第2話

「お、俺は一体どうすればいいんだ。やっぱり告白するべきか?」

 すっかりうろたえているアキオが小声で囁くが、ヒロシはそれを制した。

「落ち着けよ。電車の中だぞ。あの人だって困るだろう。それにお前、ここで彼女を眺めているだけで、他には何も知らないんだろ?俺がこのまま後を付けて調べてみるから、お前はいつも通りに電車を降りろ」

 一緒に行くと言うアキオに、ヒロシは顔を知られていない自分だけの方がやりやすいと答えて、どうにか納得させた。

 友人が電車を降りた後、ヒロシは携帯電話を見ているふりをして、その場に留まった。やがて電車が新宿駅に着くと、相手は降りていった。ヒロシも慌てて続く。

 すでに夕日は沈み、大勢の人で賑わう新宿でヒロシは尾行を続けた。足早で進む目標を見失わないように必死で後を追ったが、繁華街に入った所でとうとう人ごみの中に消えてしまった。

 ヒロシは溜息を吐いて、派手で扇情的な看板が並ぶ繁華街を見渡した。

 彼の予想した通りだった。

 相手は夜の商売をしているのだ。受験生とまともな付き合いができるとは思えない。明日、アキオにこのことを告げようと彼は考えた。

 次の日、学校で会ったアキオに対して、ヒロシは自分の見たものを伝え、こう言った。

「あの女はホステスか、何かの風俗嬢だ。悪いことは言わないから諦めろ。お前には釣り合わない。きっと男だっているだろう」 

 だが、アキオはその言葉に逆に激昂した。

「あの人を悪く言うな!お前は人を見かけでしか判断していないんだ!俺は彼女がどんな仕事をしていても構わない!俺は今日告白する!」

 そう言って立ち去るアキオを眺めながら、ヒロシは呟いた。

「お前だって、人を見かけで判断しているじゃないか」

 放課後、一人で行くというアキオに、口出しはしないという条件でヒロシは同行した。やはり友人のことが心配なのだ。十中八九振られることになるだろうから、その時はラーメンでも奢って慰めてやろうと考えていた。

 いつも通りの時間に電車に乗ると、その人も乗っていた。

 新宿駅で降り、繁華街の入り口に着くと、アキオは勇気を振り絞って声をかけた。そして、自分の思いを打ち明けた。

 相手は最初驚いていたが、事情を理解するとやさしい口調で語りかけてきた。初めて聞く、その低くハスキーな声を聞いて、アキオの心は凍りついた。

「ごめんなさいね。とっても嬉しいけど、この体じゃあ、あなたの気持ちには応えられないの。でも、もっと大きくなって大人の遊びに興味が出てきたらいつでも店に来てね。サービスするから」

 長い栗色の髪に包まれた、整った人形のような白い顔は、軽いウインクをして店の名刺をアキオに手渡すと、夜の街に消えていった。

 アキオは死人のように蒼ざめた顔で、呆然と見送るだけだった。

 ヒロシは漸く、その人をどこで見たのかを思い出した。確か、自分たちが新入生の時に生徒会長をやっていた……。

 彼らの学校は男子校だった。

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