旅の祠を壊したんか

根ヶ地部 皆人

旅の祠を壊したんか

 た、旅の祠を壊したんか!?

 あそこは、空間転移の魔法の泉を封じておった祠なんじゃぞ!

 ……いや、そんな魔王城直通なんてだいそれたもんじゃなく、大陸まで転移するだけの、ちっぽけな魔法じゃが……。

 ば、ばかもん! 空間転移は古代の大魔法ぞ! もう現代には幾つも残っておらんというのに。


 無論、大陸まで行くなら船を使えばよい。

 しかし、それも海路が安全ならば、の話じゃ。

 もしあの魔王が復活しようものなら、また獣たちは凶暴化し、邪悪な怪物たちが跋扈するであろう。

 そんな日が来れば、悠長に船旅などしておれんわ。

 なにより、海中に棲まう怪物から船を襲われれば、海の藻屑となるやもしれん。

 そんな時のために、大事に護っておった祠だったんじゃぞ!


 そうともよ!

 すべてはあの魔王が復活した時のため!

 再び伝説の勇者が産まれたその時のため!

 あのにっくき魔王を再び悠久の眠りに押し返す時のため!

 ああ、あの祠がなければ、次代の勇者様はどれほどお困りになるだろう……。

 泳いで大陸を渡らねばならんぞ。


 いや、いやいやいや!

 待てい!

 旅の祠を壊したんか!?

 かつてわしらが、魔王の軍勢から城を守り抜いた我ら魔道部隊の精鋭が、幾重にも防御の陣を敷いたあの祠を!?

 貴様、ただの旅の男ではあるまい。正体を見せい!

 正体を……!

 お、おおおおお!?

 まさか、まさか!


 すでに復活を遂げ、いまだ産まれぬ勇者の先廻りをするために!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

旅の祠を壊したんか 根ヶ地部 皆人 @Kikyo_Futaba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画