になるその前に、なんだかんだでヒロインを救出したり支援したりすれば『そりゃそうだ、惚れて当然』としか言い様がない。


例えば、彼女もそんな一人。彼とは微妙に敵対するライバルだからか、初めて会ったにも関わらず突っかかってきた。

「あんた……また会うとは思わなかったわね」

「え? あ……君は、ヴァルガスの……えっと、彼女……だっけ?」

「……は? 何言ってんの? 彼女じゃないっての」

見事なツンデレ剣士、ありがとうございます、と言う台詞が脳裏に浮かんできた。

「そ、そうだったんだ……いや、ごめん、モテモテの無双系主人公ハーレム野郎だからさ、てっきり……」

「ふーん、あんたには関係ないでしょ。どうせ私のことなんて、覚えてないんでしょ……」

最後の小声の部分、聞こえてないと思っているだろう。でも、彼が何か助けたことがあるのに、忘れられているみたいだな。それでツンデレも加速するわけか。

「え、覚えてないって……どこかで会ったことあるのに?」

確か、本来の主人公の俺にもそんなサイドストーリーがあったような気がする。本来のストーリーだと、俺が悪漢に襲われている少女を川に一緒に飛び込んで助けたことで、将来大和撫子な女剣士となって再登場するも、助けたこと自体忘れてて、というラブコメサブストーリーがあったはず。

「……そうよ。ずっと昔に、友達と一緒に助けてくれたのに、全く覚えてない!」

「え? 助けた……? 友達って、ヴァルガスと二人で?」

「そう! あいつと二人で、子供の頃に私を……」

「あぁ、そういうことか!」

これは、本来なら俺が助けるはずだった少女をヴァルガスが助けたことで、ストーリーが変わっている可能性が大いにある。

どうりで俺には少女を助けるなんてイベントが無かったわけだ。俺の場合、せいぜい街道の脇道で浮浪者が旅人を襲っているのを見かけて、修行中らしい剣士親子と一緒になってたこ殴りしたくらいだが、どうやらヴァルガスは、一人お忍びで色々回って女性キャラを助けて回っていたらしい。

それで本来の主人公が好みそうな大和撫子キャラから、ヴァルガスが助けたことでこんなツンデレ剣士になったのかもしれないと、密かに納得。

ここまで慕っているのも納得できるというもの。お節介だけど、ちょっとは応援してあげるべきだな。

「ち、違う! 私はあいつじゃなくて……」

顔を真っ赤にして叫ぶツンデレムーブも、美少女がするとやっぱりかわいらしい。

「……彼女じゃないんだ? でも、なんか特別な関係だろ? 昔から知ってるみたいだし、大丈夫、思い出したら」

「だーかーら!あいつは関係ないんだって!そもそも、あんたが……」

突然、顔を赤らめながら、ごにょごにょ話し出す。

「俺……? いやいや、俺はただ、宿敵ライバルのヴァルガスの鈍感系主人公ぷりに困っている美少女をサポートしてるだけだよ、おこぼれ狙って」

空気を変えようと、「まあ、未だにおこぼれなんて無いけどね」、とカラカラと笑って見せる。

「……本当、鈍感にもほどがある!何もわかってないくせに、勝手に勘違いして!」

やっぱり、彼に対してあの鈍感っぷりには思うところがあるらしい。

「え? 勘違いって、あいつ未だに嫌ってるって思ってるの?」

「……いいわ。どうせ……気づかないんだもの」

彼女の声は本当に小さく、聞き取れない部分があったので、思わず問い返した。

「ん? なんて?」

「別に何も!もう、話しかけないで!バカ!」

「……え、俺、地雷踏んじゃった?」


だが、別に俺はヒロインたちに特にこだわりがあったわけじゃない。むしろ、転生後の生活が落ち着いてきた今、前世での、ブラックとまではいかないまでも、忙しくてサービス残業をこなしつつなんとかノルマを達成していた生活と比べると、ゆったりまったりスローライフを楽しむ方が性に合っていると感じ始めていた。前世の生活より生活水準はかなり落ちているけれど、戻れるならその方が嬉しいのは確かだ。

「……まぁ、悪役が良い人なら、それはそれで平和でいいか」

早めに気づいてよかった。もし悪役に転生して本来の主人公と対立していたら、悪役主人公に突っかかってかませ犬にされるか、ヒロイン目当てで言い寄って当て馬にされる可能性もあったからな。

それにしても、悪役主人公だの本来の主人公だの、めんどくさい。

こうして俺は、主人公でありながらも物語に深入りせず、気楽に生きる道を選んだ。悪役が物語を変えてくれたおかげで、俺はスローライフを満喫できるようになった。

とは言っても、ラスボスとの戦いには《歴史の修正力》が働いて強制参加させられる可能性があるので、原作以上に鍛えておく必要があるだろう。

日々、鍛錬と勉学に励みつつ穏やかに過ごしていた俺だが、なんとなくヴァルガスの行動が気になってきた。彼はヒロインたちと仲良くやっているが、その裏ではかなり苦労しているようだ。彼が持つ「悪役」としての運命に抗い続けるためには、周囲の期待や圧力に逆らう必要があったのだ。


「なんか大変そうだな……」

彼を見て、心の底からそう思った。ブラック企業とまではいかなくても、かなりグレーだった前世と比べても、彼の仕事量は決して少なくない。睡眠や休息も十分に取れていないんじゃないかと、心配になる。


俺は表向きでは彼の敵対者のような立場にいるが、陰では彼を支援することに決めた。彼が俺の手に入れるはずだったヒロインたちをすべて引き寄せていることも、今となってはそれなりに面白いと感じる。むしろ、裏から彼をサポートするほうが性に合っている気がしてきた。

いわゆる「陰の実力者」ってやつも、厨二病心をくすぐる感じがして、なかなか格好良い。よし、そうしよう。


ある日、ヴァルガスがこっそり一人で調査を行っている現場に遭遇した。彼は怪しげな組織に狙われており、その証拠を集めていたのだ。

「おい、そんな無茶するなよ。俺が代わりにやってやるよ」

彼は少し驚いた様子で振り返ったが、すぐに安心した表情を浮かべた。

「何だ、君か。ありがとう、レイ。でも、これは俺の役割だから」

「役割かぁ。確かにそうかもしれないけど、彼女たちはそう思ってないぜ」

「彼女たち?」

俺は、柱の陰に隠れようとする少女たちを指差した。彼女たちは慌てて隠れたせいでお互いの頭をぶつけ合い、涙目で頭をさすっている姿がかわいらしかった。


ヴァルガスは「悪役」という本来の役目を放棄せず、自分の足で立とうとしていた。その姿勢が、彼をただの転生者ではなく、真の主人公へと変えていったのだ。そのことは、彼女たち《ヒロイン》の態度からも見て取れる。


だが、一人ではやはり人手不足の問題に対処しきれない。

現に……

「しっかりしろ!」

「……ごめん、ヴァル。迷惑かけて……」

単独行動していたヒロインの一人、クール系魔法少女で「マゾっ娘」の愛称で呼ばれていた彼女が、路地裏で襲われ倒れていた。偶然だが、支援役として彼から離れて行動していた彼女を追っていた俺は、本来なら彼女に気づかれることなく悪漢を排除するはずだったが、手こずってしまい、彼女が襲われるのを防げなかった。

言い訳をすると、彼女を襲った集団がヴァルガスと敵対する闇の組織だけでなく、そこらのチンピラまでが「いい女」目当てで襲ってくるとは想定していなかったのだ。まあ、こんな路地裏なら、それくらい想像がつくだろうと言われればそれまでだが……。

なんとかチンピラどもを叩き伏せて彼女を連れ出したものの、彼女は背後から強烈な打撃を受けたらしく、まともに呼吸もできずに血を吐いていた。

「ごめんね……」

謝りながら、最初は胸を押してみたが、どうやら肋骨にひびが入っているのか、触れるだけで苦悶の表情を浮かべた。

迷っている暇はなかった。

口移しでの人工呼吸なんて初めての経験だが、そんなこと言っている場合じゃない。何度か息を吸って吐いて、たどたどしかったと思うが、そのうち彼女は口から血の塊を吐き出し、自力で呼吸を始めた。

安心して彼女を城郭の衛兵所付近に連れて行く途中、ヴァルガス一行を見かけたので、彼女をそっと置き、声を出して気を引いてからさっと逃げ出した。

だが、この一件がきっかけで、彼ら一行は基本的に単独行動をしなくなった。それはそれで結果オーライということにしておこう。


そして物語は、再び最終局面を迎えた。


ヴァルガスは、ついにかつての宿敵、暗黒竜オルファスとの決戦に挑むことになった。本来なら、彼がオルファスの配下として立ち塞がる側のはずだった。しかし、いつの間にか挑む側へと立場は変わっていたのだ。

だが、ヴァルガス一人ではオルファスの力に立ち向かうのは難しい。単に相性の問題だった。彼が使う魔法は、オルファスの暗黒の力にはほとんど効かない。そして絶望的な状況が広がる中、俺は一歩踏み出した。

そう、本来の勇者である俺が。


そして……突然、どろりとした血が視界を真っ赤に染めた。痛みと共に、俺は自分の体から流れ出る血の量に気づく。


「ちくしょう、血が、血が止まらないじゃないか。誰か……誰でもいい、早く回復を!」

「ははは、君でも焦ることがあるんだな。でももう遅い」と、オルファスが冷たく笑う。

最初は何も感じなかった。だが、だんだんと笑いがこみ上げてきた。

「くそ、くそ、なんでこんなことに!」

「もう流れには逆らえない。いつだって、世界は残酷だよ」と、オルファスは冷酷に言い放つ。

「認めない、認めないぞ!こんな結末、認めるもんか!」俺は叫んだ。確かに、順番は変わった。しかし、結局は同じ台詞の応酬だ。そして、世界は救われる。

実に愉快。実に愉悦。

俺はさらに気力を振り絞り、なんとか言葉を紡ぐ。

「ははは……はぁ……諦める……ことも」

「諦めるもんか!」

魔力は使い果たし、元々魔法使い《マジックユーザー》でもない俺が、無理に過剰な出力を維持した結果、すでに力は枯渇していた。全身には深い傷がいくつもあり、重装騎士でもない俺が斬撃を受けきったことから、手足がくっついているのが不思議なくらいだ。

回復魔法をかけられているが、枯渇した魔力の補充に優先されているらしく全く効果が無いらしい。そんな声が遠くから聞こえてくる。

相変わらず元気な奴だな、と微かに思いながら、俺の意識は薄れていった。


目が覚めた時、俺はベッドの上にいた。

「え? ここどこ……?」

覚えているのは、くそゲー仕様と言いたくなるような、本来なら二週目以降で現れる隠し大ボスを倒してクリアしたことだけだった。

ふと周りを見渡すと、見覚えのある光景が広がっていた。清潔な室内、ベッドのカーテン、壁に掛けられた治療器具……どこかで見たことがある。まさか――これはゲームの世界だ。俺はこの部屋を覚えている。バッドエンドで目覚める、まさにその場所だ。

つまり、クリアに失敗した?

そう思っていると、いきなり金髪の少女が突進してきた。ハーレム要員の一人である、涙ぐんだツンデレ剣士だ。彼女の後ろから、一見冷静だが微妙に怒っているクーデレの魔法使いもベッドの両側にやってくる。

「心配させやがって」

そう言って飛び込んできたツンデレ剣士の奥から、別の男の声が聞こえてくる。

上半身をなんとか起こして足元の方を見ると、彼が立っていた。彼の背後には、少女たち《ハーレム要員》が心配そうに並んでいる。

「彼女たちも、君のことを本当に心配してたんだ」

起き上がった俺に、彼はそう言って話しかけてきた。

「特にこの二人は、君のことをすごく心配してたんだから」

「ああ、ありがとう。心配かけたね」

「心配なんてもんじゃないよ」

突然、彼は声を荒げた。

「この二人は別格として、みんな本当に心配してたんだ。それに、君が以前のように動けないと知った時の絶望と言ったら……」

「ん? 動けないって? 今、普通に動いてるけど?」

「普通に生活する分にはなんとかなるけど、もう剣を取って戦ったり、魔法を使ったりすることはできなくなってるってことだ」

「なんだ、そんなことか」

今後のスローライフにはあまり影響なさそうな話だ。むしろこれを言い訳に、まったりとスローライフに専念できるというもの。

「そんなこと、じゃない」

クーデレの魔法使いが冷たい声で言った。

「救国の英雄の一人として、残党からは狙われるし、名声を得たい馬鹿からも狙われる」

「なら、お前らだけで倒したことにしてくれ。俺は田舎に引っ込んでのんびり暮らすから。名誉はいらないけど、報酬をケチるなんてことはないだろ、ヴァルガス?」

ちょっとおどけてウインクする。

「わかりました。なら、私があなたの護衛になります」

ツンデレ剣士が突然そう言い出した。確かに護衛はありがたいが、ハーレムから外れたことにやけになっているわけではないよな?

「おい、ヴァルガス。彼女に何をしたんだ?」

俺が言葉を遮ろうとしたその時、彼女は俺の顔の前に乗り出してきた。

「裏方を気取る割には、本当に言葉通りにしか受け取らないのね……

確かに、あの四天王悪女が話したとおり、あなたは本当に字義通りにしか物事を受け取らない」

「ん? 何のことだ……?」

確かに裏方気取っている割には、頭がさほど回る方ではなく、思い込みが若干あると自覚しているが、それでも何のことを言っているのか全く理解できずにいると、いきなり……

「だから、言葉で説明するんじゃなくて――」

「――え、な、何して――!?」

「……口で伝えたのよ」

キスされた。それも、唇と唇を合わせるようなフレンチキス《バードキス》ではなく、かなりディープなキス《French Kiss》だった。

「……最低。私の唇を奪っておいて」

突然、反対側のクーデレマゾ……もとい魔法少女が、明らかに氷点下の声でつぶやくように話しかける。確かに、救急措置で人工呼吸したけど、それは彼がいなかったから仕方なくやったことで、そもそもそれはノーカウントで……

「ちょ、ちょっと待って、なんでそれを、っていうか、確かにその、誤解だって――」

「本当に最低。言い訳するなんて……女の子のキスの意味、全然理解してない。やっぱり、鈍感系恋愛脳ラノベハーレム主人公だった」

「いや、こいつならともかく、俺はそんなことは……」

「――ん、今度は私が……上書き消毒」

キスされた。それも、ツンデレ剣士以上に舌をねっとりと絡ませて。

「……ふざけてんの?まさか、本気であのキスが軽いものだと思ってるわけじゃないわよね?」

「いや、だって……いきなりだからさ……」

「……驚いてるんじゃなくて、嬉しかったんじゃない?」

「は? いやいや、そんなことない、ただ、そういうつもりじゃ――」

「――言い訳する暇があったら、ちゃんと考えなさいよ。自分が何をしたのか。」

ツンデレ剣士の声は、明らかに不機嫌さを隠していなかった。

「……じゃあ、次はどうする? また上書きする?」

「えっ!? また!? いや、それは……」

「……ほんと、もうちょっと考えなさいよ。鈍感も大概にして」

そんな俺たちを見て、足元から一言。

「相変わらず、鈍感系主人公だね」

「「「「おまえが言うな」」」」

背後の少女と声をそろえたのは悪くないと思う。


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