第14話 買い物

 放課後、葵と梨香さんを下駄箱で待っていると、浅見さんが突然声をかけてきた。




「あれ?城山君、また妹さんと買い物でも行くの?」


「そうそう。なんか今日は、葵とその友達に付き添うことになったんだよ。」


「へぇ〜、そうなんだ。」浅見さんは少し考え込むように、視線を一度落としてから、ふと微笑んだ。




「じゃあ、私も一緒に行っちゃおうかな〜。だめ?城山君?」


「えっ?別に僕は良いけれど、妹と友達が問題なければ全く問題ないよ。」


「でも、浅見さん、本当にいいの?」


「うん、一緒に行ってみたいなぁって思って。」浅見さんは軽く肩をすくめて、楽しそうに言ったが、どこか真剣な目で大輔を見ていた。


「じゃあ、一緒に待ってよっか。」




 城山と浅見が下駄箱で一緒に立っていると、周りからチラチラと視線が集まるのが感じられた。




「城山君、なんかごめんね…」浅見さんは少し申し訳なさそうに顔を下げた。


「ん?何が?なんか浅見さんが謝ることしたかな?」


「えっ?だって、周りが…ほら、ヒソヒソしてる。」浅見さんが少し困った顔で周囲を見回す。




 大輔は浅見さんにそっと顔を近づけて、小声で囁いた。


「浅見さん、周りの人たちって本当に暇なんだね。だって、浅見さんが誰と一緒にいようが関係ないじゃん。浅見さんの友達ならわかるけど、全然知らない人が何か言うのって、なんかおかしいよね。」




 浅見はその言葉に一瞬驚いて目を見開いた。




「えっ…」浅見さんは驚きながらも、その後すぐに笑い出した。


「あははは。確かに城山君の言う通りだね。本当にそうだよ。」




 浅見さんがとても大きく笑ったため、周りが再びざわめき始めた。普段見せない彼女の笑顔にびっくりしている様子だった。










「大輔せんぱ〜い!」


 遠くから元気な声が響いた。手を大きく振りながら、梨香がこちらに駆け寄ってくる。


「えっ、梨香?どうしたの?それに、大輔って名前呼び?」


 浅見が少し驚いた表情で尋ねると、梨香は明るく笑いながら答えた。


「えぇ、結衣さんこそ、どうしてここにいるんですか?」


「私は、城山君の妹さんたちと待ち合わせしてるんだよ。それより、どうして名前呼び?」


 浅見が軽く首を傾げる。


「えっと、それには深〜い訳がありまして!」梨香は照れ笑いを浮かべた。




 すると、大輔が間に入ってきた。


「あぁ、葵と梨香さん、実は浅見さんも一緒に行きたいって言ってるんだけど、どう?」


(お〜い、マジでお兄は私を休ませる気がないのか…これは家で一言物申すしかない!)


「私は別に良いけど…葵ちゃんは?」


 梨香はにこやかに葵を見つめる。葵は内心で深く息をつくが、笑顔を浮かべて答えた。


「私も全然問題ないよ〜」


(OKって言うしかないじゃん。こういう時は。)




「やった〜!」浅見は嬉しそうに笑い、手を軽く叩いた。「じゃあ、どこかカフェに寄って、ちょっと話でもしようか?」


「じゃあ、みんなで行こうか。」


 大輔が掛け声をかけ、4人は一緒に歩き出した。




<カフェで座った状況>


 大輔  葵


 結衣  梨香




 4人はカフェに入り、窓際の席に座った。軽くメニューを見た後、結衣がさりげなく梨香に問いかけた。




「じゃあ、梨香に質問。どうして城山君のこと、名前で呼んでるの?」結衣が疑問を投げかけると、梨香は少し頬を赤らめながら答えた。


「実は先週、弟の海斗が事故に遭いそうになったところを、大輔先輩が助けてくれて…その時は、ちゃんとお礼が言えなくて。でも、葵ちゃんと友達になって、遊びに行ったら偶然大輔先輩がいて、それで名前で呼んでもらうようになったんです。」


「ふ〜ん、そうだったんだ。城山君、やるじゃない。助けるなんてさ。」結衣が驚きながらも、少し尊敬の目で大輔を見つめた。




「いや、本当にたまたまなんだよ。でも、大事にならずに済んで良かったよ。」


「でも、何で梨香にだけ名前で呼ぶの?」結衣が再び興味深そうに問いかける。


「それはね、夏川さんって呼んだら怒られちゃったんだよ…」


「えっ、怒られたの!?」浅見は目を大きく見開いて、思わず驚いた声を上げた。その反応に、大輔は少し戸惑いながらも笑みを浮かべた。


「そう、なんか梨香さんにとっては不満だったみたいで。」


「へぇ〜・そうなんだ。じゃあ、私も…結衣って呼んでもらおうかな?」結衣が冗談交じりに言うが、その声にはどこか本気が感じられた。




「えっ、浅見さん…本当に?」大輔が戸惑ったように彼女を見る。その瞬間、梨香も結衣の言葉に驚き、無意識に軽く頬を赤らめた。自分が先輩を名前で呼びたかった気持ちと、結衣さんの思いが重なるように感じ、心の奥で少し動揺したのだ。




「そ、そういえば、結衣さんがあんなに人が行き交う下駄箱で、男性と一緒に待ってるなんて、珍しいですね。大輔先輩のこと、どうして知ってたんですか?」梨香が問い詰める。


「そ、それは…同じクラスだからよ。それに、教科委員も一緒だしね。」


「へぇ〜、本当かな?せ・ん・ぱ・い?」


「うん、浅見さんの言う通りだよ。同じクラスで、教科委員も一緒にやってるんだ。浅見さんには、本当に助けられてるよ。」


(葵の心の声:出た、全く空気を読まない「ボッチオブザボッチ」。ある意味すごいよ、おにいって。ほんとドラマより面白いかも。)




「大輔君、違うよ!ゆ・い!でしょ」


 結衣が、半分照れくさそうに大輔に強調する。


「えぇ〜、浅見さんも名前で呼ばせるの?」大輔は困惑しながらも答えるが、結衣は顔を赤らめていた。


「良いの、だから…ゆ・い!」


「は、はい、結衣…さん。」




「ダメ、結衣って呼んで!」結衣は軽く眉をひそめて、少しだけ真剣な表情を見せた。




 大輔は困ったように微笑みながら、「いや…結衣さんの方がしっくりくるんだけど…」とつぶやく。




「えっ?」結衣は少し驚いた様子で大輔を見つめる。




「僕、まだ慣れてないから、なんか『結衣』って呼ぶのが…ちょっと恥ずかしくて…」大輔は恥ずかしそうに言いながら、視線をそらした。




 結衣は少し考える素振りを見せた後、ふっと微笑んで言った。「そっか、じゃあいいよ。私も、大輔って呼び捨てにできないしね。やっぱり『大輔君』って呼ぶのが自然だし。」




「そうなの?僕も同じだよ、『結衣さん』の方が自然だから、これでいい?」




「うん、わかった。結衣さんでいいよ。」結衣は少し照れたように微笑みながら、納得してうなずいた。



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