美少女との日常で変わりゆく、俺のボッチ生活

リディア

第1話 出会い

 春の陽射しが優しく街を包み、桜の花びらが風に舞い上がっていた。新しい街には、どこか物憂げな空気が漂っている一方で、生命の息吹も感じられた。


 城山大輔は、高校2年生になったこの春、家族と共にこの街に引っ越してきたばかりだった。




「新しい生活か…。新しい街でうまくやっていけるかな。小さい頃からの引っ越しも慣れてきたが、やっぱり人と話すのが苦手なのはなかなか治らないな…。」




 大輔は、ふと立ち止まって街の景色を見渡した。まだ馴染めない街並みが、胸の中にわずかな不安を引き起こす。しかし同時に、これから始まる新しい冒険の予感もあった。新しい友達、新しい学校、そして新しい自分…。そんな期待がある一方で、どうしても消えない不安がひとつ。それは、大輔が人見知りだということだった。話そうとすると緊張でいつも言葉が詰まってしまう。




「まあ、とりあえず、少し街を歩いてみるか。高校へも新しい家から徒歩で行けそうだし。友達と遊ぶ時とか困るかもしれないし…」




 気を紛らわせるように大輔は歩き出した。桜並木が続く通りを抜け、住宅街をさまようように歩く。初めての街を歩けば、少しは慣れるかもしれないという期待を胸に、知らない道を選んで進んでいった。


 しばらく歩いていると、不意に目の前に階段が現れた。静かな住宅街の片隅にひっそりと佇む階段は、まるでその先に何か特別なものが待っているかのように、大輔を誘っていた。




「なんだろう、ここ…」




 階段は長く、急な勾配で上に続いていた。その先に見えるのは、古びた鳥居。鳥居の奥には、静けさに包まれた神社があり、どこか神秘的な雰囲気を漂わせている。八坂稲荷神社――引っ越してきた時に、近所の人から少し話を聞いたことがある場所だ。




「よし、登ってみるか。パッと見た感じ結構ありそうだ。あとあそこからなら駅とかざっくりと見渡せそうだ」




 何となく、その階段を登ることにした大輔。1段、2段、3段…。数えながら登り始めると、すぐに呼吸が少し荒くなってきた。思った以上に長い階段だったが、彼は少しずつ登っていった。50段を超えたあたりで一度振り返り、見下ろすと、静かな街の風景が広がっていた。




「ふー。結構、登ったな…」




 大輔は少し息を整え、再び上を見上げる。そして、残りの段数を一気に駆け上がるように進んだ。やがて80段目に到達すると、そこには八坂稲荷神社の境内が広がっていた。


 古びた石灯籠が並び、木々が風に揺れる音だけが響く静寂な場所だった。神社特有の厳かな空気に包まれ、まるで現実から離れた異空間にいるような気分になった。人の気配はなく、まさに一人で心を落ち着けるには絶好の場所だ――。


 しかし、大輔の目に一つだけ異質な存在が映り込んだ。麦わら帽子をかぶった少女が、神社の正面に立っていたのだ。彼女は大きなサングラスをかけていて、顔の表情も年齢も全く分からない。




「えっ…。なんか先客がいる。」




 大輔の心臓がドキリと跳ねた。見知らぬ異性と話すのが苦手な大輔にとって、この状況は想像以上に緊張を伴うものだった。言葉が喉に詰まる。まあ、女性のようだし、無言ってのも気が引けるし、このままコミュ力が低いままでもいかんしな。ここで挨拶くらいしておいた方が良いと思うが、やはり頭の中が混乱するな。心臓もドキドキするし。今から告白かってくらい緊張するし。あぁ〜。手のひらには汗が滲んできたよ。




「え、えっと…こんにちは」




 震える声で挨拶をすると、少女は静かに顔を向け、軽やかに返事をした。




「ふふふ。こんにちは。ねえ、今80段って聞こえてきたけど、数えながら登ってきたの?」




 彼女は帽子のつばを軽く押さえながら、楽しそうに話しかけてくる。その軽やかな声に、大輔は戸惑いながらも答えた。




「あ、うん。なんか気が紛れるかなと思って…」


「へぇ、面白いね。私よくここへ来るけど80段もあるなんて知らなかったなぁ〜。」




 彼女の軽い反応に、大輔は少し救われた気がした。まだ心臓の鼓動は速いままだが、なんとか会話を続ける。




「昨日引っ越してきて、ここへ来るのは初めてなんだけど、すごい景色が良くてとても良い場所だね。それに木というか森というか自然の香りもして、とても落ち着く場所だね。」




 大輔は彼女の様子を見つめながら、勇気を振り絞って尋ねた。彼女はしばらく黙っていたが、ふと微笑みながら麦わら帽子に手を伸ばした。


 彼女は、ゆっくりとサングラスを外してこちらを向いた。大輔は息を飲んだ。サングラスの下から現れた彼女の顔は、驚くほど整っていて、まるで絵画のような美しさだった。大きな瞳が輝き、白い肌が桜の花びらのように柔らかく光っている。すごい美少女だな。語彙力が美味しい料理に美味しいしかいえないと一緒で、美少女には美少女しかいえないな。




「そうなの?。昨日引っ越してきたんだ。私は、ここが好きなの。静かで、人が少なくて…それに、この景色を見てると嫌なことを忘れられるんだよね。だからね。あまり人に言わないでね。」


 彼女は、人差し指を立て内緒だよってポーズをする。


「…」


「ふふ、急に黙っちゃって…どうかした?」


 彼女は軽く笑いながら、問いかけた。大輔は慌てて返事を探したが、緊張で言葉がうまく出てこなかった。




「そ、そう…いや、ちょっと驚いたっていうか…」




 彼の頼りない返答に、彼女は再び微笑んだ。




「それじゃ私行くね、また会えるかもしれないね」




 彼女はそう言い、再び麦わら帽子をかぶり直して優雅に背を向けた。その背中を見送りながら、大輔


はただ立ち尽くしていた。心臓が高鳴り、彼の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。




「なんだったんだ…あの子」




 彼女の存在は謎めいていて、大輔の心に深く刻まれた。胸の中に残る不思議な感覚を抱えながら、大輔はゆっくりとその場を後にした。

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