図書館にて

森杉 花奈(もりすぎ かな)

僕から見た彼女

 僕は図書館に通っていた。

勉強のためとか、本が好きだからとか、理由

はいろいろあったけど、図書館という静かな

空間が好きだった。ここだけは落ち着いて静

かに過ごせる。図書館という場所は僕にとっ

て聖地だった。別にひとりぼっちというわけ

でもないし友達もいたけど、僕にとって図書

館で過ごすということは特別なことだった。

 僕は世の中のいろいろなことに興味があっ

た。とりわけ百科事典で物を調べるのが好き

だった。百科事典はどんなことでも載ってる

し、僕にいろいろなことを教えてくれた。僕

にとって百科事典は教科書よりも有難い存在

だった。いつも何でも調べては、僕は僕の知

識を深めて行った。物知り。誰かが僕をそう

言った。それは僕には不本意だったけど、僕

の知識を認めてくれる人がいることはとても

嬉しいことだった。


 ある日ひとりの女の子が僕が好きな小説を

熱心に読んでいた。その子は度々図書館に来

るようになって、いつも僕が好きな本を借り

ていった。もしかしたら本の好みが似ている

のかも知れない。僕もそのシリーズが好きだ

から。本棚を見ると彼女が借りた本だけ抜け

ていた。次は5巻。彼女はきっと何日か後に

借りるのだろう。僕はあることをひらめいた。

「いつもあなたを見ています 野上」

 気が付くと僕は紙切れにそう書いていた。

いつの間にだろう。僕は彼女のことが気に

なっていた。いつも熱心に本を読んでいる彼

女。いつもあなたを見ています。こんなこと

をして何になるのか。でも僕は彼女に何かを

感じていた。共感。同情。連帯感。一体どれ

が僕の本当の気持ちなのか。僕は彼女に何を

伝えたいんだろう。僕は何がしたいんだろう。

僕は彼女が図書館に来る前に彼女が借りるは

ずの5巻にそっとメモを忍ばせた。


 僕は翌日図書館に行った。いつも通り百

科事典を見ているとあることに気が付いた。

百科事典の一冊から紙切れが覗いてる。僕は

慌てて紙切れを広げてみた。

「もしかしてあなたが野上くん?」

紙切れにはそう書いてあった。これはもしか

して彼女から?彼女も僕の存在に気づいてい

たのか。僕は彼女を目線で探した。今日はい

ない。まだ来ていないのかも知れない。何故

今日はいないんだろう。少し胸が苦しい。彼

女の不在がこんなに苦しいなんて思わなかっ

た。間違いない。僕は彼女に恋をしている。

僕はそう確信した。


 翌日、僕はまた図書館に行った。そして彼

女が次に借りる6巻にメモを忍ばせた。

「YES」

それが何になるのかはわからなかった。ただ

僕は彼女に何かのアクションをしたかった。

彼女が来た。もうすぐ僕のメモに気が付くは

ず。そしたら僕の明日が変わるかもしれない。

 僕は祈るような気持ちで彼女を見ていた。

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図書館にて 森杉 花奈(もりすぎ かな) @happysnowbunny01

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