第34話
裁判ともなれば、不貞の証拠が記録にも残り、一生の汚点になる。調停や裁判も辞さないという沙羅からの強い意志表示に、「もう、離婚届に名前を入れるしかないのだろうか」と、政志は大きくうなだれた。
「やはり、許してもらえないのか……。でも、俺と別れたら、頼れる人も無くて、この先どうやって生きていくんだ。それに、美幸の事はどうするんだ」
「もちろん、美幸の事が一番大事よ。でも、そのために不倫を無かった事にはするつもりはないの。だから、けじめとして籍は抜く。美幸の親権も譲らないわ」
沙羅は、覚悟を決めたようにスッと背筋を伸ばし、大きく息を吸い込んだ。
「ただ、夫婦としての籍は抜くけど、旧姓には戻さないで、このまま佐藤姓を名乗るつもりよ」
両親が鬼籍に入っている沙羅の元の戸籍は除籍になっている。どのみち新たに戸籍を作らねばならない。
「えっ? どういう意味だ」
「わかりやすく言えば、籍は抜くから、離婚。だけど、事実婚に近い状態で暮らすの。美幸のためにも表面的には半年間は今まで通りで……中学受験には両親揃っての面接だし、美幸の精神的安定にも別居は難しいでしょう? 中学受験が終わったら、その時の状況で再構築か、別居か、また話し合って決めたいと思っているわ」
離婚届けに記入すれば、それでお互いの道が分かれてしまうものだと思っていた政志だったが、まだ、再構築への道が残されている事に一縷の望みを見出す。
「沙羅……許してくれるのか?」
「勘違いしないで政志さんのことを許したわけじゃないのよ。もちろん、離婚するんだから慰謝料や財産分与の請求するわ。でも、美幸の事を考えたら、この選択が一番のような気がして……」
そう、本意では離婚して、政志と離れて暮らしたい。けれど、一人娘の美幸の事を考えれれば、両親が揃っているのベスト。特に美幸の目指している学校は受験時に両親揃っての親子面接がある学校だ。
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