恋は曲者〜助けた魔王に、監禁(?)されています〜

ryon*

魔王の抱き枕①

 なんでだよ? 本当にいったい、なんでこんなことになってしまったんだよ!? ……僕は路地裏で倒れていたこの男のことをただ不憫に思い、助けてあげただけなのに。


 ベッドの上で男に組み敷かれたまま、今夜も小夜は心の中で何度も自問自答を繰り返す。するとそれに気づいたらしい魔王リカルドが、美しい口元をニヤリと不敵にゆがめた。


「どうした? サヨ。考えごとか? はじめてのくせに、ずいぶん余裕があるみたいだ……な!」


 最後の一音を発するそのタイミングでひときわ深いところを突かれ、小夜の華奢で小さな身体は大きくのけぞった。

 腕を伸ばし、鍛え上げられたたくましい肉体に必死にすがりつく。

 それを見たリカルドは、満足そうにククッと笑った。

 突かれながら胸の頂にある敏感な突起を摘ままれ、軽く指先で転がされると快楽に慣らされた身体は一瞬のうちにまた快楽の波に飲まれ、先ほどまでの疑問に思う気持ちはあっさり霧散した。


「サヨ……。俺のかわいいサヨ。もう絶対に、離さない」


 耳元で甘くささやかれた声も、小夜にはもう届かない。小夜の嬌声とふたりの浅く荒い息づかいだけが、薄暗い室内に響き続けた。


***


 次に小夜が、目を開けた時。いつものように身体はきれいに清められ、きちんと夜着も着せられていた。

 フゥと漏れ出た、小さなため息。するとそのタイミングで、ドアをコンコンと二度ノックする音が響いた。


「おはようございます、サヨ様。さわやかな朝ですね!」


 返事をする間もなく、バタンと勢いよく開かれた扉。早朝とは思えないほど元気いっぱいなその声に、小夜はつい噴き出した。


「おはよう、レオ。たしかに今日は、いいお天気みたいだね」


 レオがカーテンを開いた瞬間射し込んできた、朝の明るい日差し。クスクスと笑いながら、まだ疲れの残る身体をのそのそと無理やり起こす。するとレオは、あわてた様子で小夜のそばへと駆け寄った。


「あぁ、サヨ様! 大丈夫です、そのままになさっていてください! 昨夜はまたしても心のままに貪り無理をさせてしまったから、今朝はお部屋で朝食をとリカルド様からも言われていますし」


 その言葉に驚き、瞳を大きく見開く小夜。……こんな幼い子ども相手に、なんてことを言いやがるのだ。羞恥と怒りから、小夜の身体が小刻みにふるふると震える。


 しかし10歳になるかならないかほどの幼い子供のように見えても実際は、レオは魔族なので小夜の何十倍もの時を生きているわけだが。


「あのぉ……、サヨ様? やっぱり、お加減が?」


 恐る恐るといった感じで、レオが小夜の顔を覗き込む。そこでようやく我にかえり、これ以上レオを不安にさせぬよう、小夜は柔和な笑みを浮かべて答えた。


「ううん、大丈夫だよレオ。ほら、このとお……り!?」


 最後の声が裏返ってしまったのは、そう。夜通し魔王に抱かれ続けた初心な身体が悲鳴をあげ、立ち上がろうとした瞬間ぐらりと足元がふらついたせいである。


「あぁ、サヨ様! やっぱりちゃんと寝てないと、ダメですってば! まだおとなしくしておいてください。でないと僕がリカルド様から、またお叱りを受けてしまいます!」


 まったく、もう。体力バカの、絶倫魔王め! 僕の身体を彼は、いったいなんだと思っているのだろう?

 こちらは魔族でもなんでもない、ごくごく普通の人間なのだ。それに小夜ではなくレオに罰を与えるというあたり、本当に狡猾で性格の悪い男だと思う。それと同時に、自分の性格を理解しすぎだろうとも。


 小夜は生まれた時から、この世界の住人だったわけではない。元は日本生まれ日本育ちの、生粋の日本人だ。しかし大学から帰宅途中で聖女の召喚とやらに巻き込まれ、このトリニティア皇国にオマケみたいな形で転移させられてしまったのだ。


 転移してすぐ小夜は一緒に召喚された名も知らぬ女子高生とともに、魔力の鑑定が必要だのなんだのが必要だと言われて皇城へと連れ去られ、大きな水晶を手渡された。

 そこで小夜は、ようやく理解した。これは漫画や小説なんかで今人気の、いわゆる異世界転移っていうやつなのだろうと。

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