第10話 悪魔召喚


 ――魔法の本質は省略である。


 例えば火をつけるには。

 まず枯れ草などの燃やす物、火種を起こすための石等の道具がいる。

 そして何より、上手く火をつけるという技術が必要だ。


 火の魔法はその条件を、魔力をエネルギーにして省略する。


 例えば悪魔と話すには。

 正攻法はただ一つ。悪事を成してから死ぬことで、地獄に向かうこと。

 ただし、交渉するには何かを捧げなければならない。大抵は無理難題であり、死んだ人間が調達することは不可能に近い。

 悪魔召喚はそれを魔力と魔法陣と生贄で短縮する。


 ただし全ての人間が魔法を行使できるとは限らない。

 総ての魔法の源、地上に降りし神【マナ】に気まぐれに気に入られなければ」


「何だか回りくどいね~」「ね〜」

「省略って出だしなのにな」


「はいそこ、うるさい。ちゃんと聞きなさい。

 えー、ところが魔法使いの一族でさえ、【マナ】に見初められず何も魔力を持たない者もいる。 それは【マナの落胤らくいん】と呼ばれる。

 例えば、君達がそうだ。」


「らくいんってなーに?」「なーに?」

「父親に認知されなかった子のこと」

「え〜〜! ひど〜い!」「ひどいひどーい!」


「まあまあ落ち着きなさい。君達には父親がいるだろう。それも二人」


「「う〜〜〜ん……」」

「おや、煮え切らない返事」

「だってだって、ねえさまはお気に召していないんですもの」「ですもの」

「あら残念」


「……その話だが」


「はい?」「はいはい?」


「君達のねえさまは、日頃ずうっとぼおっと寝ているのに、君達と意思疎通できるのか?」


「簡単簡単だって私達、ねえさまの魂が引っ付いてるんですもの」「あの人の御心を理解するなんて、親よりもはっきりくっきりばっちり!」

「ほほうなるほど。影虎、かつて君が言ったことは正解だな」


「何の話だ」


「お世話じゃなくて見守ろうって。

 彼女にとって兄弟達が沢山いるということは、自分が沢山いるようなものだ。なら、自分達で自分達の世話は何とかできるだろ」


「ああなるほど。

……俺達がやってることは、この授業でさえ、全ては余計なお世話か……?」


「え〜、勉強は楽しいよー」「よー!」「だからもっともっと教えて!」「教えてー!」


「……そうか。

では、授業の続きをしよう。」


俺は開いた教科書を見つめ直した。昔は読めなかった字。今はすらすらと読める。


前を見ると、座敷の中、広いちゃぶ台に子供二人がノートを開いて、次の俺の言葉を待っている。

男の子と、女の子。


かつてこんな光景が、俺の過去にあった。それは俺の最愛の光景であり、薄汚くも美しい夢であり、もう二度と見られないもののはずだった。


でも、再び目の前に現れた。

奇跡のようなそれを、俺は今度こそ守ろう。

くだらない武勇伝にも魅かれることなく、地道に知識を蓄えて、下の子らに教えていこう。


ただ、一つだけ不確定要素があるとするならば。






「ちなみに、悪魔召喚は悪魔側が地上に持ち込んだんだよ〜」

「へー」「へー!」


……俺の影に妙な奴がいることだ。


「アルファ、ベータ。そいつの言う事をあんま真に受けるなよ」

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