第15話 迷子の少女Ⅱ

 無事、誤解が解けた俺達は、女の子から色々情報を聞き出した。


 名前は藤宮あやか。歳は四歳だそうだ。


 あやかちゃんは、お祖母さんと一緒にスーパーに買い物に来たそうだ。そこで一人で帰ろうとしたものの、道が分からなくなったらしい。


「なんで一人で帰ろうとしたの?」


「ひとりでかえって、ほめてもらいたかったんだもん……」


「な、なるほど……?」


 もしかしてあれだろうか。一人で出来たねって褒められるのが嬉しい時期なのだろうか。


 お祖母さん、めちゃくちゃ心配してるだろうなぁ。


「携帯を持ってたらいいんだけど。さすがに持ってないわよね」


「さすがに四歳じゃなぁ……。子供用携帯も持ってないだろ」


 GPSタグも、この時代ではまだ流通していないしなぁ。


「警察? それともスーパーに行ってみる?」


「スーパーの迷子センターに行くのが一番良いんじゃないか」


 きっとお婆さんも、迷子センターに向かっているはずだ。


「じゃあ、スーパーに戻りましょ。どっちから来たかわかる?」


「わかんない……」


 あやかちゃんは口をもごもごさせながら、首を横に振った。


「このあたりのスーパーというと、ダイカクか、ジャヌコだな。どっちもここから同じくらいの距離だ」


「どっちかわからないと動きようがないわね。違う方に行っちゃうと大変だし」


「なにか特徴があればわかるかも。今日行ったスーパーは、どんな感じだった?」


「んっとね。んっとね……」


 あやかちゃんは少し考えこんだ後、


「ひとがいっぱいいた!」


 と、どや顔で言った。


 どっちも人がいっぱいいるねぇ。


「あと、おかしがいっぱいうってる!」


 どっちもお菓子はいっぱい売ってるねぇ。


「あと、やさいうりばの、てんいんさんのおまたのチャックあいてた」


 それはその場で指摘してあげて欲しいねぇ。


 駄目だ。有益な情報が一つもない。


 そもそも両方とも似たようなスーパーなんだよな……。違うのは駐車場があるか無いかくらいで……。


 ん? 駐車場……。


「そうだ。お買い物に行く時、なにか乗り物に乗った? 電車? それとも車かな?」


「くるまだよ。しろいブーブーにのった」


 ビンゴ! 俺はパチンと指を鳴らす。


「ダイカクは駅のすぐそばだから、駐車場が無い。駐車場があるのはジャヌコだけだ」


 よほどのことが無い限り、わざわざ駐車場の無いスーパーに行ったりしないだろう。


「あそこなら迷子センターもあるし、そこでアナウンスして貰えば見つかるんじゃないか」


「そうね。じゃあ、そこに向かいましょう」


 というか、車で来たってことは、家まで結構距離があったんじゃないか? それを徒歩で帰ろうとしたというのは、中々のガッツの持ち主だな、この子。


「そういえば、貴方、この辺りに住んでいるの? ずいぶんと詳しいみたいだけど」


「あぁ。隣町だから、毎日徒歩通学だよ」


「そう……。私の家は遠いから、うらやましいわ」


 歩道が無く車も通る道のため、俺はあやかちゃんと手を繋いで、ジャヌコに向かうことにした。四歳児ということもあり、歩くペースが遅い。


 俺だけなら歩いて十分弱だが、倍はかかりそうだ。


「ん……」


 少し歩いたところで、あやかちゃんが足を止めた。


「つかれた。だっこ」


 まじかよ。


「も、もう少し頑張れないかな?」


「もうむり。てんにめされる」


「そりゃ困った」


 難しい言葉知ってるな、この子。


 見るとあやかちゃんは半泣きだった。また泣き出されても困る。俺はしぶしぶ彼女を抱っこすることにした。


 百メートルほど歩いたところだろうか。あやかちゃんが眉をひそめながら


「おにいちゃん、だっこへた」


 と不満をこぼした。


「ぐっ」


 だって、小さい子供の抱っこの仕方とか知らねぇし。


「おんぶじゃ駄目?」


「おんぶきらい。おなかくるしい」


 注文の多い子だな。あやかちゃんはすたっと地面に降りると、今度は由姫の方へ行き


「おねえちゃん。だっこして」


 とせがんだ。


「え。わ、私?」


「うん。おにいちゃんやわらかくない。やわらかいのがいい」


 そう言って、両手を広げて上目遣いで由姫に抱っこをせがんだ。


「しょうがないわね……」


 由姫はしぶしぶと言った感じで、あやかちゃんを抱っこする。さすがに少し重そうだ。


「ど、どう?」


「うん。おにいちゃんより、ちょっとやわらかい」


 ちょっとかい。


「わ、悪かったわね。貴方のママみたいに胸が大きくなくて」


 由姫は苛立ちげな顔で、あやかちゃんを抱きしめた。


 未来ではEカップの彼女だが、高一の時点ではせいぜいBカップだ。


「むー」


 あやかちゃんは体をもぞもぞさせて、体が楽になる抱っこポジションを探ろうとする。


「ちょ、あんまり動き回らないで」


 由姫はくすぐったそうに、体をよじらせた。


 そういえば、未来の由姫もくすぐられるのが苦手だったっけ。特に鎖骨あたりが弱くて、指先で撫でると可愛らしい反応をするんだよなぁ。


 そんなことを思ってると、なんだか悶える由姫がエロく見えてきた。

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