マッチングアプリ

@scissorjj

第1話  二次元にいそうな綺麗な顔の男

キャリアウーマン、美咲。43歳の彼女にとって、恋愛は遠い昔の出来事となりつつあった。仕事は充実している。だが、ふとした瞬間、孤独が胸を締めつける。その隙間を埋めるかのように手にしたのは、マッチングアプリ。歳を重ねた今でも通用するのかという不安を抱えつつ、彼女は勇気を出してアプリを開く。


運命の出会いは、思いがけない早さで訪れた。38歳のイケメン、翔太とマッチした瞬間、美咲の胸は高鳴った。プロフィール写真に写るのは、洗練されたスーツ姿と爽やかな笑顔。「僕の彼女だよ」とまだ会ってもいない彼から言われたその言葉に、美咲は夢中になってしまった。


メッセージのやり取りはスムーズに進み、まるで二人はすでに恋人同士のようだった。翔太は「ホテルの掃除の仕事をしているんだ」と控えめに語り、美咲も自身が手掛けるインテリア関係の仕事について少し話した。毎晩のやり取りは、美咲の心を満たし、どんどん彼への期待は膨らんでいく。ついに、デートの約束が決まった。


場所は難波のスターバックス。金曜日の夜19時。京都郊外に住む美咲は、仕事を終え、急いで電車に飛び乗った。少し早めに到着し、18時にはスターバックス近くのカフェで一息。コーヒーを飲みながら、念入りに化粧を直し、期待感と緊張感で胸がいっぱいだった。


だが、18時30分になって翔太からのメッセージが届いた。


「次の仕事が早まりそうなんだ。お店で待ち合わせでいい?」


少し違和感を覚えた美咲だが、デートの期待感に押され、言われた通り指定された場所へ向かう。しかし、たどり着いたのは、薄暗い雑居ビル。周りには、ネオンで輝く夜の店が立ち並んでいる。嫌な予感が一気に胸をよぎった。


「ここで本当にいいの?」そう思いながら、美咲は翔太にメッセージを送る。すると返事が返ってきた。


「君、ホストに興味ある?お店に来てくれない?」


その瞬間、美咲の全身が凍りついた。まるで夢の中で現実に引き戻されたかのような感覚だ。信じられない言葉が脳内をぐるぐると巡る。ホスト?お店?あの爽やかで優しげな笑顔の裏に、こんな世界が隠されていたのか。


突然、現実に引き戻された美咲は、深い失望と怒りに駆られながらメッセージを打った。


「ごめん、気が向かないから帰るわ。」


心にぽっかりと穴が開いたような感覚。楽しい未来を夢見ていたはずの夜が、たった一言で崩れ去った。雑居ビルの前に立ち尽くす美咲は、冷たい秋風に吹かれながら、動けなくなっていた。時間が止まったかのように。

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