第11話 自己紹介は大抵上手くいかないⅠ
「失礼します。本日から生徒会に入会することになりました。有栖川由姫です」
生徒会室に入ると、そこには二人の男女がいた。
一人は生徒会長である御神静香。
会長のプレートが置かれた窓際の机の前に座っており、なにやら書類を書いていた。
もう一人は眼鏡をかけた男子だった。部屋の右隅にある会計と書かれたプレートのある机の前に座り、ノートパソコンを叩いていた。
ノートパソコンには色々なアニメのステッカーが貼ってあり、一目でオタクということがわかった。
「あら早かったわね」
会長は顔を上げ、俺達の顔を交互に見ると
「ごめんなさい。理沙……副会長がまだ来ていないの。だから、お茶でも飲んで待っていて」
彼女は直々にお茶を淹れてくれた。紅茶の良い香りが生徒会室に漂った。
「ほら、そっちの椅子に座って」
「あ、失礼します」
由姫は俺から可能な限り距離を取ろうと、ソファの隅っこに座った。悲しい。
「あつっ……」
紅茶を飲んだ由姫が猫舌を発動していた。可愛い。
会長が淹れてくれた紅茶を飲みながら、改めて生徒会室を見渡す。
広さは普通の教室より少し小さいくらい。エグゼクティブデスクが六つ。
中央に大きなテーブルがあり、向かい合うようにソファが二つ。俺達が座っているのがそれだ。恐らく、来客時に使うのだろう。
壁には賞状。そして、歴代生徒会長の名前が書かれたプレートがずらっと並んでいた。
一番右には六十九代生徒会長、御神静香と書かれたまだ新しいプレートがかけられていた。
「お茶の味はどう?」
「美味しいです。わざわざ会長がやらずとも、次からは私達が……」
「いいのよ。お茶を淹れるの好きなの。それに私、あまり上下関係は好きじゃないから、そんなにかしこまらなくていいわよ」
会長は向かいのソファに座ると、優雅に紅茶を一口飲んだ。
そして、由姫の方に目を移すと
「有栖川ってことは、貴方、優馬先輩の妹さんね」
「はい……」
わずかにだが、由姫の表情が曇った。
「さすが兄妹ね。どちらも成績優秀なんて」
「いえ、私は次席で……兄は首席でしたから」
「席次なんて相対評価でしょう。貴方が劣っているという証明にはならないと思いますよ」
「は、はい……」
優しく言いかける会長に、由姫は少しほっとしたようだった。
どうやら、会長は由姫がコンプレックスを抱えていることに気づいたらしい。
未来でも由姫は彼女のことを姉のように慕っていた。きっとこれから二人は仲良くなっていくんだろうな。
「ごめん! 遅れた!」
生徒会室のドアが勢いよく開けられ、茶髪のサイドテールのギャルが飛び入ってきた。
ルーズソックスに踵を踏み潰した上履き。制服の上着を腰に巻いている。
校則違反スレスレの短いスカートに、鞄には大量のストラップ。肌は日焼けしており、やや褐色。
未来では殆ど存在しない、平成のギャルだ。
「理沙。五分遅刻ですよ」
「ごめんて。陸上部とサッカー部が揉めてたから、その仲裁に行ってたの」
副会長の机の上に座ると、胸元を開け、手であおぎだした。
「陸上部とサッカー部……。グラウンドの使用権で揉めていたのですか?」
「いや、きのこの山か、たけのこの里、どっちが美味いかで喧嘩してた」
きのこたけのこ戦争かよ。
「ゴディバのチョコの方が美味いよって言って黙らせたけどね」
反則だろそれ! なんつー型破りな人だ。
「この子達が今年の一年生かー。あれ? でも二人だけ?」
「あぁ、新妻さんですが、しばらく休学するとの連絡がありました」
休学!? まだ入学して一か月と経っていないのに。
「体調不良ですか?」
「いえ、先生から聞いたのですが、彼女は役者をしているそうです。本来、四月上旬に終わるはずの公演が、一か月延期になったそうで」
「へぇ、役者ですか……」
驚いたのは役者をしていることよりも、役者業をしながらうちの学校に第三席で合格したことだ。
「いいんですか? 入学からいきなり休学するような人を生徒会に入れて」
「今の公演が終われば、学業に専念するそうなので、許してあげてください。お二人には負担をおかけするかもですが、私もカバーしますので」
「わかりました。私達だけでもなんとかしてみせます」
やる気をアピールするチャンスだと思ったのか、由姫は食い気味に頷いた。
「つまりしばらくは二人っきりというわけか」
「気持ち悪い言い方しないで。というか、先輩達もいるんだから、二人っきりじゃないでしょ」
俺がぼそりと呟くと、由姫から冷静なツッコミが返ってきた。
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