一番の恋~俺の何がいけないんだ~

桜野結

男の視点 俺の何がいけなかったの?

 なんでだよ。なんであいつ、あんな奴が好きなんだ?


 俺はさ、あいつに尽くして尽くして、いつだって優しくしてきたのにさ。風邪引いたときは熱が出ようが、夜中にコンビニまで栄養ドリンク買いに行ったり、誕生日だってサプライズでプレゼント用意して、あいつが欲しいって言ってたブランドのアクセサリーまで手配した。あの日、彼女の顔に広がった驚きと喜びの表情は、今でも忘れられない。まるで世界が彼女の笑顔だけで明るくなるような、そんな瞬間だった。


 いつも、あいつの話を聞いて、あいつが笑ってくれるように、気を使ってた。彼女が最近ハマっている映画の話を聞いたときなんて、俺はわざわざその映画を見に行って、感想を共有した。そうすると、彼女の目がキラキラと輝いて、嬉しそうに笑ってくれた。その笑顔を見たとき、俺はこの努力が報われたと思った。でも、そんなんじゃ足りなかったのか?


 そりゃあさ、見返りを求めちゃいけないって言うのはわかってるよ。でも、俺だって人間だ。何かしらの返答が欲しかったんだよ、ちょっとぐらい好意を向けてくれてもいいだろ?あいつの視線が他の男に向いているのを見るたびに、胸が締め付けられる。あいつの心の中で、俺はどの位置にいるんだ?大事な存在なのか、ただの友達止まりなのか。そんな疑問が頭をぐるぐる回る。


 それがさ……結局、あいつは俺じゃなくて、あの冷たくて無愛想な男を選んだんだよ。あいつはいつも無表情で、彼女をちっとも気遣わないような男だ。どうして、ああいう男に惹かれるのか、全然理解できない。


「やっぱり、お前が1番だよ、って言ってくれたの」


 嬉しそうに話してた彼女の笑顔が浮かぶ。その言葉を聞いた瞬間、まるで心臓を刺されたような衝撃が走った。「お前が一番」なんて、軽い言葉だ。


 絶対、それ2番いるから!

 

 心の中で叫んだ。なんで彼女はその言葉を嬉しそうに受け取ってるんだ? "1番"ってことは、他にも順位つけられてるってことだろうが。俺だったらそんな言い方されて喜ばない。でも、彼女は違うんだ。あいつのことを信じて、笑顔で話してた。


 俺がどんなに尽くしても、どんなに優しくしても、結局はそんな言葉で簡単にあっちに転ぶ。俺の気持ちはなんだったんだよ。俺がいつだって側にいて、手を差し伸べたのに、彼女は冷たい男を選ぶんだ。


 「ちくしょうあの爆乳女!」


 そう思ってるうちに、勝手に口から言葉がこぼれた。言った瞬間、周りの空気が少し止まったのを感じたけど、今更後戻りはできない。心の中のモヤモヤが暴走して、抑えきれなかったんだ。


 隣で聞いていた友達が、吹き出すように笑い出した。


 「爆乳女って、男にとって長所じゃね。」


 友達がニヤニヤしながらそう言った瞬間、俺は無意識に拳を握りしめてた。冗談で言ってるんだろうけど、なんだかその軽口がやけにイライラする。


 「は? 長所とかそういう問題じゃねーだろ!」


 俺は声を荒げた。確かに、外見は魅力的かもしれないよ。だけど、それだけで誰かを選ぶのか? 俺がずっとそばで支えて、気遣ってきたことがそんな簡単に覆されるわけ?


 「いや、でもさ、冷静に考えてみろよ」友達は肩をすくめて、笑いをこらえながら言い続ける。

 「お前は優しくて、尽くすタイプだよな? それは確かにいいことだし、悪くない。ただ、女ってのは、たまに不安になりたいんだよ。『この男、手に入るかどうかわからない』って思わせるようなやつに惹かれるってのもあるんだよな。」


 「……そんなの理不尽すぎるだろ」


 俺は呟いた。だって俺は、彼女が安心して頼れる存在でいたかったんだ。冷たい奴より、あいつを大事にしてやれるのは俺だって、ずっと信じてたんだよ。


 「理不尽? そりゃそうだよ。恋愛なんて大抵理不尽だ。特にお前みたいに全力で突っ込む奴にはな」


 友達はそう言いながら、俺の肩を軽く叩いた。理不尽なんてわかってるよ。でも、それがわかったところで、何も変わらない。


 もやもやしてたら、俺を振ったばかりの彼女が現れた。


「あ、あの……ごめん、考えなおしたの。あなたがやっぱり1番だって気づいたの」


 その言葉を聞いて、頭が真っ白になった。さっきまで自分の中で渦巻いてたイライラとか、失望とか、全部吹き飛んでしまうくらい、彼女の言葉が俺を捉えた。


 彼女が一番だって言ってくれたんだ。俺のことを選んでくれたんだ。もう冷たい男のことなんて、忘れてくれたんだろうか? 俺は、彼女を信じていいんだろうか?


 「……本当に?」


 俺はぎこちなく問い返した。そんな簡単に気持ちが戻るなんて、にわかには信じられなかったからだ。


 「うん、本当。あのときは冷静じゃなかったの。あなたが私にしてくれたことを思い出して、それに、あなたがいつもそばにいてくれたこと……」


 彼女はまっすぐな目でそう言った。その瞳には、迷いがないように見えた。


 ……俺は、どうしようもないほど馬鹿なんだと思う。


 だって、さっきまであれだけ自分の中で怒りや悔しさがあったはずなのに、彼女の言葉を聞いた瞬間、全部消えてしまった。俺は、また彼女に尽くすんだろう。きっと、何も考えずに、彼女を笑顔にするために全力を尽くしてしまうんだろうな。


 「わかった、俺も……やっぱりお前のことが――」


 そう言いかけたとき、横で友達がぼそっと呟いた。


 「……2番もいるぞ」


 その一言に、俺は立ち尽くしてしまった。


 彼女の「1番」って言葉が、俺の胸の奥に刺さっていたのに、友達のあの言葉が、同じくらい深く心に響いた。


 俺は何を選ぶべきなんだろう。

 

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