第32話

「俺の軽率な行いで、嫌な思いをさせて、本当に悪かったと思ってる。でも、けして沙羅を軽く扱っては居ない。感謝もしているし、誰よりも大切に思っている」


「ウソつかないで、誰よりも大切に思っていたら、私を裏切ったりしないはずよ。それに、私には贈った事も無い高価なプレゼントを彼女には贈っていたじゃない」


その指摘に政志は、視線を泳がせた。


「そ、それは……」


「女として、魅力が失くなった私より、若くて可愛い彼女に価値を感じたんでしょう」


沙羅は、テーブルの上に置いた手をギュッと握り込み、今にも泣き出しそうに瞳を潤ませながら微笑む。

悲しみに満ちた微笑みを、政志は直視出来ずにいた。


「ち、違う。沙羅をそんな風に思ったわけじゃない。俺は、ただ……若いに言い寄られて、舞い上がってしまっただけなんだ」


「それで、バレなきゃ不倫してもいいって、思ったんだ。……それとも、バレても泣きつく実家が無い女なんて、言い包めればどうとでもなるって、思った?」


「そんな事は、思ってない!」


「じゃあ、何で不倫したのよ! 結局、政志は私の事を甘く見ているから、平気だと思って不倫したんでしょう」


叫ぶように言葉を吐き出すと、堪えきれずに涙が溢れた。

沙羅は、頬を濡らす涙を手のひらで拭い、唇を一文字に引き結ぶ。

そして、気持ちを落ち着かせるように、肩で大きく息をつくと、茶封筒に手をかけた。


その中から出された一枚の紙は、白地に緑色の縁取りがされている。

政志が恐れていた「離婚届」だ。


「沙羅……」

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