第40話 文化祭その5
中庭のテーブルには、みゆき、明里、咲希、結衣、そして大輔の妹である葵が集まっていた。
「さあ、文化祭も終わりに近づいてきましたが、ここで女子会を開催します!」
みゆきが開口一番、元気よく声をかける。
「「だね!」」明里と咲希も微笑んで同意する。
「それでね、実はちょっと突っ込んだ話をしたくて、特別ゲストとして葵ちゃんをお呼びしました。」
「パチパチパチ」と拍手が響く中、咲希は楽しげに唇をかすかに上げながら、少し身を乗り出して葵のほうをじっと見つめた。
「な・なんの話でしょうか?」
葵が少し戸惑いながら尋ねると、咲希は口元に手を当ててクスクスと笑い、いたずらっぽく言葉を続けた。
「ふふふ、葵ちゃん。実はね、私たち、大輔君のことが気になって仕方ないのよ!ズバリ、普段の彼ってどんな感じなの?」
「そうそう!」と明里もすぐに目を輝かせて乗り気になる。
「クラスだとあまりみんなと話したりしないし、私たちにもどこか壁がある感じでさ。なのに結衣とはいつの間にか仲良くなってるし、そのあたりがずっと謎だったのよ。まあ、そのへんの秘密は、結衣にも聞いてみるべきかな?」
「え〜、ちょっと、私ここでは関係ないでしょ!」
葵が話し始めると、彼女の表情には少し遠くを見るような、懐かしさと切なさが混じっていた。
「あぁ〜、わかりました。でも…兄には、内緒にしてくださいね。」
そう前置きしてから、話し始めた。
「実は、小学校の高学年くらいから、兄はあまり人と関わらなくなったんです。」
葵がぽつりと話すと、明里や咲希が興味深げに身を乗り出す。彼女たちに少し笑顔を向け、葵は続けた。
「兄は…正義感が強くて、何か約束をしたら絶対に守るんです。それがどんな約束でも、必ず。」
「えっ、絶対に守るって?…そんなこと、普通できるかな?」
咲希は驚きながらも少し考えた。たとえ小さな約束でも?なんだか信じられないというか、ちょっとドラマの主人公みたい。普通、面倒なことがあったり、ちょっと不利な状況になるとつい適当に流しちゃうことってあるよね?
「そうなんです。どんな状況でも、兄は約束を守るんです。たとえ自分が不利な立場になっても、相手を優先しちゃうから…。本当に…兄はバカみたいですよね。なんで自分を犠牲にしてまで、相手のために動くんだろう。そいつが兄に何かしてくれたわけでもないのに…。」
葵は少し苦笑いを浮かべた。バカなお兄の性格はわかっているようで私もわからない。
「でも、逆にそれで面倒になることも多くて。…中学2年生のときなんて、それが原因でいじめを受けてしまったんです。」
「いじめを?それでも相手との約束は守り続けたの?」
明里が驚きの表情で尋ねると、葵はうなずいた。
「はい、兄はどんなに辛くても、自分よりも相手を優先しちゃうんです。たとえ嫌な立場に立たされても、約束を破ることはしない。だから、その時もいじめられてるって分かっていても、最後まで約束を守り続けたんです。」
葵の言葉が静かに4人に響く。みゆき、明里、咲希、そして結衣はそれぞれ目を見合わせて、しばし言葉を失った。驚きとともに、どこか敬意の色が浮かんでいる。
なんで、そんなに辛いことに耐えられるのだろう?
なんで、そんなに人を思いやれるんだろう?
なんで、そんなに信じられるんだろう?
誰からともなく、心の中に浮かんだ疑問。静まり返った中庭で、そんな思いが満ちていくようだった。
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