あの海が見える街の丘で
平木明日香
プロローグ
最後の夏の大会に向かうバスの道中、チームメイトのみんなと写真を撮り合いながら、思い出を振り返っていた。試合前の緊張もすっかり消えて、全開に開けたバスの窓から涼しい風がやって来る。
みんなと一緒に試合に臨めるのは、今日が最後かもしれない。
昨日の夜、監督に貰った背番号「8」をユニフォームに縫い付けながら、今年で最後になる3年生のみんなでグループを作って、ライン上でやり取りしていた。もしも今日の試合が最後になるなら、終わった後全員で焼き肉食べに行こうって。
もちろんOKだよ。
それはきっと明日になっても、変わらない1つの気持ちだっただろう。
3年目で初めて獲れたレギュラーの座。
大学進学を許してくれた父の一言。
憧れだった先輩からの連絡。
仲良し3人組で出掛けた2泊3日の旅。
この夏に起きたことを振り返っても、今日という1日が帰ってくることは二度と無い。昨日も今日も明日も、変わらないチョコレートの味のように、いつでも同じ場所にいられるわけじゃない。だから試合に向かう途中、隣の席にいる親友に言った。
「試合が終わったら、一緒に行きたいところがあるんだ」
それは、明日が来ることを信じたいという願いが、この胸のどこかにあったからなのかもしれない。
抗えない運命があるとしても、一緒に戦ってこれた仲間がいたということ。今日という日が「夢」ではなく、確かに存在していたということを。
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