第17話



 怒鳴り散らすように。


 宛のない返事を待つように。


 亮平が目を覚まさないこと。


 それが彼に会わない理由にならないのはわかってる。


 だけどどうしようもないこの心が、峠を越えないまま、今も変わらずに待ち続けてる。


 彼の帰りを。



 「どんなスピードで走っても、もうあんたの願いが届かないとしたら」



 私はハッとしたようにキーちゃんを見た。


 でもそれは、今までの自分が間違っていたことを自覚したからじゃない。


 むしろそれは、反論だった。


 願いがもう届かないっていうことを、心から否定したい衝動だった。



 「キーちゃんはそう言うけど、私は待っていたいんや。あの日、あの事故に遭った後の電話で、彼は私に何かを言いかけた。未来から来たこと。違う世界から来たこと。そんなバカみたいなセリフが、耳の中に残ってる。だけど…」



 あの日、彼からの電話。


 雨が降る前の街の喧騒。


 聞き慣れたメロディー。





 プルルルルル……ピッ





 「…よぉ、楓」


 「どうしたん?」


 「ちょっとしくじってな…」


 「しくじったって、…なにを?」


 「…まあ、こうなることは運命やったんやが…」


 「…は?何言ってんの?」


 「…足が動かんのや。でも、大丈夫やから」


 「足…、場所は?事故ったの!?」


 「今高速道路にいる。救急車も呼んだ」


 「今は一人?」


 「…いいや、友達がおる」


 「亮平、今教室を出た。先生にも言った。母さんにも今から連絡する!」


 「楓…」


 「もしもし、もしもし!」


 「…楓、よぉ聞いてくれ。この前言ったことを覚えとるか?」


 「…この前?」


 「一緒に岡山に行ったやろ」


 「…ああ、うん」


 「説明が足りんかったのは謝る。誰だって信じられんよな。あんな話」


 「…ええから、今は喋らんほうがええって!」


 「最後かもしれんから、ちゃんと聞いてくれんか?」


 「…最後とか言うな!今行くから!」


 「俺からの頼みや。聞いてくれ」


 「………何?」


 「俺は未来で、ずっとお前を探してた。諦めとったんや。どう頑張っても、お前がいなくなる世界しかなくて」


 「私が…?」


 「この世界できっとお前は、幸せになれる。それは確かや。ようやく方法がわかったんや。せやから、心配いらん」


 「…何、…言って」


 「俺のことはもうほっとけ。俺たちは最初から、出会う運命になかった」


 「…ほっとけるわけないやろ」


 「ハハッ。どうせ俺のことなんてすぐに忘れるくせに」


 「アホなこと言っとらんと、安静にしときぃ!」


 「…もし、俺の身に何かあったとしても、大丈夫や。お前はこれから先、明るい未来が待っとる。俺が保証する」


 「…」


 「ただ、一つだけ言わせてくれ。俺は…」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る