2 俺の相棒美少女と出会い最高の鍛治職人を決意した日

 いったいあれからどれくらい走っただろう。

 気付けば、ハルバルーン王国王都よりほど遠い王国領内『アインズ村』に来ていた。


 ここ『アインズ村』の特産品である麦酒を王都に卸す取引で、かつて父上と来たことがあった。と、その記憶を甦らせながらふと昔のことを思い出すのだが。


 ――今更思い出したところで、昔に戻るはずがない。


「こんな時に昔の事なんか思い出して、どうかしてるなまったく」


 どこか落ち着ける場所をと探してたところ、ひと気がない馬房を見つけて、藁が敷き詰められているところに腰を下ろした。


「鼻が曲がりそうだけど仕方がない。ただ、ずっとここにいるってわけにもいかないよな」


 そんな独り言を呟きながら鞄に詰め込んだ荷物を出してる最中、忘れていた頭痛が再び襲ってきは、しだいにそれは強くなり、痛みを我慢しながら『加護の儀』でのことを思い返す。


 ――下級職……『鍛治師』はおおかた想像はつく。

 だけど、スキル『鑑定』ってどう使うんだよ。


 『鍛治師』といえば武具や装備、道具といったものを作れる職業だって事は容易に想像できる。

 俺は『加護の儀』を終えてから確かに異変を感じていた。

 それはアルフォンス家に立ち寄った時、手に取った道具から文字とか数字が投影されたからだ。


「今まであんなことあったか?」


 いや、あんなことがあったのだから幻覚を見てしまっているのだろうと思う。それでもやっぱり何かが変だ。


 そんな考えを巡らせながら、鞄から出された薬草を手に取ると「うっ……」再び激しい頭痛が走る。


 <唱えよ>


 これは確かに聞こえたのだ。

 誰かに耳打ちされ囁かれてる感覚に近いが、その声の主ははっきりとはしない。

 この時の俺は自然と流れるように、その声のおもむくままに詠唱したであった。


「鑑定」

 そう放った時、手に取った薬草から文字列が投影される。


――――――――――――――――

【フラシア草】

下級薬草として扱われる。

傷を癒す効用あり。

【精製可能物】

・下級ポーション

【精製素材】

・『フラシア草』×2

・『水』

・『カフラル草』×1


【相場】

@#A125あpJjmj@9$#○〆|\:*1¥$3569@

――――――――――――――――


「なんだよこれっ!」


 投影されたいくつもの文字列を驚きながら確認していく。

 薬草の名称や効用、この薬草から精製される物質などが書かれていたのだが、【相場】の欄は文字化けしていた。


 信じ難い光景を前にして、目を疑う。


「何が起こってるのか分からないけど……他のも試してみよう」


 その時だった。横に倒した木剣が反応する。

 そこまではっきりとはしない光を刀身に帯びながら、ひとりでに浮遊を始めて、手の届く位置に浮きながら止まる。

 それはまるで吸い付くような、呼応するような感覚にも似ていた。


 この状況をまだ飲み込めていないが、再び木剣に向けて「鑑定」を唱えた。

 

――――――――――――――――

名称:不明

従属先:なし

種族:『未契約』インテリジェンス・カスタム・ウェポン

攻撃力:123 保有魔力:200/200 耐久値:100/100

保有スキル:斬撃:Lv.3 自己修復

――――――――――――――――

 

「なっ……ただの木剣なのに『インテリジェンス・カスタム・ウェポン』?」


 ――なんかすごそうだ。


 それから投影されたコマンド画面は『スキルツリー』に切り替わった。

『斬撃:Lv.3』と『自己修復』が表示され、そこから木のように枝分かれして、何個もマスがあるのだが『???』と表示されている。


 そこからまた、さきほどの画面に戻ると数秒後に『スキルツリー』の画面に切り替わる。それを繰り返している。


 そんな木剣に投影されたコマンド画面を確認している最中であった。その声は馬糞の匂いが充満するこの馬房内にも響いた。


「我々はアルフォンス家従属騎士団である。此度こたび、アルフォンス家当主 ウリウス・アルフォンス 様より ルーデン・アルフォンス を国外追放に処すとの命が下された。よって、この者を見かけた者は直ちに名乗り出よ!かくまったりした者は重罪な処罰に科す」


 ――この声はアルフォンス家従属騎士団団長の エドラゴ だ。


 なぜ?なぜ父上はこんな仕打ちをするんだ――


 馬房を木霊するのは、村人の騒然であった。

 

「ルーデンってアルフォンス家のご長男じゃない」

「早く名乗り出ろよ!」

「処罰なんてごめんだ!いるなら早くこの村から出てってくれ!」

「長男が国外追放だなんてよっぽどの事をしたに決まってる」


 こんな村人たちの声が入り混じり耳を刺されながら、父上から向けられたあの卑下する視線を思い出しては再び吐き気が襲ってきたのであった。



◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆



『加護の儀』を終え、その場を後にして去って行ったルーデン・アルフォンス の後ろ姿を、気にも留めずに卑下して貶める目でぎろりと睨む弟、シオールであった。


 このような不遇でしかないルーデン。を、兄と仰ぎ、陽の当たらない影として歩んで来た十年と余年。


 双子の弟――。


 双子と言えども、腹から出たのがほんの数分遅いと言うだけで、弟だと言われ。家の中ではもはや幕の外に送り出された。


 この家の跡取りだと?

 ――程々にしろよ!


 たかが、数分俺より先に産まれただけのカスがっ――。


 貴様に何が出来る!


 ふっ。この上、下級職とは。

 ――これで跡取り、次期当主。聞いて呆れるわ。


「父上。ルーデンを追放した今、このアルフォンス家を継ぐのはこのシオール。との事で宜しいんでしょうか?父上の先ほどのお言葉……そう受け止めも?」


「……ああ。シオール、お前しかおらぬ。ルーデンは下級職の鍛治師、訳の分からぬ鑑定……もはや彼奴あやつはこの家に相応しくない。シオール!現当主である私が今、これよりお前がアルフォンス家の当主として認める。」


「はっ!有り難くその命、付き従わせて頂きとうございます」


 ……彼奴あいつをたかだか、追放の身なんかで終わりにしとくものか!


 この座をやっと、やっと掴み取ったのだ。


 影でしか無かった俺に幸運が押し寄せて来た今――。


 国外追放にして、一生この王国に出入り出来なくさせてやる。


 いや、彼奴の行方を探し出して、捕らえてそのまま斬首かまたは極刑にしても構うまい。

 一生、牢獄にぶち込んでやっても良い。


 兄、ルーデン。

 

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――。


 殺してやる。




  こうして俺はアルフォンス家から追放されて、孤独になった。一振りの木剣を持ち出して――。


 追放された日にハルバルーン王国を出て最初に着いた村は『アインズ村』だった。


 別に目的はない。

 ただひたすら走ったら『アインズ村』に着いただけ。

 そこで何をしたかも特にない。

 ひと呼吸つきたかった。

 それに状況やら俺に置かれた立ち位置やらを理解したいってのもあったからだ――。


 いや、追放された現実を受け止めるのに時間が掛かったってだけだ。


 それから『アインズ村』にアルフォンス家に仕える騎士団が俺を追ってやって来た。

 そこから懸命に必死に逃げた。


 弟シオールの指示で動いてるのか、父上なのかは分からないが、俺は国外追放されたらしい。


 たかが、下級職と見た事も聞いた事もない鑑定スキルを付与されただけだってのに――

 だが、国外追放とは言葉のまんまで、ハルバルーン王国の領地にさえ足を踏み入れる事を許されていない。


 下手すれば、捕まる。

 指名手配に近いのだ。


 それだけの重罪を犯したとは自覚していない。

 ただ、不遇に遭遇した――ってだけだ。

 それなのに、こんな仕打ち……考えたくもない。


 こんな葛藤を抱きながら、俺なんかを受け入れてくれる。

 俺なんかがやって行けそうな街や都市を目指した。


 そんな時だった。

 アルフォンス家から持ち出した一本の木剣――。


 こいつは姿を変えた。


 何に――?


 美し過ぎる少女にだ。


 出会った当時の事――。


 彼女の見た目は十から十一歳くらい。

 背に届くほどのロングヘアーの金髪を揺らしながら、鼻筋が通って透き通るような肌をしていた。

 青色の瞳で上目遣いしながら俺を凝視して睨んできた。


 妖精のような綺麗な顔立ちのせいか、何度もこの光景を見るたびに、時が止まるってこの事だなと呆然しながら納得した。

 ひとことで言うと、可憐を具現化させた容貌に、そこに見入ってしまうほどの妖艶を持つ美少女だって事だ。


 美少女の目つき……じと目をしながら睨んできた。


 そして、この美少女の名は――。



 ――――――――――――――――

名称:レイティ・アレクサンドロス

従属先:ルーデン・アルフォンス

種族:『契約済』インテリジェンス・カスタム・ウェポン

攻撃力:384 保有魔力:850/1000 耐久値:100/100

保有スキル:

剣術:Lv.7 斬撃:Lv.5 自己修復 形態変化:Lv.Max

警戒 気配察知 振動察知 身体能力上昇 魔力障壁 

錬金術 分解 無限収納 念話 斬撃耐性(極)

――――――――――――――――


 名は、レイティ・アレクサンドロス――。


 俺に与えられたスキル『鑑定』は、物や魔物の情報や特性を知る事が出来るらしい。


 俺はこの自称レティと従属契約を結ぶ事になった。


 その後、この美少女は再び姿を変えた。


 漆黒の大剣――。


 刀身は太く両手剣に似ているのだが何故だか黒く、それでいて艶がない不思議な金属のようで、重厚なのが伺える。刃紋は銀色に輝き美しい外見。


 それにくわえて、柄から鍔に掛けては輝きを抑えた金色で雷に似た模様で飾られている。

 

 まさに、超一級品のような剣であった。


 この美少女らしいと言えばらしいのだが――。


 そんな美少女との出会いを果たして、俺と彼女二人は街に向かった。

 その道中、レティのスキルのひとつ『念話』で俺に話しかけてくる。


 甲高い金切り声でだ――。


 俺とレティはお互いやいのやいのと悪態を叩き合うのだが、どこか気が合う気がしていた。


 今、俺がいる街『ユスラム』に辿り着くまで、色んなことがあった。

 ゴブリンの群れに遭遇したり、数年前から音沙汰すらない幼馴染の フローラル・エスティス と偶然にも再会を果たしてしまったり。


 発達を遂げた彼女は、赤毛の豊満な胸をお持ちの幼馴染でした。


 そんな幼馴染の少女は俺と同じ貴族だったのにも関わらず、ここ『ユスラム』で冒険者としてやってるのを知った。


『ユスラム』には世界一と称される、武具生産メーカーの『マスター・ヴォルクス・スミス工房』がある街だ。


 冒険者なら喉から手が出るほどの有名武具工房らしい。


『ユスラム』に訪れる冒険者はみんな、これを目当てにやって来たり、ここの鍛治職人になる為に修行で訪れたりする。そんな街。


 貴族とかの制度も無く、人族はもちろん様々な種族で溢れる街。

 獣族やエルフ族もいる――。

 そんな街だから、他所者よそものと言う差別をする連中はいないんだ。


 この俺からすると、案外心地よく住みやすい街だと思った。


 こうして俺は、『鍛治師』の職業を付与された事もあって、『ユスラム』にある生産ギルドに加入する事を決意した――。


 そして今、生産ギルドに加入する為の試験に挑んでるところだ。


 鍛治職人としてやるからには、試験に合格して最高ランクのマスター級を目指してやると、固く決意したのであった。

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