第9話 彼女のコンプレックス
御神静香。
未来の由姫の数少ない友人の一人だ。
由姫の一歳年上で、高校の生徒会で一緒だったそうだ。尊敬できる先輩だとよく自慢していた。
結婚後、時折家に遊びに来たり、由姫と一緒にランチに行ったりしていた。
長い黒髪で和服の似合いそうな、ザ・大和撫子な人だった。美しい人だなと見とれていると、隣の由姫がよく頬を膨らませていたっけ。
全校生徒が集まった体育館。
今日の議題は、先週行われた生徒会選挙の結果発表と就任挨拶だった。
七芒学園は少し特殊で、四月に生徒会選挙がある。
理由は、三年生が受験に集中できるようにするためだ。三年生は一切生徒会活動に関わらない。
主要職である、生徒会長、副会長、会計は二年生から、選挙形式で決定。
書記、広報、庶務は一年生が立候補形式で行うらしい。
二年生が責任の重い役職を担い、一年生はそのサポートと言う感じだ。
『それでは生徒会長就任挨拶を始めます』
癖一つ無い長い黒髪を揺らしながら、ゆっくりとした歩幅で彼女は壇上に上がる。
そして全校生徒を見渡すと、まったりした声で話し始めた。
「この度、生徒会長に就任させていただきました、御神静香です」
まだ高二なのに既に大人びて見える。御神さんは、あんまり変わらないな。
違いがあるとしたら、髪型くらいだろうか。未来では後ろ髪をまとめていたが、この時代は奇麗なロングストレートだ。
就任挨拶が終わり、盛大な拍手が巻き起こった。
彼女は一年時の生徒会でも書記を務め、そのまま繰り上げで生徒会長になったらしい。生徒達からの信頼も厚いのか、彼女の就任に反対の意を唱えるような者は一人もいなかった。
彼女、この時代から凄かったんだな。由姫が尊敬するのも納得だ。
「さて、目当てのやつは出てくるかな」
由姫を攻略する為に必要な人物。
それは彼女……ではない。
重要人物であるが、それ以上に由姫に影響を与えた人間が、この学校にいる。
由姫が青春を楽しもうとしない元凶となった人間。
それは
『では次に、前生徒会長の退任挨拶を行います』
三年生の最前列に座っていた長身の男子が立ち上がると、壇上へと向かっていった。
背は高く筋肉質。百九十センチ近くある。
髪は黒だが、肌の色や鼻の形は明らかに白人の血が混じっている。
顔の彫の深い、海外系のモデルのようなイケメンだ。
「すご……」
「マジかっこよくない?」
彼が壇上に上がった途端、一年の女子生徒達がざわざわと騒ぎ始めた。
「…………………………」
その中でただ一人、由姫だけが複雑そうな表情で唇を噛んでいた。
「えー。退任挨拶の前に、一年生の皆さんに挨拶をさせてください。対面式の際は体調を崩してしまいまして、新入生の皆さんとは今日が顔合わせになるので」
彼はぽふぽふとマイクを叩き、人当たりの良い笑顔を見せると微塵の緊張も無く、流暢に話しはじめた。
彼は由姫と同じ、青色の瞳で俺達を見渡しながら、名前を名乗った。
「はじめまして。三年の有栖川優馬です」と。
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