鬼女隠しの祠の三兄弟

木古おうみ

壊すなんてとんでもない

 お前があの祠をぼっしたんけ。


 しめえだ。お前はもう助かんねえよ。

 わざとじゃねえし、しょうがあんべえよって言いてえんだべ。

 知ったことか。毎度毎度おめえらみてえながんちゃに付き合わされる俺の身にもなってみろや。


 おおかた、お前も「もう俺らじゃずつなしだけえ、あっちかしの山の屋敷の長男に頼んでけえろ」とでも言われたんだべ。

 確かに、おらがはもう何代も祠を守ってる。俺が三兄弟のいっちゃん上だけえ、五つんときからほとんど篭りっきりで神に仕えることだけ覚えてきたんだ。



 へえから、あかしてやるべ。

 ありゃあ、俺の手に負えるもんじゃねえ。


 ちっと前も、どっかの阿呆が祠を蹴っさらってな。どうなったかわかるか? しゃっけえ身体になっておらがの裏の川に浮かんでた。


 わざとやった奴だけじゃねえ。

 嵐の前によかんべと思って祠を奥にずらしてやった村の力自慢も、次の日には血吐いて死んでた。

 そいつはおらがの離れに篭って一晩中仏のうのうさんに祈ってたけんどな。そいつの嫁も次の年には死んださ。

 わざとかわざとじゃねえかなんて話じゃねえ。



 あそこの祠にいるのが何かって?

 俺だって知ってねえ。けんど、親父の話じゃ今はマシになった方だってさ。


 昔は何でもねえときにひとがバタバタ死んだけえな。のどけやなんかじゃねえかと思われてたぐれえさ。


 そのうち、村の巫女がこの村のどっかでっちゃられた神がお怒りなんじゃあんべえかって言い出して、あそこに祠を建てたんだ。


 けんど、祟りは終わらねかった。

 村の奴らが巫女が嘘こいたんじゃねえかって怒り出してな。何せ祠を建てるのに随分金を工面してもらったけえ。ずるっこして金をぽっぽしたんじゃねえかと思ったんだべ。


 おらがの先祖がゆんべに巫女んとこに乗り込んだら、その女の面が真っ赤で頭から角が出てたんだってよ。その鬼女が元凶だったんだだ。

 へえから、村の若い衆が総出で、暴ける鬼女をふん縛って、首斬り落としてあの祠の下に埋めたんだ。


 あの祠が鬼隠しって呼ばれてんのはそういう訳だ。

 そっからは、祠に何かしねえ限りひとは死ななくなった。



 何だ、死人みてえな面して。

 そりゃ怖かんべよ。祠をぼっ壊した奴はみんなそうさ。

 お前も見えてんだべ。真っ赤な面してデコから二本角生やした女が。

 そんじゃあもう終えだ。ずつなしだ。


 何が怖えだ。

 俺は五つんときから朝っぱら祠に参るたびに鬼女を見てんだ。そっから足も動かなくなって、舌も腫れるようになった。

 もうこの村以外で生きてくずつもねえ。へえから、ずっと祠を守ってんだ。



 けんど、お前の死に様は案外悪くあんべえかもな。

 何でも、祟られた奴はだんだんくっ憑いてる鬼女が綺麗な娘に見えてくるって話だべ。

 離れで血吐いて死んだ男も最期は笑ってた。


 おらがの都会かぶれの穀潰しの次男坊だって死んじゃいねえが、鬼女を見てからずっといかれちまった。次男だけじゃねえか。おらがの弟はふたりともいかれだけえ。



 次男坊ならお前の話も聞いてくれるんじゃあんべえか。

 さあ、帰らっせえ。

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