第46話 すれちがい その4

大輔は、ベッドの上で仰向けに横たわり、天井を見つめていた。神社での結衣とのやり取りが、何度も頭の中で反芻されている。


(僕が…鈴木美香さんに告白?そんなの絶対にありえない…。西園寺君に頼まれた手紙を結衣さんが偶然見たんだ。そういえば、手紙落としたって言ってたし。)


大輔は、心の中で自分に言い聞かせるように繰り返した。しかし、西園寺との約束があるため、誰にも真実を言えないことが彼を苦しめた。自分の無力さと、不条理な状況に対する苛立ちが交錯する。


(西園寺君との約束を破ることはできない。僕は、約束を絶対に守ると決めたんだ。だから、何も言わない……)


だが、結衣との距離がどんどん広がっていく現実が、大輔の心を締め付けるように痛みを与える。どうしても涙が止まらず、胸の奥がズキズキと痛んでくる。


(どうせ今まで僕はぼっちだったんだ…頑張って変わろうとしたけど、また元に戻っただけなんだ。でも、なんで涙が出るんだ…こんなに辛いのは、どうしてなんだ?)


大輔は、自分が傷ついている理由を理解しようとしながらも、答えを見つけられずに涙を流し続けた。


次の日、大輔は朝から体が重く感じた。精神的な疲れから、ベッドから起き上がることさえできなかった。葵に「熱がある」と嘘をつき、学校を休むことを決めた。嘘をつくことに罪悪感を感じたが、今の自分には、学校へ行く気力がどうしても湧いてこなかった。


葵は、兄の異変に気づいていた。朝から普段とは違う様子で、元気がない大輔を見て、不安が募っていた。


「今日はおにい休むから、学校で結衣先輩に会いに行こう。」


昼休み、葵は梨香に相談し、二人で結衣に直接会いに行くことに決めた。葵は、自分の直感を信じて、兄を守るために動かなければならないと感じていた。


放課後、葵と梨香は結衣のクラスの前に立ち、結衣を呼び出した。教室の外の廊下で、三人が向かい合う形になった。


「結衣先輩、少しお話があります。お時間ください」


葵は、真剣な目で結衣を見つめた。


結衣は一瞬戸惑った表情を見せたが、葵の真剣さに押されて頷き、廊下の端へと歩いて行った。結衣は静かに説明を始めた。


「昨日、大輔君と話したとき、鈴木美香さんに手紙を書いていたことがあるって…だから、私たちがあまり仲良くしない方が誤解を生まないかなって思って…」


その言葉を聞いた瞬間、葵は驚いた表情を浮かべた。


「それって、おかしいよ、結衣先輩!兄は、そんなことする人じゃない!」


「でも…」結衣は困惑したように目を伏せた。


「実際に手紙を見たし、大輔君が関わってるって思ったんだけど…」


葵は、兄を守るための強い意志を込めて、冷静に言葉を続けた。


「兄のことは、私が一番よく知ってる。誰よりも正直で、誰かを傷つけるなんてことは絶対にしない人です。文化祭の時に、結衣さんの友達の名前もたくさん聞いたけど、鈴木さんの名前なんて一度も出てこなかった。それに、兄はクラスメイトの名前を覚えるのすら苦手なんだから、他のクラスの人に興味を持つなんて考えられません。」


結衣は、葵の真剣な話を聞いて、自分の考えに疑念を抱き始めた。大輔の性格について、確かに彼が誰かと積極的に関わるようなタイプではないことを思い出していた。


「じゃあ…どうしてあんな手紙が…?」


結衣は困惑した表情でつぶやいた。


「それは私にもわからないけど、兄が誤解されているのは確かです。兄は、誰よりも誠実で、約束は絶対に守る人なんです。」



葵の真剣な説明を聞いているうちに、結衣は自分の誤解に気づき始めた。確かに、大輔は誠実で、他人との約束を絶対に守る性格って聞いたばかりだ。


それに、クラスメイトと話してないのは確かだ。冷静に考えると女子と話している所も見ない。誰かに頼まれて書いたのだったら?


それが、彼女の中で、これまで感じていた違和感を解消するきっかけとなった。



「ごめん、葵ちゃん…私、大輔君のことを誤解してたのかもしれない。」


結衣は、そう呟きながら、少し涙を浮かべた目で葵を見つめた。


「ううん、結衣先輩がそう感じてしまったのも無理はないと思います。でも、今は真実を知るために、もう一度ちゃんと話し合ってください」


放課後、結衣は葵に連れられて、大輔の自宅へと向かうことにした。大輔は、部屋の中に閉じこもったままで、葵が何度呼んでも返事をしなかった。しかし、葵の説得により、結衣はリビングで待つことになった。


「おにい、結衣さんが来てるんだよ。話し合って欲しいって。」


その言葉を聞いても、大輔は部屋の中でじっとしていた。ドアの向こうからは、彼の微かな息遣いだけが聞こえてきた。


「おにい。しっかり向き合って。」


葵は、静かな決意を持ってそう言った。


彼女は、大輔の誠実さと、これまで見てきた彼の一面を思い出しながら、大輔が部屋から出てくるまで、静かにリビングで待ち続けた。


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